広瀬隆 「原発全廃へ決戦、2012運命の年」 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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広瀬隆 「原発全廃へ決戦、2012運命の年」

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週刊朝日#原発

 福島原発事故で、悲惨な大被曝・汚染国家となった日本で、電力会社が正気を失って暴走しようとするのを、全国の住民運動・市民運動が食い止めた2011年が過ぎ去り、いよいよ最後の決戦の幕が開いた。

 今年2012年の正月を迎えた時点で、運転中の原発は、54基中のわずか6基となっている。出力で見れば、およそ5000万キロワットのうち、たった562万キロワットしか発電せず、実際の能力は11・5%にまで落ち込んだ。さらに残る6基が定期検査によって運転を停止する予定は、左ページのグラフのように、1月に四国電力・伊方2号、中国電力・島根2号、東京電力・柏崎刈羽5号、2月に関西電力・高浜3号、3月に柏崎刈羽6号、4月に北海道電力・泊3号とされている。

 原発をすべて今年限りで廃炉にできるか、それとも日本という国家が滅亡への道に再び突進するか、日本人はその分かれ道に立っているのである。この全基廃止の運命の年は、この機を失えば今後二度と訪れないほどの重大な節目である。

 本誌で連載してきた通り、昨年3月の福島原発事故発生以来、その最大の意味は、次の原発事故「第二のフクシマ」が、目前に迫っていることにある。なぜなら、第一に、東日本大震災の津波大災害をもたらした昨年3月11日のプレート境界型の大地震によって、東北地方が太平洋側・海底側に引っ張られ、日本列島が大きくひん曲がってしまったからである。この巨大な歪みは、自然界の地殻が元に戻ろうとする調整運動を続けているため、昨年末までずっと余震を引き起こしてきたが、これから大型の余震がまだまだ起こり得る。それが証拠に、東日本大震災後の日本全土で、東日本だけに限らず、西日本でも広島や熊本に至るまで、断層運動の活発化が著しくなって、人びとを震えあがらせている。余震といっても、阪神・淡路大震災クラスの大地震になる可能性が高いのだ。

 さらに、ここ数年、地球規模でますます活発になっている太平洋プレートの運動が引き続いたままで、それがまったくおさまっていないので、余震とは別に、新たな大地震がどこで、いつ起こるか分らない。この余震と、新たな大地震の脅威は、今後少なくとも30年は続くのだ。

 そして、昨年の恐怖のフクシマからようやく真剣にスタートを切った過去の歴史的な津波の調査がおこなわれるにつれて、日本中に大型津波の記録のあったことが報告されるようになってきた。四国電力の愛媛県・伊方原発では、豊後水道周辺で2009年~2010年にかけてスロースリップ現象による地殻変動が顕著となって、かなり危険な兆候だと見られているが、四国電力は「瀬戸内海には津波が来ない」とタカをくくっているのだ。1596年(慶長元年)9月1日(一説には4日)、大分県別府湾でマグニチュード7級の海底地震が発生し、津波が押し寄せ、瓜生(うりゅう)島が一夜で水没したことが判明した。その4日後の9月5日には京都の伏見でマグニチュード8近い大地震が起こり、伏見城の天守閣が崩落した。その結果、愛媛県西条市の幸の木遺跡では、12世紀以降の液状化跡が発見されており、別府湾と、四国の中央構造線と、伏見の断層が400キロにわたってほぼ同時に動いた可能性が出てきたのである。瀬戸内海には津波が来ないなどと、誰が言えるのか! 内海の津波来襲は、最もおそろしい結果を招く。もし中央構造線が動けば、瀬戸内海に巨大津波が発生することは間違いない。日本中の電力会社が、実はみな、ほぼ同じレベルの無策状態にあることが、フクシマ後に明らかになっている。

 そして第二の問題は、もし西日本の原発が、たとえば佐賀県の玄海原発、鹿児島県の川内(せんだい)原発、愛媛県の伊方原発、いずれかが「第二のフクシマ」となれば、台風の通過コースによって日本人の誰もが知る通り、放射能の雲は、一気に東上して日本列島をなめつくすことにある。すでに深刻化している食品の放射能汚染が、救いようのない地獄に突き落とされることは見えている。

 あるいはまた、日本海側の原発が、たとえば島根原発か、能登半島の志賀原発か、福井県若狭の14基の原発群か、新潟県の柏崎刈羽原発7基、いずれか1基が「第二のフクシマ」となれば、日本海が一挙に汚染し、その放射能は永久に滞留して、魚介類は全滅するのだ。柏崎刈羽原発の場合は、コシヒカリの米どころ、酒どころだから、食料問題は一層深刻になる。

◆浜岡原発事故で7千万人が避難◆

 言うまでもなく、静岡県の浜岡原発が「第二のフクシマ」となれば、一夜にして名古屋の中部経済圏ばかりか、首都圏と関西経済圏が、同時に全滅する。それは7000万人の民族大移動というあり得ない地獄図になる。路頭に迷う大都会人たちの阿鼻叫喚を想像すれば、凄惨きわまりない人類史上最悪の原発震災になることが分っている。

 北海道の泊原発が「第二のフクシマ」となれば、日本中に食べ物を供給している食料自給率210%を誇る広大な土地で起こる大悲劇だ。酪農王国、魚介類の宝庫、昆布の95%を生産する海藻類の宝庫、それらすべてが崩壊して、日本全土が食料難に襲われるのだ。

 さらに第三の問題は、原子力発電所が、「地震の揺れ」にまったく無防備な機械装置であることが、フクシマ事故によって実証されたことにある。東日本大震災では、津波が到来する前に、すでに配管破損が起こって、原子炉内の熱水が噴出し、それが大事故を招いた第一歩だった可能性が濃厚である。その事実をサイエンスライターの田中三彦氏、もと格納容器の設計者だった渡辺敦雄氏、後藤政志氏に指摘され、ついにあの原子力安全・保安院が認めたのが、昨年末であった。これは、まさに、日本中の原発すべてに共通する最大の恐怖である。その対策など、100%あり得ない。

 加えてフクシマでは、人間の本質的欠陥が明確になった。原発のコントロール・ルームに働く運転員たちは、結局は大事故が発生してみれば何もできなかったのである。運転員たちは、大事故を想定して訓練を受けていたが、実際にそれが起こってみれば、気が動転して思考力を失い、何をしてよいかまったく分らなくなった。こんなことは、運転員が人間であれば当り前のことだ。複雑怪奇なメカニズムを内包した原子炉の安全装置は、決して自動的にあらゆる問題を解決するようには設計されていない。つまり、ある一定の事故を想定しているだけで、それは、現実に起こり得る出来事の100分の1もカバーしていないのだ。大地震の揺れに襲われたパニック状態のオペレーターたちに、その想定もされていないすべての緊急事態に、万全に対処せよというのは、不可能な要求である。

 こうなったら原発の全基廃止という条件は、日本人の生き残りにとって、絶対に引けない国民の要求である。冥土の土産に、電力会社を血祭りにあげてくれよう。

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ひろせ・たかし 1943年生まれ。早大理工学部応用化学科卒。『原子炉時限爆弾--大地震におびえる日本列島』(ダイヤモンド社)、『二酸化炭素温暖化説の崩壊』(集英社新書)、『FUKUSHIMA 福島原発メルトダウン』(朝日新書)、本連載をまとめた『原発破局を阻止せよ!』)(朝日新聞出版など著書多数
 
【動画配信】公式サイト「週刊朝日・談」で、2011年12月23日にインターネットで生中継した広瀬隆氏のインタビュー「福島原発事故『収束宣言』大嘘の皮を剥ぐ」の動画が、無料でご覧になれます。

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