“鬼才”と呼ばれ、厳しい演技指導で知られる映画監督の園子温さんと、その作品で開花した女優・神楽坂恵さんのカップル。お会いしてみると作品のイメージとは違い、優しくロマンチストな夫とサッパリ気質の妻、という印象だ。3年目となる結婚生活は、愛とサプライズにあふれているようで……。

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夫「出会いは2009年。共通の友人の紹介です。下北沢のバーに呼び出されて行ったら彼女が来て。あ、キレイな人だなと思った」

妻「あらっ(笑)。ありがとうございます」

夫「女優さんだと聞いて『今度、僕の映画に出てください』って言ったんだ。それも2本。僕、普段そういうこと言わないんですよ。珍しいこと言うなと自分でも思った。それに当時は僕、まだヒマだったからボクシングをやりだしていて、お酒を一滴も飲んでなかった。だから酒の席でのノリとかではないんです」

妻「私は周りの人から『監督はお酒飲んで暴れるよ』とか、『気をつけなよ』とか言われていて。でも会ってみたらお酒も全然やらないし、雰囲気がクールで静かでイメージと違っていた。でも映画に出ないかと言われても、すぐに『はい』とは言えなくて」

夫「いつも女の子に会うたびにそんなこと言ってんじゃないか、って」

妻「普通、警戒しますよね」

夫「そんなのいちいち言ってたらきりがないから、言わないよ」

 
 夫は17歳で詩人としてデビューし、インディーズ映画界で人気を誇ってきた。妻と出会ったのは映画「愛のむきだし」で一躍メジャーになったころだ。一方、妻は美容師を志すも、シャンプーの際に105センチのバストが邪魔になり、断念。スカウトされてグラビアタレントになり、女優を目指していた。

妻「監督の作品は以前から見ていました。実は出会う2年くらい前に、子温さんが監督して私が初めて脱ぐ、という企画があったんです。その企画は結局流れてしまったんですが、すごく残念で、なんだか勝手に“失恋”した気持ちになっていたんです。そんなとき本人に会って『愛のむきだし見た?』って言われて。『まだ見てないです』『じゃあDVD貸すから』と。それでメールで連絡を取るようになった」

夫「でもちゃんと付き合うまでは、だいぶ時間がかかったよね。まあいままではナイショにしていたけど、『冷たい熱帯魚』を撮る直前くらいには、告白してた」

妻「あ、それ言っちゃうの?(笑)」

夫「もういいじゃん。でも当時、彼女はグラビアタレントから女優になる途上だったんで、女性として愛してるとか以前に『この映画で明確に印象づけてやろう』という“愛”のほうが強かった。現場で厳しくして、いまでは悪かったなあと思うけど」

妻「きつかったですよ。でも怖いというより『嫌われたくない』という意識が強かったですね。付き合っているからこそ、女優としてダメだったら全てが壊れる、と思っていた」

 夫が撮った11年公開の映画「冷たい熱帯魚」と「恋の罪」で、妻は見事に複数の映画祭の助演女優賞を受賞。そのころ、夫は満を持してプロポーズを計画する。演出の懲りようは、さすが監督というか……。

 
夫「『リトル・ロマンス』というハリウッド映画があるんです。ラストで主人公たちが、ベネチアのゴンドラの上で夕暮れの鐘が鳴るなかキスをして永遠の愛を誓う。僕はそれがやりたかったの。それにはまず、そのとき撮っていた『ヒミズ』でベネチア映画祭に行かなきゃいけない。撮影前から主演の染谷(将太)君と二階堂(ふみ)さんに『ベネチアで賞取るから』って言ってあったんです。小道具の人に『役に必要だ』って嘘ついて、彼女の指輪のサイズを測らせたり」

妻「全然気づかなかった」

夫「けっこう、ぼんやりした子なんで(笑)。で、見事ベネチアに行くことになって、でも映画祭なんてどうだっていいの。とにかく早く、夕方のゴンドラのシチュエーションを作んなきゃなんないから」

妻「向こうでのインタビュー中もずっと、『俺、ゴンドラ乗りたい、ゴンドラ乗りたい』って」

夫「なんとかスケジュールどおりにゴンドラに乗って、うまく教会の鐘が鳴るようなタイミングにして……で、指輪のケースを取り出してパッと彼女の目の前で開けたら、指輪がなかった! 『落としたんか~!?』って焦ったら、ケースを裏返しにして開けてた(笑)」

妻「ふたの側に指輪がついてて」

夫「そしたら彼女がポロポロ泣きだして。大成功ですよ。上下間違えた以外は」

妻「もうびっくりして。そんなにいろいろ計画するタイプだとは思わなかったから、ロマンチックだなあと。この間も私の誕生日にサプライズでケーキを買ってきてくれたんだよね。でも、台所の扉がすこ~し開いてて……」

夫「奥でコソコソとロウソクに火を付けてるのが丸見えだった(笑)」

週刊朝日  2014年7月25日号より抜粋