北海道の大雪山をかわきりに、北から南へ、山から里へ、紅葉前線がゆっくりと鮮やかに日本全体を染めていきます。11月2日~6日のころは、七十二候≪楓蔦黄~もみじつた きばむ~≫。すべてが散ってしまうまえに、錦綾なす美しき秋を、こころゆくまで愛でたい時節です。

赤に染まり、黄に染まり。秋の情景はまさに「錦繍(きんしゅう)」の趣

春の桜前線が南から北へ北上するのとは逆に、紅葉前線がいま、北から南へ日本列島をさまざまな色で染め上げています。
その風景は昔から、紅、茜、朱、橙、刈安、黄はだ、鬱金などさまざまな色の絹糸で華麗に織られた錦(にしき)にたとえられ、錦繍とも錦秋とも言われています。
「紅葉(こうよう)」とは、秋、落葉する前に緑色の木の葉が赤や黄に色づく現象のこと。
赤や黄色に染まるメカニズムは、葉の中にある色素が作用するから。秋に気温が下がるとともに、葉を緑色に見せるクロロフィル(葉緑素)の能力が低下。そこで、赤やオレンジ、黄色に発色するカロテノイドが多くなり、葉を黄色く染めます。
また、落葉樹の大半は(葉を枝から落とすために)葉で生産されたタンパク質が、葉のみに留ることでアントシアニンが作られ、この成分により赤色に発色し真っ赤な紅葉となるのです。
(ちなみに、イチョウやポプラなど黄色の単一色に染まるものは、このアントシアニンが合成されない種なのだということです。)
気温や紫外線など自然条件の作用によって、おなじ赤でも、黄色でも、多彩な表情を魅せる紅葉。植物によって、葉の一枚一枚によって、微妙に違う豊かな色合いは、いくら見てもあきない美しさで魅了します。

モミジとカエデの違いって? 「錦が綾なす」ほど多様な日本の紅葉

赤や黄で織り上げられてゆく日本の秋。微妙な色の差異、繊細にして複雑なグラデーションを楽しめる秘密は、美しく色づくモミジやカエデの種類が、他の国に比べ特に豊かだからだといわれています。
江戸時代に来日したシーボルトも、紅葉が見事な日本のカエデの仲間の種や若木を持ち帰ったとか。それらはヨーロッパでブームを巻き起こし、以降様々な品種を増やしたと聞きます。
さて、一般的にはモミジが赤く、カエデは黄色く色づくと思われているようですが、モミジとカエデは分類上、同一のカエデ属として扱われています(イロハモミジをイロハ(タカオ)カエデとも呼ぶように、モミジとカエデの厳密な区分はないようです)。
ただ、通常葉の切れ込み具合で、深く切れ込んだものを「~~モミジ」。浅いものを「~~カエデ」と呼び分けているとか。200を数える園芸種では圧倒的にモミジ系が多いそうですが、野生種でモミジと名がつくのは、イロハモミジとオオモミジ、ヤマモミジと少数派なのだそうです。
ちなみにカエデの名の由来は、葉がカエルの手に似ていることから。モミジは、植物が色づくことを意味する「もみつ」という自動詞の名詞形「もみち」から。ともに万葉の時代から歌に詠まれています。

源氏物語にも描かれた、壮絶なまでに美しい紅葉の情景

~黄葉(もみちば)をちらすしぐれにぬれてきて~
~あしひきの山の黄葉(もみちば)こよいもか~
など、あまたの歌に詠まれた赤や黄への色変わり「もみち」から、濁音化した「もみじ」という言葉が現れるのは平安時代。源氏物語では、「もみじ」に「紅葉」の文字があてられています。
その七帖「紅葉賀」の巻では、
~大高き紅葉の蔭に、四十人の垣代(かいしろ)、いひ知らずふきたてたる物の音どもに合ひたる松風、まことの深山おろしと聞えて吹きまよひ、色々に散り交ふ木の葉の中より、青海波(せいがいは)のかかやきいでたるさま、いと恐ろしきまで見ゆ。かざしの紅葉いたう散りすぎて、顔のにほひにけおされたる心地すれば、御前なる菊を折りて左大将さしかへたまふ~
と、小高い紅葉の樹木の陰から舞い出た光源氏の姿は恐ろしいまでに美しく、この世のことではなかったと記す紫式部
緑の生気を失いながらも、いまひとたびの華やぎを炎と燃やす秋の紅葉。日本の自然は、壮絶なまでに美しい情景を、今も昔も、季節が巡りくるたび私たちに見せてくれるのです。

これから見頃を迎える紅葉スポットも。いざ、「紅葉狩り」へ!

能や歌舞伎の演目としてもおなじみの「紅葉狩」。いまでも紅葉見物に行くことを「紅葉狩り」というのはどういうわけでしょうか。獣をつかまえる「狩り」が、果物や植物を採る意味となり(たとえば、ぶどう狩りやイチゴ狩り)、さらに草花を眺めることになったという説も。加えて紅葉を愛でるには、都市部から(狩りをする)野山へでかける必要があったからともいえそうですね。
さて、これから紅葉の見ごろを迎える名所も多く、今年もまだまだ各地で楽しめる紅葉狩り。おでかけの際は、ぜひ下記リンク先紅葉情報2015をご参照ください。
日光、筑波山、天城、大矢田、宮島、大山、九住…
なかでも、一年で最もにぎわうという11月の京都の秋は実に圧巻。
東福寺、南禅寺、三千院、大覚寺、清水寺、西芳寺、修学院離宮……数え切れないほど紅葉の名所が点在し、思い思いに紅に染まる京都の秋景は、一度は目にしたい憧れの世界ですね。
――さて、今年の紅葉見。(まだご覧になってない方は)どこへ足を伸ばしましょうか。
たとえ近くの公園でも、ご自宅の庭でも。陽光に透かして照り映える紅葉の美しさにはっと目を見張った瞬間、艶やかでどこか物悲しい秋が、今年もドラマチックにやってくるのです。
※参考&出典
「モミジとカエデの国」(湯浅浩史著)
「庭の恵み/紅葉の時」(竹西寛子著)