まずは、自身の手の爪をじっくり見ていただこう。

「昔から病気の兆候が爪に表れることが知られています。画像診断などが発達していなかった昔は、爪の所見を重視していましたし、今も診察のヒントにしています」

 こう話すのは、神楽坂肌と爪のクリニック院長の野田弘二郎医師だ。日本でも珍しい爪の専門家で、ネイリストの資格も持つ。

 例えば、爪の先端が外に反り返る「反り爪」は、鉄欠乏性貧血によってなることが多く、爪が白っぽかったり、青白かったり、すりガラスのように濁っていたら、貧血やレイノー病、肝障害が疑われるという。レイノー病とは、原因が不明の血管障害で、冷水につかったり、寒い場所に手を出したりしたときに、指に痛みやしびれ、青紫になるなどの血流障害を起こす病気だ。また、爪の表面の白い斑点は、数が1、2個なら問題ないが、増えると肝障害や腎障害、糖尿病の可能性があるそうだ。

「ただ、病気があっても爪に異常が出ないことも、その逆もある。一般の人が爪だけで病気を判断するのはむずかしいでしょう。気になったら自己判断せず、内科か皮膚科で診てもらってください」(野田医師)

 モノをつまんだり、ひっかいたりするために存在する爪は皮膚の一部で、角質が厚く、硬く変化したものだ。根元から爪上皮(そうじょうひ=あま皮)、爪半月、爪甲と続き、爪の下を爪床(そうしょう)という。手の爪は1日に約0.1ミリ、足の爪は約0.05ミリ伸びる。年をとると爪は厚く、黄色く濁り、縦にしわが寄ってくる。

「爪と体の不調との関係の多くは経験的なものであり、なぜそうなるかわかっていない部分も多い。ただ貧血などは透明な爪を通して、爪床の血流状態が観察できるので、皮膚よりも血液循環の状態を把握しやすいということはあります」(野田医師)

 爪の異常で特に増えているのが、足指の巻き爪だが、手の指では、ストレスが引き金となって生じる爪の異常が目立つという。

 30代の会社員の男性が野田医師の元を訪ねたのは、今春のことだ。取引先の担当者に名刺を渡そうとした際、爪が薄く、黒っぽくなっていることに気づいた、近所の皮膚科で診てもらったが原因はわからない。いくつかの皮膚科を訪ね、たどり着いたのが、野田医師のいるクリニックだった。

 野田医師は男性の様子や爪の状態から、「噛み爪」によるものと診断した。

「ストレスのかかったときに知らずに爪をいじったり、噛んだりするのが原因です。『習慣性習癖』、つまりクセなので病気ではありませんが、見た目が悪いので、他人に手元を見られる職業の人では、QOL(生活の質)の低下に繋がることもあります」(野田医師)

 この男性も、緊張からか診察中も気づかないうちに爪をいじっており、野田医師に指摘されてクセに気づいたという。

 この噛み爪に対して、同院では透明な樹脂を爪の上に塗る治療を行っている。主に女性が爪のオシャレで行っているネイルケアを応用したものだ。

「爪が保護されるだけでなく、ケアしているという実感から、いじったり噛んだりしなくなるようです。一度、治療をするだけでかなり効果があります」(野田医師)

週刊朝日  2013年8月9日号