栃木県那須町に、一風変わったテーマパークがある。その名は「非電化工房」。代表の藤村靖之さん(68)が発明した非電化冷蔵庫や非電化除湿機など、電気を使わない製品が展示されている。定期的に開かれているワークショップでは、製作体験も可能だ。

 以前からこの工房には見学者が多かったが、2011年の東日本大震災以降に希望者が倍増した。月2回の見学会は毎回満員で、いまでは年間3千人を超える。その理由を藤村さんはこう考えている。

「3.11をきっかけに、日本社会に何となく“いぶかしさ”を感じていた人が、ライフスタイルを見直しはじめたんじゃないかな。特に福島第一原発事故は、人間がコントロールできない科学技術に私たちが依存していることを明らかにした。だから、仲間とワイワイと仕事をしている非電化工房の暮らしは、別の形の幸せ像を提供しているように見えるのでしょう」

 実際に藤村さんの発明品である非電化冷蔵庫を見せてもらうと、斬新な発想に驚かされる。冷蔵庫は野外で北向きに置かれているのに、扉を開けるとひんやりとした空気が肌に当たる。缶ビールもほどほどに冷えていて、これなら野菜も果物も十分に保存可能だ。

「この冷蔵庫は、熱を持った物体が赤外線を放射して冷たくなる『放射冷却』という原理を利用しています。貯蔵室の周りにためた水が放射冷却で冷たくなることで、夜に空が澄んでいれば、真夏の昼でも庫内を7~8度程度に維持できます。簡単な原理を少し工夫するだけで非電化にできるんですよ」

週刊朝日 2012年10月26日号