上海の日系企業で働く中国人労働者 (c)朝日新聞社 @@写禁
上海の日系企業で働く中国人労働者 (c)朝日新聞社 @@写禁

 中国の一方的な防空識別圏の設定で、日中関係は一触即発状態だともいわれる。この政治的な対立が、両国の経済関係にも悪影響を及ぼしかねないと、中国に拠点を持つ企業の危機感は深刻なはず――。そう思って取材を進めると、意外に経済人は冷静だった。

 中国での日系企業を支援するコンサルタントは、こう話す。

「報復措置を恐れる企業は多くはありません。日中間の揉め事は、年中行事みたいなもの。あまり重大に考えている人は少ないです」

 どうやら、現地で働くビジネスマンの意識と、日本国内で報じられる危機感との間には、かなりの「温度差」があるようだ。

 明治大学の関山健准教授(国際政治経済学)は、こう解説する。「大きな流れとして、日中間では政治がときに対立しても、経済は安定的に発展してきました。多くの日系企業が今後も中国を重要な市場と位置づけ、ビジネスを拡大していくでしょう」。

 しかしながら、経済誌などでは、日系企業の「脱中国依存」が加速していると報じられることも少なくない。その根拠のひとつに、中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)に対する日本の直接投資額を比較したデータがある。近年では、タイの洪水の影響が大きかった12年などの例外はあるが、ASEANが中国を上回る傾向が続いている。このため、投資額からは、確かに企業の中国依存度は低くなり、ASEANの比重が高まってきたように見える。

 だが、関山准教授は、「単純に『脱中国依存』と捉えるのは、かなり乱暴な議論だ」と指摘する。「対中国の投資額は、日本から中国へのお金の流れを表します。中国に拠点がある日系企業が現地で稼いだ利益をそのまま投資している分は、直接投資額には反映されない。一方のASEANには近年、多くの日系企業が新規の投資を直接振り向けています。だから、中国よりASEANのほうの投資額が大きく見えるのです」。

 この数字だけでは、「脱中国依存」が進んでいるとはいえないのだ。

週刊朝日  2013年12月13日号