一連の検察不祥事に続き、大阪府警でも虚偽の供述調書を作成したことが発覚し、大問題になった。悪質なのは、関与した警官らが裁判でも偽証したことだ。審理がやり直される異例の事態になった。“被害者”となった男性被告(40)は本誌に「おかしいと思っていたら、裏でこんなことをやっていた」と激白した。ジャーナリストの今西憲之氏が事件を取材した。

『虚偽の供述調書を作成した上、法廷でも偽証とは、信じられません』と本誌にその胸中を訴えた男性被告は、現在も拘置所に勾留されたままだ。便せん計11枚にも及ぶ手紙などを本誌に託した男性被告は、逮捕当時から大阪府警堺署の対応には、ずっと疑問を抱いていたという。

 男性被告は昨年10月、覚せい剤取締法違反容疑で逮捕された。そして堺署に収容された昨年12月2日――。

 男性が同午後6時20分ごろ、留置場で大声をあげて騒ぎだしたため、堺署の巡査長(33)が制止したが、従わなかったので、保護室に収容しようとした。しかし、男性が騒ぎ続けたため、同僚の巡査(25)と上司の警部補(50)が駆けつけ、男性を公務執行妨害容疑で逮捕した。問題の供述調書は、その場面を巡って作成されたものだった。

 捜査関係者によると、「当初、巡査長が判断し、男性を保護室へ収容しようとした際、顔面を殴られ、暴行を受けたという内容の供述調書が作成された」という。

 通常、保護室へ留置者を収容する場合、署長の命令が必要だが、自傷や同室者に危害を加える可能性があるなど、緊急性があるときは、現場の判断で収容できるという。

 だが、理解不足なのか、巡査長の独断で保護室収容を決めた手続きを問題視した警部補が、「全員、処分されるぞ」と言いだした。そして供述調書を作成していた同署員のパソコンを勝手に起動させた警部補が、「(その場にいなかった)巡査部長の判断で保護室に収容した」という内容の調書に作りかえた。

 だが、12月6日の実況見分で辻褄が合わなくなり、調書を作りかえたことがバレてしまったのだ。捜査関係者が言う。「警部補が責任回避のため、巡査長と巡査が口裏を合わせて虚偽の供述詞書を作成したことにしろ、と強く迫ったようです」

 こうして警部補の指示による作りかえは隠されたまま、「巡査長が独断で男性を収容したことを上司に怒られるのが嫌で(巡査部長の判断と)巡査と口裏を合わせた」と嘘を塗り重ねた2通目の調書が作成された。

 12月21日、男性は起訴され、裁判が始まった。男性は警官らが先に手を出したと正当防衛を主張し、公務執行妨害事件については一貫して否認。今年3月1日、男性の公判に巡査長と巡査が証人として出廷し、2通目の調書内容に合わせ、偽証をした。男性はそのときの心境をこう綴っている。

『1通目と2通目の供述調書がおかしいことはわかっていた。だが、虚偽まで書いているとは知らなかった』

 この日、法廷で最初に質問したのは、検察側だ。『巡査が巡査長と二人で口裏合わせをした、と証言しはじめた時、私は弁護士と顔を見合わせた。何か裏があると思った』。

 次に弁護士からの質問を受けた巡査は、「収容しようとして、手続きミスがあり、2通目の供述調書のようになった。巡査長とは堺署3階のトイレで事件から2、3時間後に口裏合わせをし、巡査部長の指揮がないと、ダメだと思ったので、調書内容を変えた」などと生々しく証言した。

 弁護人質問が終わると、検事が再質問した。男性はそのときの様子をこう綴っている。『(巡査の口から)口裏合わせ、ミスなどという言葉が出ると、(検事は)予期しなかったことか、書類をめくるなどそわそわと落ちつきない。弁護士の質問が終わり、再度、検事が立ち上がると「非常にまずいのですが、まずいことになりました」ととりつくろうような質問を警官にして、なんとか挽回しようとしていた』

 だが、疑念を抱いた裁判官が最後に質問し、何度も口裏合わせをした様子などを巡査や巡査長に確認した。結局、巡査と巡査長は2人だけでやったこととし、最後まで、警部補の名前を出すことはなかった。虚偽調書を取り繕うため、致命的となる偽証までやってのけたのだ。

週刊朝日 2013年6月28日号