●既得権益からの脱却に向けて

――学生の間で意識を高めるには何が必要でしょう

 データを見れば、バイアスははっきりしていますが、学生は事実を知りません。半径3mの狭い空間で過ごしていては、問題意識が生じないのも当然でしょう。

 東大女子を排除したサークルに在学中所属した男子卒業生に会いました。自分のサークルに疑問を持たなかったかと聞いたら、4年間エンジョイして楽しいことだらけだったと言っていました。東大女子もまた、その希少価値ゆえにモテやすかったり、男女の枠があるときに男子より有利だったりします。男子が長年上げ底を経験してきたのだから、女子だってたまには希少価値を味わっても良いでしょう。ですが周囲に女性が少ないのはどこかで意欲を冷却されてきた女子たちがいるからだという想像力を欠いてはなりません。

 こうした既得権益を享受している学生は、それが不正だと認識しない限り意識を変えないでしょう。今春、男女共同参画室長の松木則夫理事・副学長が東大女子を排除するテニスサークルに関する声明を出しましたが、その後何か変化がありましたか。私的な団体が何をしようと自由ですが、大学は公共空間である以上、大学のテニスコートの利用や部室の使用など、社会的に容認できない差別を行っている集団への便益の提供をやめるべきでしょう。

――被害に遭っても告発しづらい空気があります

 被害者が声を上げにくい雰囲気があるだけでなく、傍観者もその場で沈黙すれば、ジェンダーの再生産に加担することになります。沈黙を破る責任は、その場に居合わせた全ての人が負っています。工学部の男性教員が院生の集まりで「女は子どもを産むとバカになる」と発言した際、男子院生が「先生、それはないでしょう」とその場で言ったと聞きました。そのような発言で雰囲気は変わります。ジェンダーはその時その場で再生産される抑圧的な構造です。一緒に笑えば、共犯者になります。親しい間柄でも、その時その場で言うことが大切です。

 こうした場で波風を立てたくないという心理が働くのは、東大が同調性のすこぶる高い人材を選抜してきた結果でしょう。長年、東大を含む国立大は、問いに対して唯一の正解を出す指示に忠実な人材を選抜し、入試では学力という一元尺度における公平性だけを重視してきました。現在の日本の高等教育では、残念ながら、祝辞で述べた「メタ知識(新たな知を生み出す知)」を身に付けた人材を育成することは難しいでしょう。

(文/東京大学新聞社・山口岳大)