ドクター・オノリス・タイム/ウェザー・リポート
ドクター・オノリス・タイム/ウェザー・リポート

グレッグ・エリコ時代のウェザー・リポートも聴け!
Dr. Honoris Causa / Weather Report (Cool Jazz)

 来日をしていながら、あまり話題の上がることがないのが、ドラムスがグレッグ・エリコ時代のウェザー・リポートではないだろうか。ぼくは歴代ウェザー・リポートのライヴを内外問わず最も多く体験した人間として自負があるが、そんなぼくでもエリック・グレコ時代を最上位に置いてもいいと考えている。どうしてジャコ・パストリアス時代ばかり話題が集中してしまうのだろう。そんなに何度も語るほどの時代だったとは思えない。語るべきは、語られるべきは、最初のアル・ムザーン、次のエリック・グラヴァットそしてエリック・グレコの時代ではないか。つまりウェザー・リポートというグループは、ドラマーを中心に切り込むことで、いっそうの輝きを発揮する。

 今回ご紹介するライヴは、そのエリック・グレコ(元スライ&ファミリー・ストーン)が参加した73年10月、ボストンでのライヴ。他のメンバーは、ジョー・ザヴィヌル、ウエイン・ショーター、ミロスラフ・ヴィトウス、ドン・ウン・ロマオというおなじみの顔ぶれ。公式盤はいうまでもなくブートレグでもこの時期のライヴは珍しいだけに、これは貴重かつ大注目。音質はサウンドボードとあって問題なし。ややショーターの音が小さく感じられるが、逆にザヴィヌルのエレクトリック・ピアノがよく聴こえるので、これはこれで満点とすべきだろう。

 レパートリーがまたレアでおもしろい。あの《ミルキー・ウェイ》をほぼオリジナルどおりに再現している。そしてザヴィヌル作の名曲《ドクター・オノリス・コウサ》のウェザー・リポート・ヴァージョンがすばらしい。もっとも同曲の初演を収めた『ザヴィヌル』がウェザー・リポートそのものだった面もあり、それを思えば自然な展開かもしれない。静寂を破ってショーターが飛び出す瞬間など、何度聴いてもスリリング。そうなのです、ここからあとの時代のウェザー・リポートには、こうした一触即発的展開が減少してしまった、そこが惜しまれる。

 最大のハイライトは、《ドクター・オノリス・コウサ》からメドレーで突入する《イッツ・アバウト・ザット・タイム》でしょうか。マイルスのロスト・クインテットに匹敵する過激な展開が、久々のクーたまらんち会長ではあります。そしてラモンのパーカッション攻撃から《ブギウギ・ワルツ》になだれ込んでいくアレンジなどなど、これはもう昇天もののウェザー盤としてお薦めしたいと思います。それではまた来週。

【収録曲一覧】
1 125th Street Congress
2 Milky Way
3 Dr. Honoris Causa
4 It's About That Time
5 Boogie Woogie Waltz (incomplete)

Joe Zawinul (key) Wayne Shorter (ts, ss) Miroslav Vitous (b) Gregg Errico (ds) Don Um Romao (per)

1973/10/29 (Boston)