“伝説のディーラー”と呼ばれた藤巻健史氏は、日銀が決定した追加の量的緩和策に関していつまで赤字を垂れ流し続けるのかと憤りをこう語る。

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 その昔、「党首討論での麻生さんの会話は『少なくとも』『いわゆる』『等々』『基本的』の四つの単語のみで構成されている」という皮肉っぽい新聞記事があった。「なんだ、麻生さんも、『円安』『ハイパーインフレ』『財政破綻』『自己責任』の四つの単語のみで話をする私と同じなんだな」と思ったから、この記事のことをよく覚えている。しかし単語が四つあるからまだ良い。10月28日、参議院財政金融委員会で15分間、私が黒田東彦(はるひこ)日銀総裁に質問をしたときは、なにを聞いても返ってくる言葉は「時期尚早」の一つだけだった。「Mr.時期尚早」のニックネームを献上したいほどだ。

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 10月29日、米連邦準備制度理事会(FRB)は量的緩和第3弾に伴う資産購入を終了することを決定した。

「量的緩和の終了」と報道したマスコミが多かったがこれは違う。

 昔は、どの国の中央銀行も金利を上げたり下げたりして金融調整を行っていた。伝統的手法という。このときの中央銀行のバランスシート(B/S)の規模はほぼ一定だ。

 ところが、景気浮揚策として金利をゼロになるほど下げてしまった日米の中央銀行は、窮余の策として国債を中心とした債券等を大量に買い始めた。その結果、お金が世にばらまかれていった。量的緩和の開始だ。

 伝統的手法との大きな違いは、中央銀行のB/Sの規模が膨大化してしまうということだ。10月29日にFRBが決定したのは膨大化した資産規模を、「もうこれ以上膨大化させませんよ」という決定に過ぎない。

 体重65キロの私が毎年、体重を30キロ、20キロ、10キロ、5キロと増やし続け、130キロとなった5年目は体重が増えなかったとする。29日にFRBが決定したのは「130キロ以上に体重を増やしませんよ」ということと同じなのだ。「健康体に戻った」というのは、昔の適正体重65キロに戻ったときに初めて言える言葉である。同様に「量的緩和の終了」とは、量的緩和開始時のB/S規模まで戻したときに初めて言える言葉なのだ。

 米国中央銀行は資産の拡大を止めた。フリードマンの言うところの「ヘリコプターから紙幣をまく」のをやめたということだ。

 財政改善で新規国債の発行額が減ったうえに、自国通貨のドルが基軸通貨だから外貨準備の意味で外国政府が米国債を買ってくれる。FRB以外の買い手がいるからできたことである。

 10月28日に私が黒田総裁に聞いたのは、FRBと同じように日銀もB/Sの拡大を止められるか? ということだった。その答えが、「方法を公表するのは時期尚早」「時期尚早」「時期尚早」だったのだ。

 政府が毎年四十数兆円の赤字を垂れ流しているから、毎年四十数兆円の赤字国債が発行される。日銀以外買い手がない現状では、政府が破産しないために日銀が国債を買い続けなければならない。超大口購入者がいなくなれば値段が急落(長期金利が急騰)するから、その意味でも日銀が国債を買い続けなければならない。

 ヘリコプターから未来永劫にまき続けられる円と、もうこれ以上はまかれないドル、どちらに価値があるかは自明だと思う。円安ドル高は大いに進むだろう。そしてハイパーインフレのリスクはますます大きくなっていくと私は思うのだ。

週刊朝日  2014年11月14日号

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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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