豊かに稔った新穀を神様に捧げる伊勢神宮の《神嘗祭(かんなめさい)》は“神宮のお正月” 〈tenki.jp〉|AERA dot. (アエラドット)

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豊かに稔った新穀を神様に捧げる伊勢神宮の《神嘗祭(かんなめさい)》は“神宮のお正月”

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毎年10月15日~17日に行われている《神嘗祭》が今年も伊勢の地で始まりました。年間1500回以上もあるといわれる伊勢神宮のお祭りには稲に関わるものが多く、この《神嘗祭》は一年で最も重要で最も大きな祭儀です。“神宮のお正月”とも称される《神嘗祭》。神宮の祭りの頂点たるゆえんを紐解けば、改めて心に刻んでおきたい、私たちが暮らす瑞穂の国の原点ともいうべき、稲作の歴史や伝統が息づいていました。

稲穂の実りに感謝し、豊穣を祝う。瑞穂の国ならではのお祭り≪神嘗祭≫

本年3月に12別宮(べつぐう)すべての遷宮祭を終え、第62回「式年遷宮」を完遂した「伊勢神宮」。(※正式名称は「神宮」)。
内宮(ないくう)、外宮(げくう)及び各別宮の社殿をはじめご装束神宝まで、すべてが20年に一度更新され生まれ変わることで、悠久の歴史を重ねながらも永遠に常若(とこわか)な世界でも類を見ない聖地です。
≪神嘗祭≫は、皇大神宮「内宮」に祀られる天照大御神(あまてらすおおみかみ)が天孫降臨に際し、瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)に天上界で育てていた「稲穂」を授けたことが由来。
遥か太古の昔、高天原からもたらされた「稲穂」という神様からの贈り物が、太陽の恵みと人々の努力により無事今年も、黄金色にたわわに稔ったことを、大御神に感謝し奉告するお祭りが《神嘗祭》なのです。
「式年遷宮」のことを《大神嘗祭》と呼ぶことからも、10月に行われるこの《神嘗祭》が、いかに神宮にとって大切な祭儀であるか、推し量ることができますね。
日本人の命の糧となってきた稲穂の収穫を祝う祭儀が、最も重要とされる神宮。私たちが暮らすこの国が、稔り豊かな瑞穂の国であり続けることを、ここでは一年を通じ日々厳かに祈られているのです。

幕開けは2月の「祈念祭」の五穀豊穣の祈りから。前日には神様の御衣まで一新する“神宮のお正月"

お米づくりそのものがお祭りとなっている伊勢の神宮。
《神嘗祭》を迎えるための祭事は、毎年2月の「祈念祭(きねんさい)」における五穀豊穣の祈りからはじまります。続いて4月上旬には、お供えするご料米の籾種を蒔く「神田下種祭(しんでんげしゅさい) 」が神宮神田にて行われます。
5月には、早苗を神田に植える「御田植初(おたうえはじめ)」。
6月には、「伊雑宮(いざわのみや)」での「御田植祭」。
5月と台風シーズンを控えた8月には、「風日祈祭(かざひのみさい)」。御幣(ごへい)、御笠(おんかさ)、御蓑(おんみの)を奉り(※8月には榊)、風雨の災害なく五穀が豊かに稔るよう祈ります。
そして黄金色の稲穂が頭をたれる9月上旬は、「抜穂祭(ぬいぼさい)」。これは、ご料米の御稲穂(おんいなほ)を古式ゆかしく手で1本ずつ抜き取るお祭り。収穫された新穀は、《神嘗祭》で神様に奉る御飯やお酒になるのです。
さらに、前日の10月14日には、神様の装束を衣替えする「神御衣祭(かんみそさい)」も。御衣をはじめ御塩、御酒、祭器まですべてを新しく整えて《神嘗祭》当日を迎えます。
このようにすべてを刷新し、清々しく迎える《神嘗祭》は、まさに“神宮のお正月”。この日に向かってあまたの祈りが捧げられ、多くの人の手を経て新穀が稔るというプロセスが、毎年毎年真摯に繰り返されているのですね。

10月15日夜、浄闇(じょうあん)のなか粛々と行われる「由貴夕大御饌(ゆきのゆうべのおおみけ)」

《神嘗祭》の幕開けは、まず外宮から。10月15日の夜(22時)に「由貴夕大御饌(ゆきのゆうべのおおみけ)」が執り行われます。
16日の暁(夜中の2時)からは「由貴朝大御饌(ゆきのあしたのおおみけ)」。
そして、16日の正午(12時)からは「奉幣(ほうへい)の儀」。
その後、内宮を舞台に、16日夜(22時)「由貴夕大御饌(ゆきのゆうべのおおみけ)」、17日暁(夜中の2時)「由貴朝大御饌(ゆきのあしたのおおみけ)」、17日正午(12時)「奉幣(ほうへい)の儀」が行われます。
「由貴大御饌(ゆきのおおみけ)」とは、“限りなく貴いお食事をお供えする"という意味合い。
アワビ、鯛、伊勢エビ、サザエ、鮎、野鳥、大根、柿、御飯三盛、乾鰹、昆布など海山の食材は30種を超え、さらに白酒(しろき)、黒酒(くろき)、醴酒(れいしゅ)、清酒(きよさけ)と4種ものお酒まで、豪勢に心細やかに奉られるのです。
また、神饌を捧げるこの祭儀は、清らかな夜――浄闇(じょうあん)のなか行われます。しんと静寂な夜の森のなか、松明の炎に照らされ、祭主をはじめ神職たちがお祓いをした後、一年に一度の新穀を神様に供進し召し上がってもらうのです。漆黒の闇に溶けゆく、神楽歌、玉砂利を踏み締める音、八開手(やひらで)の拍手、国の繁栄や国民の平安を祈る祝詞……実際に見ることは叶わないけれど、千古の昔からこのお祭りが連綿と厳かに続けられてきたことに思いを馳せれば、ありがたくも神聖な思いにとらわれ心が改まる気がします。

掛け声も威勢のいい陸&川の「初穂曳(はつほびき)」をはじめ全国のお祭りも集結

さて、前述の「由貴大御饌」は外宮・内宮とも夜間に行われるため、一般の参列はできません。けれども、皇室から勅使が遣わされ幣帛(へいはく※絹などの奉りもの)を奉納する「奉幣(ほうへい)の儀」は、一部拝観が可能です。
(※外宮では16日、内宮では17日。いずれも二の鳥居あたりで正午前ごろ待っていると、祭主、大宮司以下大勢の白い斎服をまとった神職が、参道を進む参進の様子などを拝観できるとか)
また《神嘗祭》の期間は、伊勢の町をあげての「大まつり」。賑やかな奉祝行事が盛大に行われています。
神様へ豊作の感謝を込めて初穂を奉納する「初穂曳(はつほびき)」は、エンヤエンヤの掛け声も勇壮。飾り付けをした御木曳車に初穂を乗せ、地元・伊勢の神領民たちが法被(はっぴ)姿に木遺り歌も勇ましく進みます。
15日の10時~12時30分は「外宮領陸曳(げくうりょうおかびき)」が、16日の10時~14時30分は五十鈴川を溯る「内宮領川曳(ないくうりょうかわびき)」が行われるので一度は見てみたいもの。収穫の喜びと五穀豊饒の感謝を分かち合う奉祝行事に、阿波踊りや郡上おどりなど全国の著名な祭りの担い手たちも集い、伊勢全体が収穫の季節の喜びにわくのです。
そもそも新米は、まず一番にこの《神嘗祭》にお供えしていたものだとか。(今は8月頃から出回る新米ですが)昔は《神嘗祭》の前に新米を口にすることはなかったそうです。そんな習わしを今も守るという、神宮の神職をはじめ伊勢の人々。
この地には、私たちの命をつないできた「命の根」=「稲(イネ)」への感謝と豊饒を願う祈りが、静かに、熱く、まことのこころとして脈々と息づいているのです。
◎参照&出典
伊勢の神宮(南里空海著/世界文化社)、伊勢神宮ひとり歩き(ポプラ社)


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