人生で初めて断食に挑戦した俳優で演出家の河原雅彦氏。絶食の苦痛を覚悟していた河原氏だが、苦痛は意外なところにあったという。

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 さっ、断食紀行の続きでござい。

 昨年の暮れ、「ドブのように濁った頭をすっきりさせたい!」との一念で、伊豆高原にある某断食施設に単身乗り込み、6泊7日にわたる断食ヴァージンをズブリ!と貫通させてきた俺。

 さて、みなさま。突然ですが、“断食”にどのようなイメージをお持ちスか?

 あまりの空腹でお腹がグーグー鳴りやまず散々イライラした結果、フラフラ街を徘徊し、無闇矢鱈(むやみやたら)と人様の頭にかぶりつく……そんな“ほとんどゾンビ”なイメージではないっスか?

 えー、結論から言いますとね。全然へっちゃらです。こまめに水分さえ摂取してれば、空腹感にさほど苛(さいな)まれることなく数日間ぐらい余裕で送れます。これね、本っっっ当に意外だった! 気が滅入るどころか、毎日が清々しくて超快適。日中の過ごし方は、この施設の方針でウォーキングやら観光やら、とにかく普段の自分では考えられぬほど健康的だったのだけど、断食中の3日間、「腹減った?」って思ったことは一度もなくて。

 

 入所初日に受講したレクチャーによると、人間の体ってすっごい上手に出来ててね。しばらくなんにも食べないと、体内に蓄積された余分なものを自力でエネルギーに変換する力があるんだって。それが内臓脂肪だったり血中のコレステロールだったりするわけだから、まさに一石二鳥! ダイエットと血液サラサラ効果が一気に得られちゃう。血の巡りが良くなれば、自(おの)ずと疲労回復効果につながり、オイラのドブ頭もすっきり爽やか。おまけに長年酷使し続けてきた胃腸や肝機能を完全休養することで、免疫力やその働きまでもが飛躍的にUPとくりゃあ、いいこと尽くめも大概にしろい!!!と思わず叫びたくもなりますよ、どっかの小高い丘あたりで。

 けどね。断食で一番大変なのは食べない時じゃなくて、むしろ補食で食事を再開させた時。初回の重湯に始まって、じわじわ普通食への階段を上っていくのだけど、「もっと食わせー、もっと食わせー」って欲にまみれた信号を、脳がバンバン送ってくるんスわ! 断食中の達観した清々しさはどこへやら……あっという間に「プレイ~ン」を連呼するバタリアンと化すでゲス。そこにきてなまじ肝機能がUPしてるでしょ?

 ここで迂闊(うかつ)に食べ過ぎると、吸収力が良過ぎてリバウンドもハンパなく、急激な負担を内臓にかけてしまう……。断食の難しさと過酷さはここにあるのですな。なので、こうして東京に戻ってきても断食自体は遂行出来る自信があれど、健康的にもとの食生活に戻す自信は完璧にないっス、誰かに厳しく管理してもらわないと。そのための施設なんだなあ、と海よりふかーく実感したわけで。

 ま、もちろん個人差ありますがね、俺的にやって良かったです断食。日々の生活習慣の見直しにもなりましたしね。当初は、「御飯出さないのに立派な宿代取るのね」とか「サティアン的施設でおかしな宗教、洗脳されたらどうしよう……」とか思ってたけど、ホントすいません!! 俺がめちゃめちゃバカでした。この先も年1回はリピりたいと思います。

 断食ビギナーのみなさまよ、どうぞお気軽にご貫通あれ!

週刊朝日 2014年2月7日号