小山薫堂さんの事務所受付兼カフェの壁に描かれている水丸さんの4コママンガ。ふらっと来て、描いていったという(撮影/写真部・慎芝賢)
小山薫堂さんの事務所受付兼カフェの壁に描かれている水丸さんの4コママンガ。ふらっと来て、描いていったという(撮影/写真部・慎芝賢)

 放送作家・脚本家の小山薫堂氏は、71歳でこの世を去ったイラストレーターで作家の安西水丸さんの生き方に憧れていたと語る。

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 最初にお会いしたのは25年ほど前。大学時代、原宿で店を出していて、そこにミニギャラリーのようなものを作るため、バナナの絵を描いてもらった。つても何もない僕は、飛び込みで青山のオフィスを訪ね、少しだけ会話したのですが、第一印象は「物静かで怖い人」。

 次にお会いしたのはWOWOWの映画番組での共演が決まったときです。実は僕はあることがずっと心に引っかかっていて、いつか謝らなければ、と思っていた。先のバナナの絵に関してで、実はあまりにもすてきだったから、本人に無断でTシャツにプリントして販売したんです。バナナを別の色に変えたりして、完全に著作権侵害。番組の顔合わせの際、真っ先に謝罪しました。水丸さんは笑って許してくれました。

 番組では水丸さんは映画のイラストを描き、それに僕が言葉をつけるんですが、ときどき本筋とはまったく関係ない絵を描いてくる。僕が「もっと大切なシーンを」とか「誰を描いているか分からない」と皮肉ると、水丸さんは「だって描きやすいんだ。この人物」って(笑)。水丸さんらしい。

 水丸さんは、僕から見ると大人の心を持った少年です。子どものようにはしゃぐし、いろんなことを楽しむ。かといって決してピュアじゃない。ときには毒を吐くし悪口だって言う。でも、そこに愛情があるから人が集まってくるんです。

 年齢は20歳ぐらい違いますが、水丸さんの生き方を見て勇気をもらったし、こんな大人になりたいと強く思えるようになった。こんな楽しそうに生きられるのなら、この先の人生悪くないな、と。

 それにしても、突然すぎます。お願いしていたイラストの仕事、まだ残っています。飲んでいただきたい日本酒プロジェクトも進行中。春になったら鎌倉山で一緒に花見をしようって約束したばかり。いろんなことが果たせないままでいなくなってしまって、困ったなぁ~。

週刊朝日  2014年4月18日号