新しい歌舞伎座のこけら落とし公演(4月2日~)に看板役者として出演する人間国宝の中村吉右衛門さん(68)。吉右衛門さんと歌舞伎座の縁は深い。1951年に再建された第4期歌舞伎座の開場式で俳優総代として挨拶したのが初代吉右衛門だった。そこに幼い吉右衛門さんも出演した。そんな吉右衛門さんが当時を振り返った。

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 新しくできた歌舞伎座を見て、あぁ前の姿のとおりでよかったなぁという思いはあります。2月に音響テストで初めて中に入りました。まだ設備が揃っておらず舞台の感じはつかめなかったのですが、客席は広々としていて、お客様には大変いいのではないかと思いました。楽屋も広いので、家を追い出されたら泊まろうと思っております(笑)。

 歌舞伎座は第4期の開場式に出て、3年前の取り壊し前の閉場式にも出ました。終戦から歌舞伎座が再開されるまで、歌舞伎は東劇(東京劇場)でやっておりまして、そこで初舞台を踏みました。その後、初代が歌舞伎座で演じました「盛綱陣屋(もりつなじんや)」では、お客様の雰囲気だけは覚えております。肝心の芝居のことは何も覚えていませんが(笑)。

 当時、東劇に来られたお客様といえば、戦時中、空襲や戦場で大切な方々を失い、耐えに耐え忍ぶ状況から解放され、歌舞伎を楽しみに見に来られた方々でした。2階、3階席で新聞紙を敷いて座ってご覧になっている。場内が「うぉー!」と歓声でどよめく感じでした。

 初代吉右衛門には本当に感動させる力がありました。劇場が感動で揺れる。その感覚が記憶に残っています。

週刊朝日 2013年4月12日号