童謡「ぞうさん」や「一ねんせいになったら」などで知られる、詩人のまど・みちお(本名・石田道雄)さんが2月28日、老衰により東京都稲城市の病院で亡くなった。童謡や合唱曲、絵本、詩集などさまざまなジャンルで2千編以上もの詩を残し、日本中で愛された偉大な詩人は、104歳で逝った。
親交があった山口・周南市美術博物館の館長、有田順一さんが思い出を振り返る。
「9歳のころに見た徳山湾の夕日を、『真っ赤ですごく奇麗だった』とおっしゃったことが印象に残っています。遠い昔の出来事を昨日のように語る姿を見て、子供のころの感受性を持ち続けている方だと思いました」
まどさんは5歳から9歳の間、生活のために父母と兄妹が台湾へ移住してしまい、祖父母のもとに一人で残された経験がある。
「寂しく過ごした子供のころに、自然への鋭い観察力が育まれたと言われています。生き物の視点に立った詩から、勇気をもらいました」(有田さん)
「ぞうさん」には、「ぞうさん おはながながいのね そうよ かあさんもながいのよ」という一節がある。ここからは、「鼻の長さを卑下する必要はない。象は象として生きているから喜びがある」(前出の有田さん)といった、まどさんの生き物への温かなまなざしをくみとることができる。
長男の石田京(たかし)さんが家庭でのエピソードを語る。
「口で語るタイプではなく、態度で優しさを伝えてくれた父でした。勉強をしていると、夜中の2時や3時になっても、私が寝るまで黙って起きているんです。励ましだったのでしょう」
まどさんはつねに大きなスケールの視点で物事を見ていた。編集者として、『ぼくがここに』(童話屋)や『ぞうのミミカキ』(理論社)などの作品を担当した、市河紀子さんは語る。
「ふるさとについて、『自分たちは日本人ではなく、もっと言えば地球人でもなく、宇宙人なのです。だから、生まれくるところと死んでいくところは同じです』とおっしゃっていました。東京で亡くなられましたが、このたび、ふるさとに帰られたのだと思います」
前出の有田さんは、「まどさんは、『地球上のすべての存在は、動物から石ころまで、みなつながっていて、“ともにあるもの”だ』という視点を持っていたと思います。時空を超えた宇宙観は、その延長上につながっているものです」と解説する。
『宇宙のうた まど・みちお詩集(6)』(かど創房)などの本には、まどさんの宇宙観がまとめられている。
まどさんは2008年の暮れに体調を崩して、入院を始めた。09年の秋、100歳になる直前、こう語った。
「強いものも弱いものも、地球上にはありうるのです。たったひとり、自分ひとりで、人間は生きているわけではありません」
その優しさとスケールの大きさに感動する人がいるかぎり、まどさんの詩は歌われ、読まれ続けるだろう。
※週刊朝日 2014年3月14日号