J.A.T.P.イン・トーキョー~ライヴ・アット・ザ・ニチゲキ1953
J.A.T.P.イン・トーキョー~ライヴ・アット・ザ・ニチゲキ1953

J.A.T.P. In Tokyo-Live At The Nichigeki Theatre 1953 (Pablo Live)
Recorded At The Nichigeki Theatre, Tokyo, Nov. 4, 7 & 8, 1953

 1ドルが360円の時代、ジャズが目的でアメリカに行くなんてのは今日の月旅行ほどの現実味もなかった。日常的にはジャズ喫茶に通い、ときにレコードに奮発するというのが一般的なファンの実状だったように思う。そんななかで、ジャズ・ミュージシャンの来日コンサートは本場のジャズを生で聴くことができる貴重な機会で、誰それのコンサートに行ったということ自体がステータスになりえた。その有難味はジャズ・クラブでのギグが日常茶飯事の今日からは想像できまい。ジャズ誌はもちろん、ときにマスコミでも大きな扱いをうけ、ライヴ盤は当夜の聴衆と行けなかった者の購買欲をそそり、レコード会社と広告媒体のジャズ誌を潤すという好循環が生まれた。ファンにとっても関係者にとってもジャズ・ミュージシャンの来日コンサートはまさしく大イヴェントだったのだ。ジャズ・シーンの存在を物語るこうした状況は80年頃まで続き、その間に数々の名盤が生まれた。

 その嚆矢となったがJ.A.T.P.の来日コンサートだ。我が国のジャズ受容史で初となる最大級の役割を果たした。J.A.T.P.はアーティストやグループの名前ではない。Jazz At The Philharmonic(ジャズ・アット・ザ・フィルハーモニック)の頭文字を並べた略称だ。44年7月、のちにヴァーヴ・レーベルを興すノーマン・グランツはロサンゼルスのフィルハーモニック・オーディトリアムでオール・スターズによるコンサートを開催する。カンザス・シティ流のジャム・セッションを手本にしたコンサートは大成功を収め、第1回の頭文字をとってJ.A.T.P.と呼ばれることになる定期コンサートが各地で催されていく。やがて舞台はヨーロッパやアジアにも及び、その活動は60年(67年に再興)まで続いた。スウィング派とモダン派の大物が居並んだ40年代のJ.A.T.P.は熱狂的な人気を博し、チャーリー・パーカー(アルト・サックス)をはじめ、多くの名演や熱演を残していく。

 52年の春のジーン・クルーパ(ドラムス)の来日コンサートの興奮も冷めやらぬなか、J.A.T.P.の『パーディド』が国内発売されて大セールスを記録、気を良くした日本マーキュリーの働きで来日公演が決まる。プロモーションとして羽田から日劇までオープン・カーによるパレードが敢行され、風も冷たい11月とあって、数人が風邪をひくことに。本作の音源はTBSが放送用に録ったもので、当初はLP3枚組ボックスで発売された。  J.A.T.P.も40年代の終わりにはマンネリ化や同種企画の台頭で鮮度を失っていく。50年代に入るとグランツはオール・スターズのジャム・セッションのほかに、臨時編成のコンボ、レギュラー・コンボ、同一楽器のバトルなどのセットを加え、変化に富んだコンサートに生まれ変わらせる。この効き目もやがて薄れ始めるが、53年の本作ではまだまだそんなことはない。どころか50年代のJ.A.T.P.のベスト・パフォーマンスと言える。

 本作はオール・スターズのジャム・セッション、オスカー・ピーターソン(ピアノ)のトリオ、クルーパ・トリオ、エラ・フィッツジェラルド(ヴォーカル)のセットからなる。「ミナサン、コンバンワ」に始まるグランツのMCが微笑しい。オール・スターズが登場、のっけからハード・ドライヴィングな《トーキョー・ブルース》に張り倒される。端からこんなに飛ばして大丈夫かと気になるほど、全員が猛然とダッシュして痛快極まりない。続く『コットン・テイル』のテナー・バトル、トランペット・バトルもなかなかの熱演で、各人各様の語り口を見せる『バラード・メドレー』も半数は上々だ。『アップ』ではJ.C.ハードの豪快なドラミングが満喫できる。個々のプレイではチャーリー・シェイヴァース(トランペット)、ビル・ハリス(トロンボーン)、ベン・ウェブスター、フリップ・フィリップス(テナー・サックス)、リズム隊が特筆すべき出来で、そのほかもほぼ水準以上だ。

 グランツが50年代のJ.A.T.P.の目玉に仕立てたピーターソンには独立してセットが与えられていた。トリオは鉄壁の一体感を誇り、ハードにドライヴするファスト、グルーヴィーなミディアム、キュートなバラードと、極上の気分に浸れる。クルーパのセットはベニー・カーター(アルト・サックス)、ピーターソンの優雅なソロとクルーパの的を射たバッキングが聴き物だ。カーターは大所帯よりも断然よく、三者の掛け合いやクルーパのロング・ソロも楽しい。続いてエラが登場、会場の興奮は頂点に達する。エラのセットは本作の白眉だ。名唱の数々に感嘆することしきり、絶好調というほかない。デッカ時代のエラにJ.A.T.P.の録音はなく、しかもベストにも推せる貴重な記録だ。エラとオール・スターズの《パーディド》でコンサートは幕を下ろす。世界に誇る名コンサートを生んだ最大の功労者は好意と熱気に溢れつつも真摯な姿勢の聴衆だと思う。大いに誇っていい。

【収録曲一覧】
[Disc 1]
1. Tokyo Blues
2. Cotton Tail
3. Ballad Medley: The Nearness Of You/Someone To Watch Over Me/Flamingo/I Surrender Dear/Sweet And Lovely/Stardust/Embraceable You
4. That Old Black Magic
5. Tenderly
6.Up

[Disc 2]
1. Sushi Blues
2. Alone Together
3. Swingin' Till The Girls Come Home
4. Indiana
5. Cocktails For Two
6. Don't Be That Way
7. Stompin' At The Savoy
8. On The Sunny Side Of The Street
9. Body And Soul
10. Why Don't You Do Right
11. Lady Be Good
12. I Got It Bad And That Ain't Good
13. How High The Moon
14. My Funny Valentine
15. Smooth Sailin'
16. Frim Fram Sauce
17. Perdido

[Disc 1]
1-3, 6 By JATP All Stars: Roy Eldridge, Charlie Shavers (tp), Bill Harris (tb), Willie Smith, Benny Carter (as), Ben Webster, Flip Phillips (ts), Oscar Peterson (p), Herb Ellis (g), Ray Brown (b), J.C. Heard (ds)

[Disc 1]
4-5

[Disc 2]
1-3 By Oscar Peterson Trio: Oscar Peterson (p), Herb Ellis (g), Ray Brown (b)

[Disc 2]
4-7 By Gene Krupa Trio: Gene Krupa (ds), Benny Carter (as), Oscar Peterson (p)

[Disc 2]
8-16 By Ella Fitzgerald And Her Quartet: Ella Fitzgerald (vo), Raymond Tunia (p), Herb Ellis (g), Ray Brown (b), J.C. Heard (ds)

[Disc 2]
17 By Ella Fitzgerald With JATP All Stars