単一の競争原理で勝ち組になった学生は、その原理を変化させたくないと思うのでしょう。こういう同質性の高い集団を選抜し続ければ東大の活力が下がる一方。彼らに迎合して施策をためらう必要はありません。多元的な選抜原理があることは良いことです。

 米国の場合、私学ですら、人種、性別、出身地のバランスに相当配慮して選抜している。日本国内でも、生き残りのかかる地方大は積極的で、例えば島根大では、AO入試や推薦入試など、一般入試以外が定員の約4分の1を占め、将来的には4割を目指すそうです。

――教員の採用はどのように変えるべきでしょうか

 こちらもクオータ制が一案ですが、それだけでなく選考過程を変えれば効果が生まれるでしょう。人事の透明性と公開性を高めれば女性が増えることは、経験的に知られています。

 現状、東大の人事のほとんどは密室人事。ホモソーシャルな集団で師弟関係による縮小再生産が行われているのでしょう。公募なら、海外で学位を取った女性が多数応募してくるため、学位のない東大出身者の競争力はおのずと落ち、より多くの他大学出身者が採用されるでしょう。アイビーリーグ(米国東部の名門大学グループ)では、自校出身者を教員に採用しないという慣行によって研究者の流動性が高まり、多様な人材が取り込まれるようになっています。

 その過程で、期間限定でクオータ制を採用すべきだと思います。導入により研究水準が低下するという批判には根拠がありません。むしろ、一度東大の理工系で女性限定の公募をした際、こんな人がどこにいたのかというくらい優秀な人が応募してきたと聞きました。男性と競合せずにすむ分、応募の際に遠慮や萎縮の必要がなくなるのでしょう。

 女性教員が、クオータ制で採用されたことを理由に男性から嫌がらせを受ける場合もあるそうですが、男性のつまらないプライドにいちいちひるんでいては非常に近視眼的。人事で評価するのは、それまでの業績よりもその先の伸びしろ。採用された後に、准教授、教授と一つ一つ昇進基準を満たし、長い目で業績を判断してもらえば良いでしょう。事実同一ポストにある女性研究者は、同じ条件の男性研究者より業績が多いというデータもあります。

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