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「そして父になる」がアカデミー賞候補になれない意外な理由

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カンヌで受賞。北米公開も予定されているのに…… (c)朝日新聞社 

カンヌで受賞。北米公開も予定されているのに…… (c)朝日新聞社 

 海外からも驚きの声が上がった。

 9月5日、米国の第86回アカデミー賞外国語映画賞の日本代表作品が発表された。選ばれたのは、辞書作りに情熱を注ぐ編集者たちを描いた「舟を編む」。カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞して話題になった「そして父になる」は“日本代表”を逃した。

 このことは、米映画専門紙「バラエティ」がニュースとして取り上げ、米映画業界のニュースサイト「Deadline Hollywood」が「賞の有力候補とされていたが、国内の選考で選ばれなかった」と評するなど、海外でも物議をかもした。

 なぜ選ばれなかったのか。

 日本国内でしか公開されていない「舟を編む」よりも、海外で評価の高い「そして父になる」のほうが“有利”なのではと思いきや、そう単純ではなさそうだ。

「『そして父になる』のテーマは、アメリカでは成立しないのでは」。映画雑誌「SCREEN」の元編集長で映画ライターの紀平(きひら)照幸氏はこう語る。

 同作品は、6年間育てた息子が、生まれたときに病院で取り違えられた他人の子であることを知らされた父親の苦悩や葛藤を描いた作品だ。この、「親子にとって血のつながりとは何か」というテーマが、アメリカでは共感を得られにくい、と言うのだ。

「アメリカは『養子国家』です。トム・クルーズは黒人の養子を、ブラッド・ピットは実子が生まれた後にも養子をもらっています。『エスター』(2009)というホラー映画は、3人目の子どもを死産した夫婦が養子を取る設定ですし、ほかにも養子にまつわる映画は多い。他人の子どもを育てることが普通であるアメリカでは、『そして父になる』の父親の悩みは理解されづらいでしょう」

 ならば、アカデミー賞の日本代表作品には、アメリカで理解されやすい作品が選ばれているということか。

 日本代表作品の選考委員は、映画監督や脚本家など映画にかかわる各職種の7人で構成されているが、現在、選考会のまとめ役である映画評論家の品田雄吉氏はこう語る。

「長年選考にかかわっていますが、どんな作品ならアメリカでウケて賞が取れるか、という意見は出たことがない。選考会では、自分にとってその作品が良かったかどうかという作品論を戦わせて、その後に多数決で作品を決定しています」

 つまり、あくまでも日本人である選考委員自身の視点で決めているということのようだ。

 国や文化が変われば、映画の見られ方も変わる。来年のアカデミー賞で、「舟を編む」は、どう評価されるだろうか。

週刊朝日  2013年11月1日号

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