「廃炉で地元経済が破綻する」と不安を抱く原発立地自治体と、その住民は多い。作家の広瀬隆氏は俳優の山本太郎氏らとともに、日本に先んじて2022年の「原発ゼロ」を決めたドイツへ赴いた。8基すべての廃炉を進めるドイツ北部のグライフスヴァルト原発で、広瀬氏が目の当たりにしたのは地元経済の衰退ではなかったという。

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 見学後、われわれの目的である地元の雇用問題を尋ねると、「かつて原発運転時には2000人ぐらいだったが、原発を受け継いだ現在の国営廃炉企業EWN社(Energiewerke Nord)の従業員は700人余りなので、ほぼ3分の1に減った。社内の労働者は、その分だけ解雇されたので、決して廃炉だけで地元の雇用が確保されるわけではない」という。

 しかし、次に廃炉コストを尋ねると、「現在まで20年間で、およそ20億~26億ユーロが廃炉作業に投入された。したがって、20年間でおよそ2000億円、毎年100億円ぐらいを要し、その大金が地元に落ちたことになる」という。

 またほかの資料によると、東ドイツ側の原発の廃炉はすべてここEWN社がおこない、ロシアの原子力潜水艦の解体もおこなって、さらに西ドイツ側の原発の解体も引き受けているので、ここがドイツ全体の廃炉センターとなって、42億ユーロを要した、という。つまりさらに大きな4000億円以上の金が地元に投入されたことになる。毎年200億円という大金だ。

 EWN社の廃炉ドキュメント映像をみると、廃炉解体とは、放射能のかたまりを扱うので、それほど大変な時間と、労力と、資金を要する、われわれが想像するよりはるかに大規模な難工事なのである。

 そのため、廃炉の解体に伴って成長した鉄鋼関連の機械工業が生まれていたのである。したがって、経済崩壊と高齢化が進んできた東ドイツ側の中では、この地域の雇用悪化はそれほど悪くない状態にあるという。

週刊朝日 2013年6月21日号