NHK大河ドラマ「軍師官兵衛」で主役・黒田官兵衛を演じる岡田准一さん。ストーリー上大切な場面を撮り終え、そのときの苦労を明かす。

「ぼくは小さいときから歴史が大好きで、特に司馬遼太郎さんの本は『竜馬がゆく』から始まって、『燃えよ剣』『義経』『峠』『坂の上の雲』など代表作はすべて読んでいます。とにかくおもしろいし、ぼくの歴史の定説をつくってくれた人だと思っています。

 黒田官兵衛を描いた『播磨灘物語』も、ずいぶん昔に読みました。司馬さんの作品はいつも、その時代を浮かび上がらせてくれるし、描写が深い。戦国時代の戦は、官兵衛のころから戦場の幅が広がり、規模も大きくなっていきました。その地点の戦を見るだけでなく、司馬さんのように俯瞰(ふかん)して見ていかないと、歴史の本質が見えてこないような気がします。

 官兵衛はあるときから戦を見る目が変わってきました。特に荒木村重を説得しようとして土牢(つちろう)に1年以上も幽閉され、奇跡的に仲間に救い出されたときからだと思います」

 岡田さんの歴史好きは有名で、芸能界に入らなければ学校の歴史の教師になりたかったそうだ。史実に詳しくこだわりもあるが、今回はエンターテインメントだし、官兵衛の魅力をとことん出したいという。

「有岡城の幽閉の場面の収録が終わったばかりで、とにかく本当に疲れました。幽閉される土牢のサイズは小さくて狭く、その上ジメジメしていて、前半の元気なころは壁をたたいたり、足で壁を蹴ったりしていました。身動きも自由にできないので、監督からも、『岡田さんなりに官兵衛を自由にやってください』と言われていました。長い幽閉でしたが、いつか家臣たちが救いにくると信じていました。土牢に藤の花が咲いていたのは、黒田家の家紋が藤巴になったのですから、史実だと思います。

 このドラマの中でとても大切な場面ですからスタッフの気合はすごく、熱かった。

 荒木村重は官兵衛を何とか殺さずに毛利側につけたいと何度も説得したと思います。しかし、官兵衛は毛利勢力より信長が勝つと思っていたからでしょう。土牢の中は狭くて寒い。十字のように土牢に入ってくる光に手を合わせて精神を集中した。その場面では祈っているように見えたらいいなと思っています」

岡田さんは似顔絵を描くのが得意だ。共演者やスタッフの顔を描くが、現場では「特徴をつかんでいる」と評判だという。

「有岡城に幽閉されるまでの官兵衛は若さを前面に出して演じていました。一見楽そうですが、若いときを演じるのは苦しい。また老年になるとしんどくなりますが、幽閉から救出されてからの官兵衛は人が変わったと言われるほど無口になり、軍師として成長していくところなので演じるのが楽しみです。幽閉で顔にはあざが現れ、脚を痛めて引きずって歩きますが、ときには脚をバンとたたいて馬に乗ったっていいと思っています。

 これからが、いちばん自分の思ったとおりの官兵衛を演じられる。視聴者に喜んでもらえる官兵衛を演じたいと思っています」

週刊朝日  2014年4月18日号