糖尿病は日本人をむしばみ続けている。厚生労働省の調べによると、国内の患者は、疑いがある人を含めて約2210万人もいると推定される。糖尿病の恐ろしさは、脳卒中や失明、足の壊疽(えそ)など、日常生活を脅かす合併症が付きまとうことだ。しかし近年、新しい糖尿病の治療が続々と登場しているという。

 医療ライターの小沼(おぬま)紀子氏は、こう解説する。「数年前は、膵臓にインスリン(血糖値を下げるホルモン)を出させる薬などが多く使われていたが、まったくメカニズムが異なる、『DPP-4阻害薬』と呼ばれるタイプの新薬が登場しました」。

 特に注目されているのは、このタイプで最も早く登場した「シタグリプチンリン」(一般名)だ。年間の売上高は1千億円を超えている(販売元2社の合計)。

「古いタイプの薬からDPP-4阻害薬に切り替える医師も目立ってきています。この薬は、糖尿病の治療の主役になっています」(製薬会社社員)

 この薬はどんなものなのか、メカニズムを見ていく。「インクレチン」というホルモンは、食事をとると小腸から出る。血液と一緒に流れて膵臓までたどりつき、インスリンを出させる働きがある。

 だが、膵臓に届く前に、その多くがDPP-4という酵素によって分解されてしまう。DPP-4阻害薬は、この酵素の動きを弱めてホルモンが膵臓に届くように手助けし、インスリンを出やすくするのだ。

「古いタイプの薬のなかには、血液内のブドウ糖が少なくなる『低血糖』をはじめ副作用のリスクがありました。DPP-4阻害薬は高い効果が期待でき、こうした副作用も起こしにくいので使いやすい。これが大きな特徴です」(前出の小沼氏)

週刊朝日 2013年6月14日号