実際には何も食べないのに、「文字を食べる」という不思議な習俗(おまじない)

2015/11/24 18:30

秋から冬にかけての季節は、何を食べてもおいしいですね。 人間にどうしても欠かすことのできない行為「食べる」ことについて、どんな習俗があるのでしょうか。 たとえば、最中や落雁、月餅などに文字が刻印されていることがあります。 そのお菓子の名前や製造元やブランドであることもありますが、たとえばお祝いの席で使われる祝い菓子や月餅などには、「寿」などの吉祥の文字が押されています。 ──「文字を食べること」にはどんな意味があるのでしょうか。

「寿」の文字が入った祝い菓子(縁起菓子)
「寿」の文字が入った祝い菓子(縁起菓子)
度胸がつくおまじない 実際には何も食べないのに「文字を食べる」という習俗もあります。 たとえば、舞台などに上がるとき「人」という文字を手のひらに3回書いて、食べる(飲む)仕草をすると度胸がつく、というおまじないがあります。 今でも落語家や芸人がよく本番前にやることのようです。 昭和の大名人・八代目桂文楽も「人」の字を手のひらに書いてから高座にのぼったといいます。 歌手の越路吹雪は作詞家で友人の岩谷時子に、ステージ前に背中に「虎」の字を指で書いてもらっていたというエピソードが残っています。 古くからある文字信仰のひとつなのでしょうが、江戸時代の歌舞伎役者初代・中村仲蔵もこの仕草をやっていたとされていることが、芸能の世界で広まったきっかけのようです。 また、歌舞伎の「助六」には「俺の名を手のひらに三べん書いてなめろ。一生女郎に振られることがねえ」という台詞が出てきます。
験担ぎにもいろいろありますね
験担ぎにもいろいろありますね
護符を食べる 「文字を食べる」ことについての逸話は、古くからあり、鎌倉時代の高僧・日蓮は、毒消しの護符を飲んで助かったという言い伝えもあります。 古代中国にもあります。 特に道教には、文字の書かれた護符や、それを焼いた灰を食べるという習俗があったようですし、最中や月餅の文字も人間の信仰や、それを支える言葉や文字と無関係ではないのです。 4世紀の郗愔(ちいん)という名前の貴族は道教の熱心な信者でしたが、ある時、体の具合が悪いので、下剤をのんだら、こぶし大の紙のかたまりが出て、それはすべて護符だった、という逸話が残っています。 こうした場合には、そうした文字の「意味」を食べているといえるかもしれません。 ── これからの季節はイベントやパーティなどが多く開催されます。大勢を前にスピーチをする人も多いでしょう。 そうした時に、先述した「人」という文字を手のひらに3回書いて、食べる(飲む)仕草をすると、きっと緊張もやわらぐはず。 野球選手がバッターボックスに入ったとき、ゴルファーがアドレスに入ったとき、そして、最近非常に有名になったラグビー選手がキックを蹴る前に行う一連の所作もそうですが、ルーチンワークといえる一連の挙動を行うことで、ミスを招く邪念を振り払い、体のこわばりを解く……。 こうした一種のおまじないによって、成功や大記録を成し遂げている一流選手や経済人が多いのも事実です。 文字や所作には、言霊ならぬ不思議なパワーが宿っているのかもしれません。
月餅と書かれた中国菓子
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