「最悪32万人死亡」----。8月30日の朝刊に、衝撃的な見出しが躍った。東海・東南海・南海地震が3連動する「南海トラフ巨大地震」について、国の有識者会議がはじき出した被害想定だ。

 死者数は震源や発生時間、季節、風速によって変わるため、条件を変えて96通りのケースを想定。風の強い冬の深夜に東海で甚大な被害が出ると、津波で23万人、建物倒壊で8万2千人、火災などで1万人の計32万3千人が死亡するという。

 だが、この"最悪想定"でさえ「甘すぎる」と考える専門家がいる。有識者会議の主査である河田惠昭(かわたよしあき)・関西大教授(自然災害科学)もその一人だ。

「32万人という死者数には、地震の揺れや液状化によって都市部の水門や堤防が壊れて浸水域が拡大するなど、いくつかの要素が考慮されていません。こうした点も加味すると、私は40万人に及ぶと考えています」

 それどころではない。立命館大歴史都市防災研究センターの高橋学教授(災害リスクマネジメント)は、「東日本大震災のときの三陸海岸沿いの死亡率は1%でした。この死亡率を今回の被害想定地域に住む人口にあてはめれば、津波だけで最低でも47万人になります。家屋の倒壊や火災も含めれば、死者・行方不明者が100万人を超えても、何の不思議もありません」と指摘する。

 いずれにせよ、過去に直面したことがない未曽有の災害になるのは間違いないようだ。

※週刊朝日 2012年9月14日号