脱法ハーブのパッケージ(奥)と植物片(手前)。左の小瓶は液状の脱法ドラッグ (c)朝日新聞社 @@写禁
脱法ハーブのパッケージ(奥)と植物片(手前)。左の小瓶は液状の脱法ドラッグ (c)朝日新聞社 @@写禁

 歩道に突っ込んだ車は次々と人をはね、ポストをなぎ倒し、電話ボックスにぶつかって大破した。運転手の意識はすでに混濁しており、だらりと口を開けてヨダレを垂らしていた──。

 6月24日夜に東京・池袋駅西口の繁華街で起きた車の暴走事故は、女性1人が死亡、7人が重軽傷を負う大惨事となった。車を運転していた名倉佳司容疑者(37)は警視庁の調べに、「脱法ハーブを吸った」と答えており、26日、危険運転致死傷の容疑で送検された。

 脱法ハーブとは、麻薬や違法な指定薬物に該当していない化学物質を、植物片にまぶしたドラッグのこと。燃やして煙を吸引すれば、大麻や覚せい剤に似た興奮や陶酔感を得られるが、その影響で多くの事件が起こっている。

 2013年に厚生労働省が実施した「薬物使用に関する全国住民調査」によれば、脱法ドラッグの推計経験者数は約40万人にも上る。

「気軽に吸っているやつは多いけど、最近の商品は危ない。いろんな違法ドラッグを経験した人間が、『脱法のほうが怖い』って言っている」(ドラッグ事情に詳しい飲食店経営者)

 国立精神・神経医療研究センターの舩田正彦研究室長がその危険性を指摘する。

「ここ数年、複数の化学物質を混ぜて添加している商品が増えており、かけ合わせによっては、非常に危険な作用が引き起こされる。意識を失うだけではなく、体温が上がりすぎたり、動悸がしたりと、死に直結するリスクも考えられます」

 ルポライターの鈴木大介氏も警鐘を鳴らす。

「同じ商品でも成分にバラつきがあると言われており、どんな効果を引き起こすかわからない。使用者は危険な人体実験を繰り返しているのと同じ状態です」

 13年、厚労省は化学構造が似た物質をまとめて規制できる「包括指定」制度を導入したが、販売業者はその網をかいくぐり、新商品を発売し続けている。“いたちごっこ”は終わらない。

 薬物問題に詳しい小森榮弁護士は、法規制以外にも対策が必要だと語る。

「今後は『危険なものには手を出すな』という消費者教育が大切です。短時間で解決できない難しい問題なだけに、事件や事故を起こした商品名、その経緯などを詳細に公開し、社会全体でリスクに対する正しい知識を持つことが撲滅への第一歩になります」

 脱法とは名ばかりで、その危険度は違法ドラッグ以上。なぜ吸ってはダメなのか、まずは知ることが必要だ。

(本誌取材班)

週刊朝日  2014年7月11日号