「魔法の薬」と呼ばれる禁煙薬、チャンピックス。朝夕と1日2回服用していた平野隆さん(30代、仮名)が、「今、人を殺したい」と電話で両親に告げ、8月1日、自殺した。
 禁煙手帳や残された錠剤の数などから、平野さんは処方どおり、31日の夜までチャンピックスを服用していたとみられる。服用と自殺との間に因果関係があったかどうかは不明だが、薬害訴訟を専門に扱う谷直樹弁護士はこう指摘する。
「服用から自殺までの時間が近接していることを考えると、関連性を否定することはできないでしょう。チャンピックスは、死にたいと思う『自殺念慮』や『攻撃的行動』など、多くの副作用の疑いがあり、それはファイザーから医療機関に渡される『添付文書』に記載されています。米国でも副作用は問題視されていて、チャンティックス(米国での商品名)が自殺念慮、うつ、心疾患などを引き起こしたとして、患者1200人が昨年、米ファイザーを相手に集団訴訟を起こし、係争中です」
 平野さんにも、ひょっとしたらその副作用が起きていたのかもしれない。
 チャンピックスの副作用については、米食品医薬品局(FDA)や、日本の厚生労働省が、製薬会社や医療機関からの報告をまとめ、公表している。FDAによれば、米国で承認された2006年5月から翌07年12月までに、「自殺行動」や「自殺念慮」の事例が計227件確認されている。
 一方、厚労省の独立行政法人・医薬品医療機器総合機構(PMDA)によれば、08年度から12年度(9月6日時点)までに、国内で「自殺念慮」(18件)や「自殺既遂」(2件)など自殺にかかわる事例は計28件ある。
 この数字はファイザーから報告されたもので、すなわちファイザーは、チャンピックス服用後に自殺したり自殺を求めたりする人がいるのを認識していることになる。服用と自殺関連行動の因果関係についてはどう考えているのか。事業広報部はこう説明する。
「自殺にかかわるものも含め、医療機関などから報告された副作用の事例については、完全に因果関係がないと判断できるケースを除き、『因果関係が否定できない』、つまり白とも黒とも言えない『グレー』として認識し、PMDAに報告しています。事例が集積すれば、医療機関向けの添付文書や患者向けの文書で注意勧告すべきかどうかを検討することになります」

※週刊朝日 2012年9月28日号