京セラ創業者で倒産した日本航空(JAL)をわずか2年半で再上場させた、“経営の神様”稲盛和夫氏(81)。稲盛氏が考える立派な経営哲学とはどんなものなのか、話を聞いた。
―アベノミクス効果で少しは沸いている日本ですが、今後打つ手としては、何が重要でしょうか?
国民の意識改革が必要になると思います。国家は財政破綻への道を歩んでいるのだということを、経営者だけでなく、国民全体が認識しなくてはなりません。一人ひとりが危機意識を持ち、国や社会を再生させるための強い意志を持って、行動に移していくべきです。
―倒産したJALを3年で再生されたのも、意識改革の成果ですか?
最も重要な課題でした。二次破綻の可能性があるにもかかわらず、JALの幹部には、死に物狂いで再建しようという熱意が感じられなかった。ですから私は、倒産した事実を十分に認識させ、必死に努力して再生計画を達成しなくては、誰も助けてくれないのだ、と説きました。
―幹部だけでなく、全社一丸となって立て直すことが重要だとおっしゃっていましたね?
その通りです。自分たちの会社を、自分たちで守ることが肝要です。JALには、一握りの経営陣がいい加減な経営を長く続けたために、会社が倒産したのだと思っている従業員も多くいました。しかし、本当は自分たちにも責任があるのだから、今後は、従業員全員で自分たちの会社を守り、皆で力を合わせて会社を立派にしよう、そうすれば、自分たちも幸せになれるのだと叱咤激励していきました。
―会社が立派になれば幸せになれますか?
全従業員の物心両面の幸福を追求することが、会社経営の目的の一つだと考えています。幹部だけでなく、契約社員や派遣社員を含む全従業員に、自分たちが幸せになるためにも力を合わせて立派な会社をつくり上げましょう、と話しました。全員が一丸となって、燃えるような熱意で必死に頑張ったことが、JALが再建できた一番の理由だと思います。
―若手経営者が稲盛会長の経営を学びたいと立ち上げたのが盛和塾です。本誌(8月16-23日号)で報じたように、その塾でぴあの矢内廣社長やサカイ引越センターの田島治子副会長、ソフトバンクの孫正義社長などが学びました。経営者として飛躍された方には何か特徴がありましたか?
いえ、それはあまり感じません。自分の会社をさらに立派にしたい、立派な経営をしていきたいと思っている方が盛和塾には集まっています。皆さん、大変熱心に経営を勉強されているし、盛和塾以外の会合でも学ばれていました。そういう熱心な人が、経営者としても成長したと感じています。
―今後、稲盛会長は経営の神髄として何を伝えていきたいと思っていますか?
会社、組織は、トップの器以上のものにはなりません。立派な会社や組織にしたいならば、まずリーダーが、自分の人間性、人格を高めることが何より大事です。経営を伸ばしたいと思うなら、心を高めなさいと、盛和塾でもずっと言ってきました。
―なぜでしょうか?
問題に直面した時に、判断し、決断するのが会社のリーダーです。いろんな戦術・戦略がある中で、何を取捨選択して会社を経営していくかは、リーダーの価値観、もっと言うと判断基準にかかってきます。ですからリーダーというのは、フィロソフィ、つまりその人が持つ哲学が立派なものでなくてはなりません。
―立派な経営哲学とはどういうものでしょうか?
自分の欲望や損得に根ざしたものではなく、世のため人のためになることを考えるべきです。思いやりをもった価値判断基準で、戦略・戦術を選択すべきでしょう。我欲をおさえ、「利他の心」で経営をしていけば、経営はおのずとうまくいくものです。
※週刊朝日 2013年10月25日号