「寒ざらしそば」を食べたことがありますか。少しお値段が張りますが、そば好きにはたまらないおいしさです。この「寒ざらしそば」、1月の厳寒期から仕込みが始まっています。

「寒ざらしそば」は、ただ今、仕込みの真っ最中。
「寒ざらしそば」は、ただ今、仕込みの真っ最中。

玄そばを冷水につけ、寒風にさらし、乾燥させる。それが 「寒ざらし」

そばは秋に収穫されます。その頃になると、おそば屋さんにはよく、「新そば入りました」のチラシが貼られています。秋は新そばがおいしい季節ですね。
一方、「寒ざらしそば」は、秋に収穫した玄そば(殻つきのそばの実)を、冬の厳寒期に冷たい水につけ、これを寒風にさらして乾燥させたものを使います。そばは、冷水につけて寒風にさらすと、余分なアクや渋みが抜け、甘みと風味が増し、舌触りがよくなります。
この「寒ざらし」の製法は、江戸時代、徳川家にそばを献上するために考えられた手法で、これにより夏でもそばを食べることができるようになったそうです。
伝統的な製法の「寒ざらし」。普通のそばより、ひと手間もふた手間もかけた「寒ざらしそば」は、食べてみたことがある人なら、そのおいしさは、うなずけると思います。

そばどころによって、仕込む期間が違う

そばどころと言えば、まずは信州。長野県の高遠地区では、一年で最も寒い大寒(1月20日ころ)に、玄そばを冷たい川の水に沈め、節分(2月3日)の日に水から引きあげます。その後、玄そばを寒風と日光にさらして、水分が最初の15%くらいになるまで乾燥させます。
蔵王や飛騨高山でも大寒に玄そばを水につけますが、水から引きあげる日は、蔵王が立春(2月4日ころ)、飛騨高山は少し遅くて2月13日です。
そばの生産量が日本一の北海道。そんな北海道の新得町(しんとくちょう)では、玄そばを1月22日に水につけ、今年は水から引きあげたのは1月29日でした。これを厳寒の風にさらし、2月早々から町内で「寒ざらしそば」が提供されています。

雪の中に貯蔵する 「雪蔵(ゆきぐら)蕎麦」 も登場

北海道旭川市から車で約1時間半北上したところに位置する幌加内町(ほろかないちょう)は、冬になると、最高気温が-5℃、最低気温が-15℃にもなる極寒の地です。農業と酪農の町ですが、特産品はそばで、その生産量は日本一。
ここでももちろん「寒ざらしそば」を作っていますが、最近は、雪の中に貯蔵する「雪蔵蕎麦」を開発、今年で7年目をむかえます。
その製法は、玄そばが入ったコンテナを雪で覆い、温度1~2℃、湿度90%以上の状態で、なんと6月下旬まで長期間保存し、熟成させるというものです。7~8月になると販売が始まるとともに、町内のそば屋で食べることができます。
「寒ざらしそば」は、最近話題の「寒じめちぢみほうれん草」と同様、寒さにさらされて甘みと風味が増すというものですが、その製法は江戸時代にはすでに確立されていたというから驚きです。提供される時期は産地によって違いますが、そば好きにとって、「寒ざらしそば、入りました」の文字が待ち遠しいですね。