3月11日午後2時46分―――未曽有(みぞう)の大震災で犠牲となった人々への鎮魂と、被災地の復興を祈り、全国各地で多くの人が黙祷した。だが、「八百長問題」以来2年ぶりに開催された大相撲では、なぜかその瞬間、普通に取組が進んでいた。そして、およそ30分後、黙祷は"時間差"でようやく実施されたのだ。

 会場の大阪府立体育会館で観戦していたファン歴30年の主婦が憤る。

「2時46分が近づくのに何もアナウンスがなくて、あれ? あれ? って思ううちに30分も過ぎてしまって……。周囲のお客さんも、そわそわと気にしていましたよ。相撲協会の偉い人や横綱たちが土俵に揃って、黙祷を捧げるものだと思っていましたから。日本が一つになるべきときに、国技の大相撲が時間を遅らせるとは何事かと思いました」

 角界関係者によると、事情はこうだ。

 各場所初日には、日本相撲協会理事長が横綱や大関らの力士と一緒に土俵に上がり、「協会ごあいさつ」をするのが慣習だ。それは通常、観客が続々と入ってくる十両の取組の途中で、午後3時半ごろからだという。NHKが原則、午後3時過ぎから地上波で生中継しており、理事長がファンに所信を述べるには格好の時間帯でもある。

「そして今回もその慣習どおり、午後3時20分ごろから始まった"ごあいさつ"の中で、北の湖理事長が黙祷を捧げたんです」(角界関係者)

 在阪スポーツ紙のデスクはあきれ返る。

「相撲協会内部にも、取組を中断して、ちゃんと黙祷をしたほうがいいという意見があったようですが、なぜか理事たちの間では大きな"問題"にならなかった。物事を前例踏襲するのが当たり前の世界だから、頭が働かないのかもしれませんが……。八百長問題で、いまはみそぎの時期なんだから、ビシッと誠意を示せば信頼回復にもつながったはずです」

※週刊朝日 2012年3月30日号