3月の詩歌 ── 春を詠んだ詩歌に垣間見られる、うれしい予感と憂いの交錯

2016/02/29 16:30

今年はうるう年。2月が29日まであります。 太陽暦と地球の自転周期のずれを調節するために4年に一度設けられています。 体感的にはまだまだ冬の感じが残っていますが、詩歌の季節はもちろん春。 長くこわばっていた体もほぐれていくかのようで、うれしい予感に満ちた……、 3月の詩歌を集めました。

固い桜のつぼみがほころぶのも、もうすぐです!
固い桜のつぼみがほころぶのも、もうすぐです!
蕗の薹(ふきのとう)・梅・猫の恋 春のさきがけは蕗の薹(とう)などの植物です。ほろ苦さとともに清潔なイメージがあります。 〈蕗の薹食べる空気を汚さずに〉細見綾子 2月になると梅が咲き始め、3月にはもう盛りをすぎているところもあります。 一つ一つの花や蕾の小さな変化を見つめるまなざしは俳句独特のものです。 〈二もとの梅に遅速を愛すかな〉与謝蕪村 〈梅一輪一輪ほどの暖かさ〉服部嵐雪 まだ雪が残っているところもありますが、氷も薄くどことなく頼りないのが春を感じさせます。 でも春に突風が吹くこともありますし、不意に寒さがもどってくることもあります。 〈薄氷(うすらい)をさらさらと風走るかな〉草間時彦 〈春疾風(はやて)乙女(おとめ)の訪(おとな)う声吹きさらはれ〉中村草田男 〈筆えらぶ店先にゐて冴え返る〉室生犀星 〈春寒や旧姓繊(ほそ)く書かれゐる通帳出で来つ残高少し〉栗木京子 溶けた雪は道を汚します。 しかし「春泥」といった途端になにか風情があるような気がしてしまうのも季語のマジックです。 〈春泥に歩きなやめる遠会釈〉星野立子 夜など、猫が騒ぎ始める季節でもあります。 俳句では「猫の恋」といいます。冬ごもりしてした虫が穴を出てくるのが啓蟄(けいちつ)です。 〈恋猫の皿舐(な)めてすぐ鳴きにゆく〉加藤楸邨 〈はるかなる地上を駆けぬ猫の恋〉石田波郷 〈啓蟄や幼児のごとく足ならし〉阿部みどり女
〈薄氷(うすらい)をさらさらと風走るかな〉
〈薄氷(うすらい)をさらさらと風走るかな〉
俳句の春と短歌の春 俳句は春の風物に小さな喜びを見つけるようですが、どういうわけか、和歌や短歌はあいまいでかすかな春の憂いを好んで詠むようです。 〈うらうらと照れる春日(はるひ)に雲雀(ひばり)上がり情(こころ)悲しも独(ひと)りし思えば〉万葉集 〈願はくはわれ春風に身をなして憂(うれひ)ある人の門(かど)をとはばや〉佐々木信綱 〈猫のひげ銀に光りて春昼(しゅんちゅう)のひとりの思ひ秘密めきたる〉小島ゆかり 〈気まぐれな春の雪片われと子のはるかな間(あはひ)に生まれては消ゆ〉川野里子 俳人の詠むちょっと不思議でユーモラスな歌を一首。 〈手も足も勝手に動く感じしてキリンを見たりそのあと河馬も〉坪内稔典 うれしさと憂いが交錯するのが、この季節なのかもしれません。
 春を告げる鳥・ひばり
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