生物学者で早稲田大学国際教養学部教授の池田清彦氏は、朝日新聞の書評欄に近藤誠『がん放置療法のすすめ』(文春新書)が紹介されているのを見て「ちょっと愉快であった」という。その理由は、それが医学界の主流の説と全く異なる主張が書かれた本であり、「大新聞」の書評欄に載っていたからだ。池田氏は本の内容に触れ、「がん放置療法」のメリットについて次のように話している。

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 大半の医者と厚生労働省はバカのひとつ覚えみたいに「がんの早期発見・早期治療」と言い続けてきたが、近藤の本の帯にあるように「乳がんで全摘手術を勧められたけど放置、22年経った今も元気です」(68歳女性)という人もいるのである。がんを放置するとどうなるか。(1)大して変化がない、(2)増大して治療をせざるを得なくなる、(3)縮小し、場合によっては消失する。(2)だけが悪性のがんで、(1)や(3)はがんもどきで治療する必要はないと近藤は言う。やっかいなのは(1)・(3)と(2)の違いは病理検査ではわからないことだ。

 わからない限り、すべて悪性度の高いがんとみなして治療しようというのが主流の考えなのだろうが、がんの手術や抗がん剤は決して安全な治療法ではない。(1)・(3)の人は治療により死ぬこともあろう。私の知人で膀胱がんと診断され抗がん剤治療を始めて二週間後に死んだ男がいる。抗がん剤は猛毒なのだ。治療のメリットがあるのは(2)の人だけだ(特に血液のがんは抗がん剤が良く効く)が、それとても治療をしない方が長生きしたかもしれない。

※週刊朝日 2012年7月20日号