イン・トーキョー1963
イン・トーキョー1963

In Tokyo 1963 / George Lewis & His New Orleans All-Stars (King)
Recorded At Kosei-Nenkin Hall, Tokyo, Aug. 21, 1963

 1940年代の初め、ビバップの勃興と時を同じくしてニューオリンズ・リヴァイヴァルが巻き起こる。西海岸の白人、ルー・ワターズ(コルネット)らによるキング・オリヴァー(コルネット)の「クレオール・ジャズ・バンド」を範とした演奏が好評を博したことに端を発し、ジャズ研究家のウィリアム・ラッセルによる伝説の大物、バンク・ジョンソン(トランペット)の再発見とそれに続く初録音によってジャズ史に残るブームになった。ジャズ・ファンや関係者は古老たちの演奏が最高のニューオリンズ・ジャズと信じていたオリヴァーのそれとは異なることに驚かされ、後者がシカゴで商業化されたものだったと思い知らされる。49年に没するまでバンクはリヴァイヴァルの旗手として大活躍したが、それ以上に人気を集めたのが同時に発掘されて長くサイドマンを務めたジョージ・ルイス(クラリネット)だ。バンク没後はニューオリンズ・ジャズの至宝として頂点に君臨した。

 米欧を席巻したニューオリンズ・リヴァイヴァル・ブームは我が国にも無縁ではなく、ルイスの来日はトラディショナル・ジャズ・ファン積年の悲願になった。待望の初来日はトラディショナル・ジャズの権威、故河野隆次氏とキョードーの働きによって実現する。一時は安直な企画の濫造が祟って人気に翳りが見えたが、初来日を機に再び評価を高め、63年と64年にも来日、合わせて250回を超えるコンサートが開かれるほどの人気を博す。推薦盤は初来日時の東京公演の模様を収めており、放送録音や私的録音の発掘ではなくてキングによるリアルタイムのオリジナル企画だ。この連載では、これまで我が国のジャズ受容史を語るうえで避けて通れない名誉名盤(?)もとりあげてきたが、本作はルイスの代表作に数えて然るべき正真正銘の名盤だ。当初LP2枚組で発売された本作を愛聴したオールド・ファンや、教本代わりに貪り聴いたプロ、アマの演奏家は少なくないと思う。

 一行はパンチ・ミラー(トランペット)、ルイス・ネルソン(トロンボーン)、ルイス、ジョー・ロビショー(ピアノ)、エマニュエル・セイレス(バンジョー)、“パパ”ジョン・ジョゼフ(ベース)、ジョー・ワトキンス(ドラムス)という面々で、平均年齢は63歳を超えていた。リヴァイバル・ブームの頃に主要なレパートリーだったパレードやダンスで愛好された曲や賛美歌に加えて、ディキシーランド・ジャズ・スタンダードやオールド・ポッポスもとりあげている。また、ルイス曰く「ニュー・オルリーンズの伝統的演奏は、アンサンブルに終始することである。しかし曲によってはソロをフィーチャーすることもある」という行き方は時の経過に伴って周りからの影響を受け、順にソロを回す行き方をとっている。したがって、ここでの演奏は古きニューオリンズ・ジャズの再現ではなくてあくまでも63年時点における演奏だ。同時に彼らによってしかなしえない演奏でもある。

 コンサートは万雷の拍手に迎えられたルイスの温厚誠実な人柄が伝わる挨拶に始まる。幕開けの《アレキサンダーズ・ラグタイム・バンド》からラストの《聖者の行進》まで、ニューオリンズ・スピリット漲る熱演の連続で74分を一気に聴かせる。やはりルイスが頭抜けていて、セイレスの創造的なソロも脱帽ものだ。ルイスのワン・ホーンによる名演《バーガンディ・ストリート・ブルース》、客席から「I’m waiting for George Lewis!」の声がかかる《世界は日の出を待っている》、《アイス・クリーム》が当夜の白眉と言えよう。古老たちを空疎な熱狂に終わらない熱演に導いたのは耳ある聴衆との交感にちがいない。ラス前の《また会う日まで》でリズム隊をバックにルイスは「みなさま、またお逢いする日まで。…今宵の感激を忘れることはないでしょう…」と語りかけ、再度の来日を願う。終演後も怒涛の拍手は鳴りやまず、感動に包まれたまま歴史的コンサートは幕を降ろす。

注:ルイスの語りは推薦盤の解説書から引用

【収録曲一覧】
1. Alexander’s Ragtime Band
2. Over The Waves
3. St. Louis Blues
4. Somebody Stole My Gal
5. Just A Closer Walk With Thee
6. What A Friend We Have In Jesus
7. You Rascal You
8. Burgandy Street Blues
9. Muskrat Ramble
10. St. James Infirmary
11. The World Is Waiting For The Sunrise
12. Ice Creem
13. Till We Meet Again
14. When The Saints Go Marching In

Punch Miller (tp except 8, vo on 4), Louis Nelson (tb except 8), George Lewis (cl), Joe Robichaux (p), Emanuel Sayles (bjo, vo on 10), “Papa” John Joseph (b), Joe Watkins (ds, vo on 3 & 12)