『イヤー・オブ・ザ・ホース』ニール・ヤング クレイジー・ホース 
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『イヤー・オブ・ザ・ホース』ニール・ヤング クレイジー・ホース

 1997年夏発表の『イヤー・オブ・ザ・ホース』は、『アンプラグド』やアーカイヴ・シリーズ、CSNYの『4ウェイ・ストリート』を別にすると、ニール・ヤングにとって4枚目のライヴ・アルバムだ。正確な表記はないが、96年後半に行なわれたクレイジー・ホースとの欧州/北米ツアーから12曲がピックアップされている。
 「復活」を強く印象づけた『WELD』とのインターバルはわずか6年。ふたたびクレイジー・ホースと2枚組ライヴ盤を制作する必然性があったのか、疑問の残るところだが、この背景には、『デッド・マン』で関係を深めたジム・ジャームッシュが取り組んでいた、ニールとホースをテーマにした同名のドキュメンタリー映画があった。また、彼らの創作活動に深く関わってきたデイヴィッド・ブリッグス(95年11月に他界)へのトリビュートという想いも込められていたはずだ。なお、映画とアルバムは、テーマとコンセプトはもちろん共通しているが、収録曲は大きく異なっている。アルバムはあくまでも独立したライヴ作品と受け止めたほうがいいだろう。
 名盤『アフター・ザ・ゴルード・ラッシュ』から《ホエン・ユー・ダンス・アイ・キャン・リアリー・ラヴ》、『ラスト・ネヴァー・スリープス』から《セダン・デリヴァリー》、ツアーのタイトルでもあった『ブロークン・アロウ』から《スキャタード》など3曲、見過ごされがちな作品ながらブリッグスがとくに愛したアルバムだったという87年の『ライフ』から《ホエン・ユア・ロンリー・ハート・ブレイクス》など2曲、やはり彼が愛した『ZUMA』から《バーストゥール・ブルース》など2曲、といったところが収められている。いずれも、ブリッグスとの想い出と深くつながるものだろう。
 指摘しておきたいのは、ニールが生ギターを弾きながら歌う《ミスター・ソウル》と《ヒューマン・ハイウェイ》でもクレイジー・ホースがきっちりとバックを務めていること。ソロ・コーナーにはしなかったということだ。またジャケット上の表記は、&でもwithでもなく、ニール・ヤング・クレイジー・ホース。さらには、プロデューサー名はホースとなっている。ジャームッシュから刺激を受けながら、ブリックスとの想い出をテーマに、クレイジー・ホースとの関係を再確認/再構築した作品でもあったのだ。

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大友博

大友博

大友博(おおともひろし)1953年東京都生まれ。早大卒。音楽ライター。会社員、雑誌編集者をへて84年からフリー。米英のロック、ブルース音楽を中心に執筆。並行して洋楽関連番組の構成も担当。ニール・ヤングには『グリーンデイル』映画版完成後、LAでインタビューしている。著書に、『エリック・クラプトン』(光文社新書)、『この50枚から始めるロック入門』(西田浩ほかとの共編著、中公新書ラクレ)など。dot.内の「Music Street」で現在「ディラン名盤20選」を連載中

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