投資助言会社「フジマキ・ジャパン」の代表を務める「伝説のディーラー」藤巻健史氏は、フランスとギリシャの両選挙の結果から「ポピュリズム政治」に陥る危険を指摘する。もしそうなれば、両国の経済に大打撃を与える恐れもあるとしている。

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 フランスで大統領選、ギリシャで総選挙が行われ、両国とも財政緊縮派が敗れた。財政緊縮は人気のない政策に決まっている。給料が減ったからという理由で、こづかいを減らされたご主人の不満と同じだ。両選挙は、国民が「もう緊縮財政は嫌だ」と駄々をこねたということだ。

 しかし、だからと言ってユーロが当面生き延びる道は、緊縮財政政策しかありえない。政権を取った政治家も、現実問題として緊縮財政政策を継続せざるを得ないだろう。もし、選挙公約をしたからと言って本当に緊縮財政を放棄すればマーケットが反乱を起こす。

 駄々っ子の言うことを本気になって聞くようだと、まさに政治のポピュリズム(大衆迎合)化、ここに極まれり!だ。経済は刹那(せつな)的になる。その結果、両国国民は経済的に大打撃を被ることになる。「個人破綻して家も預金も何もかも失う」という事態だ。

 ギリシャの新政権がEU(欧州連合)との合意をないがしろにすれば混乱は必至だ。EUからの援助は、ギリシャ自身の財政再建が前提なのだから、EUから差し伸べられた手を自ら振り払ってしまうことだ。それは自殺行為に等しい。

 また自力で景気回復を図らなくてはならなくなる。観光立国ギリシャではホテル代や交通費の値下げをして独仏からの観光客受け入れ増を図るしかないが、それはまさにデフレ政策である。デフレ政策は日本でわかるように、景気にかなりダメージだ。

 ポピュリズム政治を受け入れたギリシャ国民が多額のつけを払わされるのだ。それはフランス国民も同じであろう。

 政治のポピュリズム化が世界で一番進んでいるのは日本である。過激なバラマキや財政出動の結果の莫大なる累積赤字がそれを証明している。その上で市場機能が利かないときているから日本は始末が悪い。ヨーロッパの事態を他山の石とできるのだろうか?

※週刊朝日 2012年5月25日号

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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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