南越谷健身会クリニックの受診室で周東医師の診察を受けるA子さん夫婦。「調子はどう?」という問いかけに、A子さんは「元気です」とはきはき答えた(撮影/写真部・大嶋千尋)
南越谷健身会クリニックの受診室で周東医師の診察を受けるA子さん夫婦。「調子はどう?」という問いかけに、A子さんは「元気です」とはきはき答えた(撮影/写真部・大嶋千尋)

 70代の母親の様子がおかしいのですが、病院に連れていけないまま、もう2年が過ぎてしまいました──。

 認知症の支援団体「認知症の人と家族の会」東京都支部の代表、大野教子さん(63)が最近、40代の女性から受けた相談だ。

 その女性は両親と離れて住んでいるが、実家に顔を出すたび母親が食品を腐らせていたり、同じことを繰り返したりするので、認知症を疑ったという。だが、それとなく母親に伝えても、「何ともない」と突っぱねられる。父親は諦めた感じで「もういいよ」と言う。病院での受診ができないまま、月日ばかりが過ぎてしまったというのだ。

 大野さんはこの女性に、

「お父さんに協力してもらって、お母さんと一緒にかかりつけ医に行き、医師に夫婦で脳ドックを受けるよう勧めてもらってはどうですか」

 と提案した。女性は一人娘で、今後の介護で両親から頼られる存在になる可能性が高い。そのため、女性と両親との信頼関係が壊れないよう、周りの人の力を借りる必要があると判断したからだ。

「認知症の人と家族の会」は全国に1万人の会員がいる。1980年に設立以来、家族などからの認知症に関する電話相談に応じている。

「認知症の疑いがある人をどうやって病院に連れていけばいい? そんな相談は以前から多いんです」と大野さんは言う。

「82年から2011年までの相談で最も多いのは『介護の方法や精神的援助』について(49%)ですが、次いで多いのが『受診希望』(17%)、つまり病院に連れていきたいがどうしたらいいかといった、家族の悩みなのです」

次のページ