「死ぬまで雑誌を作りたい」 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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「死ぬまで雑誌を作りたい」

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週刊朝日

ツルシカズヒコ(以下ツルシ) 僕が『「週刊SPA!」黄金伝説1988~1995 おたくの時代を作った男』(朝日新聞出版)という本を書いたのは、雑誌の歴史の空白を埋めたかったから。人気雑誌の編集現場の記録が残っているものって、「平凡パンチ」と「ポパイ」までなんですよ。平成の雑誌の代表としての「SPA!」を記録に残しておきたかったんです。
 中森明夫(以下中森) 編集者の回顧録はたくさん出版されてますけど、この本は単なる思い入れや経験談だけじゃない。当時のデータが細かくちりばめられていて、ジャーナリストの目が入っている。それを編集長経験者が書いたということに意味があると思う。
 
 《「週刊SPA!」は1988年に、老舗週刊誌の「週刊サンケイ」をリニューアルして生まれた。中沢新一や田中康夫といったポスト団塊世代の論客やサブカルチャーの旗手たちを積極的に起用して、20~30代の男性読者から大きな支持を得た。ツルシ氏は「SPA!」編集者時代に宅八郎を発掘し、副編集長のときには、小林よしのりを口説いて人気マンガ「ゴーマニズム宣言」をスタートさせた。
 一方の中森氏は90年代の「SPA!」で「ニュースな女たち」と「中森文化新聞」という二つの連載を持っており、まさに看板ライターとして活躍していた。》
 
 ツルシ 今の「SPA!」の読者は「SPA!」の前身が「週刊サンケイ」だったなんて知らないんじゃないかな。日本の雑誌の100年あまりの歴史を振り返ると、「SPA!」というのは週刊誌の最終形の一形態だと思うんですよ。
 中森 確かに、「SPA!」と同時期に創刊した「AERA」と「Hanako」は今でも残ってるけど、それ以降の週刊誌で成功したものってないよね。
 「SPA!」はある意味90年代を象徴する雑誌だったし、僕も90年代をまるまる「SPA!」にかかわってきた。90年代で最も重要なのが、阪神大震災とオウム真理教の地下鉄サリン事件のあった95年。ちょうどその年にツルシさんが編集長を辞めているということも、この本を90年代論にしていると思うんです。
 ツルシ バブルが崩壊して景気が下り坂に入り始めたころでも、扶桑社の親会社であるフジテレビの「楽しくなければテレビじゃない」的なノリがあり、「SPA!」編集部にはバブルのポジティブ感が漂ってました。雑誌って売れてくると、そこに特殊な磁場が発生して運動体になる。あの一種異様な高揚感を体験できたのは貴重でしたね。
 中森 91年に湾岸戦争が起こったりと、90年代って実は政治の季節だったんです。その政治を巡って、文春と朝日というお約束としての対立構造が成立しているなかで、「SPA!」というのは何だかよくわからない雑誌だった。
 各誌が右だ左だってやってるときに「SPA!」は、「フセインの手相を見る!」って記事をやったんだから(笑い)。これはすごいなと思いましたよ。そうか、これが「SPA!」的なポジションなんだとわかった気がしましたよ。
 ツルシ それまでの「週刊現代」や「週刊ポスト」が団塊の世代に向けて作られた週刊誌だったのに対して、「SPA!」は20代から30代のヤンエグと呼ばれる人たちがターゲットでした。
 でもそれは広告向けの建前の読者層で、僕はヤンエグなんて全然、眼中になかったですもん。ただ自分の好きな雑誌を作っていただけですから。それが結局は、おたくや新人類といわれる人たちに受け入れられたんです。

 《本書では、自決した野村秋介氏の事務所や大手芸能プロのバーニングプロダクションとのトラブル、部落解放同盟の協力を得て描かれた「ゴーマニズム宣言」など、ツルシ氏が残した克明なメモを基に、当時の編集部が抱えていた、決して表面化しなかった交渉ごとが詳細に記録されている。》
 
 中森 あのころ、いつもツルシさんが真っ青な顔してトラブル処理に追われていた記憶がある。取材相手や広告関連のトラブルがここまで細かく書かれている本はなかったと思う。そういう意味でも、単なる懐かしものとして読まれるのではなく、出版志望者のためのきれいごとの就職読本じゃない、シビアな雑誌の現場を書いた本として読めるんじゃないですか。

 ●紙でも電子でも編集力が大事に

 《いま出版業界は大きな転換期を迎えている。雑誌の廃刊が相次ぎ、iPad、キンドルといった黒船到来に戦々恐々としている。雑誌業界を知り尽くした二人は、雑誌の未来をどう見ているのか。》
 
 ツルシ 僕は妻でイラストレーターのワタナベ・コウと「クレイジー・ヤン」という雑誌を作っています。いずれ電子化も考えていますが、大事なのは編集力。それは電子でも紙でも変わらないと思います。電子化はマス化しすぎた雑誌を一度コンパクトなサイズに戻してみるよい機会なのでは。「クレイジー・ヤン」の原点もそこにあるんです。
 中森 週刊誌って「価値の捏造」をするのに最適なメディアだと思うんです。そういうのが週刊誌のおもしろさだった。「ポパイ」や「ホットドッグ・プレス」に取り上げられたモノに憧れるっていう機能があったじゃないですか。インターネットが発達して情報格差が解消された今、それが機能しなくなってきている。
 それでも宝島社の付録付きの雑誌が100万部売れている現実がある。これも新しい形の「価値の捏造」なんですよ。だから僕は、100万部売ろうと思ったら売れるんじゃないかと思う。今は景気が悪くなって、ネガティブ情報ばかりに目がいってるけど、僕は「週刊朝日」が突然100万部売れても全然おかしいと思わないですから。(笑い)
 僕は週刊誌の編集長を今でもやりたいと思ってるんです。この年になって、そんな夢もあきらめていたところにiPadが出てきた。これを使えば、60歳になったときに「中森文化新聞」を復活できるんじゃないかと思ったんですよ。
 ツルシ 僕も死ぬまで雑誌を作りたい。その手段が電子出版なら大歓迎です。今、連合赤軍の特集を考えているんですよ。こういうのはマスじゃできないけど、試行錯誤を経てまた雑誌の時代が来るような気がする。
 中森 いつの時代でも雑誌的なものは社会のなかで必要だと思う。僕は雑誌の未来を楽観視しています。ツルシさんの本は、そんな次の時代へのヒントになるんじゃないですか? いや、「SPA!」っていうのは、ある時代の奇妙なメディアだったよね。もちろん今の「SPA!」にも頑張ってほしいんだけど。   (構成 本誌・今田俊)

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 つるし・かずひこ 「週刊SPA!」3代目編集長 1955年生まれ。「月刊OUT」「週刊サンケイ」を経て「週刊SPA!」編集長に。現「クレイジー・ヤン」編集長。http://www.kureyan.com
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 なかもり・あきお 「おたく」の名付け親 1960年生まれ。コラムニスト。「新潮」5月号で初の純文学小説「アナーキー・イン・ザ・JP」を発表。著書に『女の読み方』など

 

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 『週刊SPA!黄金伝説』(ツルシカズヒコ・著)
定価 :1260円(税込)  サイズ :四六判/192ページ


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