慢性中耳炎は大きく3つのタイプに分けられるという。もっとも数が多いのが、中耳の炎症が続いて鼓膜に孔が開いたままになる穿孔性(せんこうせい)中耳炎だ。鼓膜がへこんで中耳の壁にくっついてしまう癒着性中耳炎は再発しやすいのが特徴。

 大阪府在住の主婦、中田紀子さん(仮名・65歳)は、30年前に穿孔性中耳炎にかかって以来、右耳の聞こえが悪かった。穿孔性中耳炎の根本的な治療は、鼓膜の孔をふさぐ手術(鼓膜形成術)だ。

 しかし手術をせずに鼓膜の孔をふさぐ鼓膜再生療法があると聞き、北野病院耳鼻咽喉科(じびいんこうか)・頭頚部(とうけいぶ)外科部長で、さまざまな器官の再生研究に取り組む金丸眞一医師をたずねた。

 金丸医師が診察すると、中田さんの右耳の鼓膜はほとんどなかった。しかし受診時は耳だれもなく、鼓膜周辺の細胞も自然な状態で、金丸医師考案の鼓膜再生療法が可能と判断した。

 従来の手術のように皮膚切開や鼓膜に使う筋膜の採取が不要で、孔の大きさにかかわらず、外来での10分程度の処置のみで終了。からだへの負担が少ない治療だ。

「麻酔後、鼓膜切開刀で破れた鼓膜の周辺の組織を傷つけ、鼓膜の孔をふさごうとするからだの自然な力を刺赦します」(金丸医師)

 中田さんの右耳はほとんど聴力がなかったが、処置の直後に聞こえが回復した。金井病院で治療を受けた後、中田さんの耳には炎症などのトラブルも起きず、4年後の現在も快適な生活を送っている。

 現在、金丸医師の施術は、保険適用外のため約50万円かかり、金井病院のみで受けられる。

※週刊朝日 2012年6月1日号