2月といえばリオのカーニバル。祭りの象徴的な存在である、“クイーン・オブ・ドラム”を追った。

「ショーの直前は緊張で動けなくなるけど、会場に足を踏み入れた瞬間、すべてが頭から消え去るの」

 そう言って大観衆の前に颯爽(さっそう)と現れたのは、カーニバルの象徴と言われる“クイーン・オブ・ドラム”のブルーナ(29)だ。妖艶にして強靭。彼女が登場すると、会場のボルテージが一気に高まった。

 リオのカーニバルは、言わずと知れた世界最大のパレード。毎年2月にサンバドロームと呼ばれる巨大スタジアムで行われる。5千人を超える集団が一つのチームとなり、サンバのリズムに合わせて踊り歩く。ダンスにはストーリーがあり、まるでオペラのようだ。実はこれ、トップ12チームと2軍11チーム、3軍9チームに分かれて優勝を競い合う競技会。今年は2月9日から4日間開催された。チームは“サンバスクール”と呼ばれる各地域の共同体で構成され、1年をかけて巨大な山車(だし)を建設し、衣装や美術を準備する。グループの中心をなすのがバテリアと呼ばれるドラムの集団で、千人以上にも及ぶメンバーが一糸乱れぬリズムをたたきだす。その先頭に立って誘導するのが“クイーン・オブ・ドラム”だ。

「街中で、毎年クイーンに選ばれるのはトップ12チームの12人だけ。これほどの光栄なことはない」

 というブルーナ。パレードの当日、彼女は自宅で入念なマッサージを受けていた。ステージ用のメークを施し衣装を身にまとうと、それまでの柔和な笑顔が女豹のようなまなざしに変わった。鍛え抜かれた身体はダンサーというよりスプリンター。とりわけ、カモシカのような肢体には筋肉が隆起する。

週刊朝日 2013年3月1日号