10代のころから第一線で活躍され、黒澤明監督をはじめとする巨匠の教えを受けたという女優の原田美枝子さん。作家の林真理子さんとの対談で、黒澤組の撮影現場について語った。
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林:黒澤監督の現場って、やっぱり違ってました?
原田:なにがおもしろかったっていうと、準備にものすごく時間をかけるんです。本番が始まるまで4カ月ぐらいリハーサルをするんですけど、その分、本番では早いんです。午前中に終わったりして。
林:そうなんですか。
原田:衣装合わせで本番用の衣装を着せてもらって、本番用のメークをするんですが、最初に衣装を着たときには、「原田くーん、衣装に着られてるよー」って。
林:えー!
原田:緊張のピークに達しているんですけど、文句なんて言えませんから。今度はセットに入るんですけど、これも立派なんですね。で、「原田くーん、セットに負けてるよー」って(笑)。そこでまた一つ気持ちを大きくしなくちゃならない。そうやって微調整しながらリハーサルをして、なじませていくんです。
林:黒澤監督に指導を受けた女優さんということで、若い監督さんや俳優さんからは、敬意をもたれるんじゃないですか?
原田:いえ、最近の若い方は、黒澤さんの作品をあまり見ていないんですよ。外国の映画人は教科書のように黒澤作品を見てるんですけど、日本では見てる人が少ないんです。
林:ほんとですか。若い人たちはどうやって勉強しているんですか。
原田:現場だけになっているのかもしれませんね。
林:ちょっと教えてあげようか、なんて思うときあります?
原田:というより、黒澤さんの現場を体験させてあげたいなと思います。あの現場を体験したら、みんな喜ぶだろうなと。
※週刊朝日 2014年5月9・16日号より抜粋