福島原発事故からわずか3カ月あまりの昨年6月末、ドイツでは2022年までに国内17基の原発をすべて閉鎖する方針を決めた。一方、日本はいまだに脱原発への道筋を見いだしてはいない。この違いは何なのか。ジャーナリストの邨野継雄氏は脱原発を掲げる「緑の党」支持者の学生に話を聞いた。

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 ドイツのシュツットガルト市南部にある州立ホーエンハイム大学のキャンパスに足を運んだ。生物学科に在籍しているシーモン・マンダー(25)とは大学の事務室で会った。マンダーの両親はシュツットガルト近郊でワイン生産と果樹園を営む“森の民”だという。

「フクシマの事故はショッキングな出来事だったけど、あまり驚いてはいない。だって、原発は危険なものだというのは、分かりきったことだし、事故は今後も起こり得ると思う。日本にとっては大変に不幸なことだったけど、ドイツには幸いしたんだよね。だって、選挙結果はわずか3%の差だったんだもの。フクシマがなければ野党の勝利はなかったし、脱原発の宣言にも至らなかったと思うんだ」

 マンダーは遠慮のない口調で続けた。「脱原発は絶対に正しい判断だ。ドイツは未来に向かって一歩踏み出したんだね。利潤は電力会社に残り、危険のリスクだけ市民に押しつけられるなんて、そもそも変な話さ。原発がなければ電力が不足するなんてのは、電力ロビー側による政治的な嘘なんだ。超党派で脱原発が決議されたのは、すべての政党が、いま脱原発に踏み切らなければ、社会との摩擦が増すだけだと分かったからだと思うよ」。

週刊朝日 2012年10月12日号