北朝鮮の朝鮮中央テレビがフェイスブックにページを開き、金正恩(キムジョンウン)の動静などが次々とアップされている。対外的な宣伝活動を強化する裏には、北朝鮮が「核ミサイル武装」を実現するための「争点外し」を狙っていると軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏はこう説明する。

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 これ(核ミサイル武装)は、政権のサバイバルのための最重要事項で、国内の引き締め、金正恩の実績づくり、あるいは海外からの援助などといった目先の利益より、はるかに優先度が高い。したがって、北朝鮮は核ミサイル武装を何があっても放棄しない。だが、それには国際社会、とくにアメリカの強い反発が予想されるので、なんとかやりすごしていかなければならない。

 そこで、まずは核実験で国際社会が制裁強化に動いたタイミングで、3月から4月にかけて、猛烈な対米挑発を行った。

 北朝鮮は、自分たちが決定的な軍事行動に出ないかぎりは戦争にならないことを熟知しており、一連のムスダン発射騒動などは寸止めのアピールにすぎないものだった。

 しかし、北朝鮮は自分たちがすでに強力な核ミサイルを保有していることを徹底的にアピールし、それをなし崩しに既成事実化することに成功した。

 そして北朝鮮は5月に入ると一転して緊張緩和路線に入り、韓国に対しては開城工業団地問題、日本に対しては拉致問題での対話を持ち出し、その狙いどおりに核ミサイル問題からの“争点外し”にほぼ、成功している。

 そして今、北朝鮮は6ヶ国協議への復帰を餌に、国際社会の対北朝鮮制裁論議の、いわば冷却工作を行っている。北朝鮮は核ミサイルを放棄する気など一切ないが、保有を既成事実化できれば、あとは対話と交渉をのらりくらりと続けることが、彼らにとってはもっとも都合がいいのだ。

 こうした「対話」は、北朝鮮にとって、核ミサイル戦力を着々と増強する時間稼ぎにほかならず、非常に精密な“情報心理戦”を展開しているといえる。

 フェイスブックなどを使った宣伝の強化は、もちろん、その心理戦の一部なのである。

 金正恩はまだ年若いが、周囲には金正日時代から政権のサバイバルのための対外的な情報心理戦に通じた側近が何人もいる。北朝鮮を甘く見てはいけない。

週刊朝日 2013年7月5日号