「書の美、文字の巧」── 書の展覧会

2016/10/09 18:30

「芸術の秋」というだけあり、秋を迎えると、書店の店頭にはたくさんの芸術書が並び、注目の展覧会が目白押しです。 学校やカルチャークラブでは、書道の展覧会なども数多く開催されますが、もっとも身近な存在であるはずの「文字」を素材にしながらも、いまひとつ“ピン”とこない人が多い「書」。 最近では、小学生の背丈ほどある筆を使った巨大書道アート体験なども話題ですが、今回は、そんな「書」に関する展覧会をご紹介します。

三の丸尚蔵館(東京都千代田区千代田の皇居東御苑内にある博物館)
三の丸尚蔵館(東京都千代田区千代田の皇居東御苑内にある博物館)
中国・日本の長い書の歴史 「書」が行われ始めたのは、もちろん中国。 約3500年前に漢字の原型となる「甲骨文字」が作られて以来、中国ではさまざまに書が書かれてきました。 そして、日本に漢字が伝えられたのは、3世紀頃のこと。日本人は漢字・漢文を受け入れ、漢字を使ってみずから書を書くようになりました。おおよそ7世紀頃から、書の遺品が残されています。 そののち、日本人は漢字を基にして日本語を表記できる表音文字として「かな」を作り出し、「かな」は和歌文学の発展とともに、日本人の美意識のよりどころともなってきました。 そんな日本の書の名品を見ることができる展覧会が、皇居・三の丸尚蔵館(東京都千代田区千代田 皇居東御苑)で開かれています。 皇室に代々受け継がれてきた絵画・書・工芸品などが国に移管され、一般公開されるようになったのは1993(平成5)年のこと。今回の「書の美、文字の巧」に展示される代表的な作品を紹介します。
王羲之肖像
王羲之肖像
王羲之・空海・道風──中国風から日本風へ ●王羲之「喪乱帖」(前期展示) まず、日本の書ではありませんが、中国で今でも「書聖(書の聖人)」として尊敬される王羲之(おうぎし)の書です。 王羲之は4世紀に生きた、世襲の貴族でしたが、その書は彼の在世中から珍重され、多くの人がお手本としてきました。その多くは王羲之の書いた手紙です。ところが、王羲之の真筆は現在では一点も存在せず、すべて模写されたものばかりです。精巧に7~8世紀頃に中国で作られた模写本が日本に伝わっています。バランスが取れ整った美しい姿でありながら、緊張感に満ちた書きぶりを見ることができます。 ●空海「孫過庭書譜断簡」(前期展示) 空海(弘法大師)は言わずと知れた平安時代の僧で、日本真言宗の開祖です。 空海は若いころに中国に遣唐使として中国に渡り、中国の書を学びました。 この作品は唐時代の孫過庭という人の書いた「書譜」(台北・故宮博物館蔵)という作品を模写した断簡です。空海がいかに王羲之の書を根幹とした中国の書の真髄を学び取ったかがよく分かる作品です。こうした中国風の書を「唐様」(からよう 中国風)と呼びました。 ●小野道風「玉泉帖」(前期展示) 小野道風は日本の書聖として広く知られています。 彼は中国風の書を独自に消化して新しい日本風の書を作り出しました。王羲之風を根幹としながらも柔らかでたっぷりとした筆遣い、ゆったりとしたリズムなど、緊張感という点では中国書と一味違いますが、漢字を書いた書にもかかわらず、日本人の美意識が反映されているといえる作品です。こうした書風を「和様」(わよう)と呼びます。 前期展示の代表的な3点のみ挙ましたが、3期にわたって奈良時代から幕末までの名品約70点が展示されます。 書には、文字の豊かな表情や美しい書きぶりによって、書いた人の思いや思想だけでなく、時代時代の美意識や社会情勢などが反映されています。 皇居散歩とともに、ぜひその一端を感じ取ってください。
空海の開いた高野山金剛峯寺
空海の開いた高野山金剛峯寺
「書の美、文字の巧」 会期:~ 平成28年12月4日(日) 前期:~ 10月10日(月・祝) 中期:10月15日(土)~11月6日(日) 後期:11月12日(土)~12月4日(日) 休館日:毎週月・金曜日,展示替の期間 ただし、9月19日(月・祝)、10月10日(月・祝)は開館し、9月20日(火)は休館。 開館時間:9月17日(土)~10月30日(日)は午前9時~午後4時15分(入館は午後4時まで) 11月1日(火)~12月4日(日)は午前9時~午後3時45分(入館は午後3時30分まで) 三の丸尚蔵館: (入門してから約100メートル)/地下鉄各線の大手町駅(C13a出口)から徒歩約5分/JR東京駅(丸の内北口)から徒歩約15分
皇居東御苑・大手門
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