年金問題を最も深刻に受け止めなければならないのは、将来に不安要素の多い若者たち...というのが、多くの人の考えかも知れない。しかし、ニュース解説などでおなじみの辛坊治郎氏は、これは若者だけではなく、団塊世代はもちろん、既に年金受給者となっている高齢者にとっても、喫緊の課題だと話す。

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 生涯にいったいいくら掛け金を支払って、どれほどの年金を受け取れるのか?

 先ごろ内閣府経済社会総合研究所の試算が発表された。これによれば、損得のボーダーラインが1955年生まれで、50年生まれだと502万円のプラス、60年生まれの場合283万円のマイナスとなり、一番不利な85年生まれの場合、マイナス額は700万円を超えるという。さあ、読者の皆さんは損得どちらの世代だろうか?

 多くの団塊の世代はこの試算を見て、「逃げ切れる」とほくそ笑むはずだ。しかし笑うのは早いと思う。

 私は2007年に『誰も書けなかった年金の真実』という本を書いた。当時、政府が発表している数字上、損得分岐点は1965年生まれだったのだ。つまりわずか5年で、ボーダーラインが10歳もシフトしたのだ。その上、内閣府は今回、年金積立金の運用利回りを厚生労働省と同じく4.1%で計算している。積立金が今後100年間枯渇しないことを前提にした計算だ。学習院大学の鈴木亘教授の試算によれば、厚生年金の積立金は2033年には枯渇する。内閣府の試算は絵に描いたでしかない。33年までに年金生活にピリオドを打つ「自信」のある人は別だが、経済的観点に立てば、長生きは人生最大のリスクである。つまり、既に年金受給者となっている高齢者にとっても、年金改革は喫緊の課題なのだ。

※週刊朝日 2012年3月2日号