今年のクリスマスは、あなたのテーブルにはどんな料理が並ぶのでしょうか。

 この時期、近所のスーパーでもローストチキン用の丸鶏が並ぶ日本。では、クリスマスの本場、キリスト教の国々ではどのような料理が食卓を彩るのでしょう。神話や民間信仰、キリスト教の風習など興味深い歴史から誕生した、各国のクリスマス料理について紐解いてみましょう!

クリスマスになぜ『鯉』!? 意外すぎる東欧のクリスマス

 チェコ、ポーランド、ハンガリーやドイツの一部でクリスマスによく食べられるのが、なんと『魚』。特に鯉が主流のようです。クリスマスイブが近くなると、デパートの魚売り場は鯉を求める行列ができるほど! チェコでは、クリスマス市に鯉の生け簀(す)が登場し生きたまま持ち帰る人も多いとか。調理法は切り身をフライにしたり、一匹まるごと豪華に姿煮に。鯉は14世紀にアジアからもたらされました。現在でもドイツのバイエルン州北部、フランケン地方などで盛んに養殖が行なわれています。

 なぜ魚なのかは、キリスト教が迫害されていたローマ時代まで遡ります。『イエス・キリスト・神の・子・救い主』という言葉のギリシャ語の頭文字をつなげると、『魚』を表す『イクテュス』という言葉に。キリスト教徒たちはこのマークを仲間同士の暗号として使っていました。また、魚料理には断食の意味もあるよう。肉を絶って聖なる日を祝う、という気持ちが込められているのかもしれませんね。

サンタクロースの出身地、北欧で豚肉を食す理由とは…

 サンタクロース村のあるフィンランドでは、クリスマスに豚肉のハムを食べる習慣がありますが、起源をたどると『ユール』という冬至の祭りに行き着きます。太陽を讃えて豊作を祈り、北欧神話における豊穣の神フレイに雄豚を供犠したあと、丸焼きにして会食した風習がクリスマスに転化されたもののようです。

 北欧諸国では現在でもクリスマスのことをユールと呼びます。スウェーデン、ノルウェー、デンマークでも、ローストポークや豚肉のハムがクリスマスのメインディッシュとして定着しています。北欧神話とキリスト教が融合して、北欧では『豚』がクリスマス料理の象徴になったのですね。

七面鳥はアメリカ原産。では、ヨーロッパでの鳥料理の起源は?

 日本では本場のクリスマス料理といえば七面鳥というイメージがありますが、七面鳥はもともとヨーロッパに生息しておらずアメリカが原産。現在は、イギリス、フランス、ドイツでも七面鳥がクリスマス料理として食卓を飾っていますが、古くは『ガチョウ』がクリスマス料理の定番でした。

 ガチョウはヨーロッパの代表的な家畜で、豊饒のシンボルとして11月11日の『聖マルティンの日』と呼ばれる収穫祭に捧げられていました。冬の始まりとされるこの頃は、ちょうど脂がのってガチョウがいちばんおいしい時期であり、丸々太ったガチョウは大地の神々の恵みを表していました。民俗行事としての収穫祭がキリスト教化され、クリスマスにガチョウを食べる習慣が根付いたのです。

 七面鳥は、16世紀の最初に新大陸からスペイン人がヨーロッパに伝えたものといわれています。それが次第に広まっていき、アメリカでクリスマスに七面鳥を食べる習慣が、19世紀に入ってからヨーロッパでも定着したと考えられています。キリスト教の国々では特別な意味付けや深い歴史があるクリスマス料理。でも、いちばん大切にしているのは、昔も今も、身近にあってごちそうになるものを用意して、親しい人とテーブルを囲み楽しい時間を過ごすこと。私たちも料理の歴史に思いを馳せながら、テーブルに点したキャンドルの炎のように心あたたまる特別な時間を過ごしたいですね。

「食事をするのは笑うため、酒は人生を楽しむため」(旧約聖書)