[遠野→上有住(かみありす)]遠野駅を出発して間もなくの場所にある“煙かぶり”ポイント。釜石線と交差する釜石街道から撮影した一枚だ。陸橋には煙と煤(すす)を全身で浴びた「撮り鉄」や地元の人たちの笑顔が溢れていた(撮影/写真部・東川哲也)
[遠野→上有住(かみありす)]
遠野駅を出発して間もなくの場所にある“煙かぶり”ポイント。釜石線と交差する釜石街道から撮影した一枚だ。陸橋には煙と煤(すす)を全身で浴びた「撮り鉄」や地元の人たちの笑顔が溢れていた(撮影/写真部・東川哲也)
越喜来(おきらい)湾を背景に走る三鉄列車。甫嶺(ほれい)駅を出てすぐの県道9号線から西側に向かう脇道に撮影ポイントがある(撮影/写真部・東川哲也)
越喜来(おきらい)湾を背景に走る三鉄列車。甫嶺(ほれい)駅を出てすぐの県道9号線から西側に向かう脇道に撮影ポイントがある(撮影/写真部・東川哲也)
[唐丹→吉浜]まっすぐに伸びる線路の奥で、ぼつりと輝く三鉄列車の灯火。地元住民に安心感と勇気を与える、復興の象徴だ(撮影/写真部・東川哲也)
[唐丹→吉浜]
まっすぐに伸びる線路の奥で、ぼつりと輝く三鉄列車の灯火。地元住民に安心感と勇気を与える、復興の象徴だ(撮影/写真部・東川哲也)

「ふぉー」。野太い汽笛の音が遠くで聞こえる。振り返ると、はるか後方から狼煙(のろし)のようなか細い白煙が見える。しばらく立ち止まっていると、「シュッシュッシュッ」と力強いドラフト音が近づいてくる。わずかに見えていた白煙が目の前に迫って、もう一度、「ふぉー」と汽笛の音が聞こえたと思ったら、轟音とともに蒸気機関車が目の前を通り過ぎていった。

【「復活」列車の旅、フォトギャラリーはこちら】

 蒸気機関車「C58 239」。1940年に製造され、廃車後は岩手県営運動公園で展示保存されていた。その蒸気機関車を、今年4月、JR東日本が「観光による復興」をテーマに約40年ぶりに復活運行させた。「SL銀河」と名付けられ、JR釜石線(花巻―釜石間、90.2キロ)を土曜(花巻→釜石)、日曜(釜石→花巻)の土日祝日を中心に運行する。

 花巻駅から終着駅の釜石駅まで約4時間半の鉄道旅。沿道にはSL銀河を一目見ようと詰めかけた観光客や地元住民たちの手を振る姿が目立つ。宮城県気仙沼市から親子4人でSL銀河に乗りにやってきた鈴木さん。

「自分たちに手を振ってくれているみたいで元気が出た。頑張らないと」

 石炭の匂い、蒸気の音、風にたなびく白煙。その全てが東北の人々にエールを送っているようだった。

 釜石駅でSL銀河と別れた後は、今年4月5日に全線復旧した三陸鉄道(三鉄)南リアス線(釜石―盛間、36.6キロ)に乗り継いで、盛駅まで約1時間の鉄道旅へ。迫力満点だったSL銀河から一転して、1両編成の車両は、なんだか可愛らしい。

 昨年4月に「吉浜―盛間」が部分開通して丸1年。三鉄は震災からたった3年で全線復旧を果たした。三鉄の社員に話を聞くと、「完全復旧は絶対に無理だと思った。それほど震災がもたらした被害は大きかった」。

 なるほど。三鉄が鉄道ファンを中心に広く支持されるのは、震災から復旧を果たした道のりにこそあるのかもしれない。出発を待つ間、そんなことを考えていると、列車が動きだした。

 満開の桜が咲きほこる釜石の街を眺めようと、車窓に視線を移す。すると、すぐに目の前が真っ暗に。南リアス線は終着駅の盛駅までの道中で、20本弱のトンネルを通過する。乗り合わせた釜石市在住の山根さん(50代)は、ほほ笑みながら、「まるで地下鉄みたいでしょう」。

 風光明媚なリアス式海岸の絶景ポイントは、「唐丹(とうに)―恋し浜間」の約20分間に点在する。トンネルとトンネルの間の数十秒間に姿を現す絶景もあって、油断していると、うっかり見落としてしまうかもしれない。

 終着駅の盛駅に到着して、今度は釜石駅まで南リアス線を北上する。沿線の夜は早く、辺りは暗闇と静寂に包まれる。

 南リアス線は警笛が多い。運転士に話を聞くと、「トンネル進入時にも警笛を鳴らします」。震災以前から三鉄を利用している、大船渡市在住の遠藤さん(60代)。「全線復旧して沿線の住民に警笛が届くようになった。『日常が戻ってきた』と、安心する住民も多い」。

 人と物と「思い」を乗せて走る二つの鉄道。その魅力は尽きない。

週刊朝日  2014年5月9・16日号