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WBC優勝に電車内で歓声も…春風亭一之輔の恥ずかしい凡ミス
春風亭一之輔 春風亭一之輔
WBC優勝に電車内で歓声も…春風亭一之輔の恥ずかしい凡ミス
春風亭一之輔・落語家  落語家・春風亭一之輔さんが週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「WBC」。 *  *  *  忙しかったり、流行りに乗り切れないのもあり、WBC1次ラウンドはろくに試合も観ずにいました。高座では「与那嶺要のホームスチール凄かったね!」とか「やっぱり神様、仏様、稲尾様ですね!」とか「怪童・中西太の場外ホームラン観た!?」なんて昭和の野球ネタでふざけること数日。75オーバーのお爺さんが微笑んでくれればそれでよし! 小さい頃から「よくそんな古いこと知ってるねー」とチヤホヤされてきた私の悪い癖ですね。準決勝のメキシコ戦、たいそう盛り上がったようですな(これくらいの受け止め方)。ダイジェストで観たら、知ってる選手が増えていました。侍ジャパンよくやってる! 令和野球音痴にも届いてる! その調子で決勝も頑張れ!(何様)  3月22日の決勝戦。朝8時からテレビでぼんやり眺め始めました。先発は今永昇太。「昇太」って春風亭以外になかなかいないよね。親御さんが笑点好きなのかな。戸郷、高橋宏斗、大勢なんてハタチそこそこで私の子ども世代じゃないか。それに大勢は今まで「おおぜい」かと思ってたよ。アメリカのサウスポーのサイドスローを見て「角盈男、最近見ないな」とか、ターナーって選手はやたらにモテそうだ……なんて余計なことを考えながら、また溜まった家事を片付けながらの「ながらながら見」。寄席があるので11時には家を出なければならず。じゃスマホのラジコで中継を聴きながら出発。  電車内はスマホで動画観戦の若者やら、イヤホンでラジオを聴いてるお爺さんやら、みんなWBC決勝戦に釘づけ。3対1で日本2点リードの八回表、ダルビッシュがホームランを打たれました。車内の8割が心配そうな顔をしています。私も空気を読んで「まずいなー」と思案顔。反撃を抑えて、八回裏が終わり、いよいよ九回表。ここを抑えれば日本の優勝……そこでいよいよ大谷翔平登場! イラスト/もりいくすお  ランナーを一人出すものの、ダブルプレーでツーアウト。バッターは大谷のチームメイト、強打者トラウト。出来過ぎたシナリオだけどいいじゃない! 思わず息を呑む。……「さんしーんっ!!」。ラジオの実況アナが叫ぶ。こちらも思わずガッツポーズ。車内はまだ息を呑んだまま……なぜ喜ばん!? 優勝だぞ!  アナウンサーが続けました。「高橋宏斗っ!! 若さでトラウトを抑えましたっ!!」……また高橋出てきた!? なんでだよ? 下がったピッチャーがまた投げるなんて、高校野球かっ!? 「五回表が終わってスコアは3対1!」……。どういうことだよ!? スマホの画面を見るとなぜかラジコのタイムフリー機能によって試合が巻き戻され、私は五回表を聴いていたみたいです(2回目)。  そしてたまたまバッターが同じトラウトだったという。凡ミスに気づいた瞬間、車内で歓声。日本、優勝したみたい……。  だからね、私のWBCはまだ終わっていないんですよ! ちくしょう、タイムフリーめ! 今度聴いたらカネヤン(金田正一)が投げてるくらい、気を利かせてみろっ!(泣) とりあえず日本、おめでとう。 春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。この連載をまとめたエッセー集の第1弾『いちのすけのまくら』(朝日文庫、850円)が絶賛発売中。ぜひ!※週刊朝日  2023年4月14日号
春風亭一之輔
週刊朝日 2023/04/09 16:00
WBC「全員野球」で世界一になった侍ジャパン 「陰のMVP」ダルビッシュ有の貢献度
今川秀悟 今川秀悟
WBC「全員野球」で世界一になった侍ジャパン 「陰のMVP」ダルビッシュ有の貢献度
14年ぶりの優勝を決めた瞬間、大谷翔平と中村悠平(ともに中央)が抱き合い、選手たちが歓喜の輪をつくった(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)  野球の日本代表(侍ジャパン)が14年ぶり3度目の「世界一」となった。国際大会「ワールド・ベースボール・クラシック」(WBC)の決勝で米国を破った。選手たちの活躍を振り返る。AERA 2023年4月3日号の記事を紹介する。 *  *  *  これほどの劇的なストーリーを想像できた人はいただろうか。日本時間3月22日に米フロリダ州マイアミのローンデポ・パークであったWBC決勝は、侍ジャパンの「全員野球」が凝縮された試合だった。  連覇を目指す米国とWBC決勝で対決するのは初めて。その強力打線を大会ナンバーワンと呼ばれた日本の投手陣が抑えた。  先発の今永昇太(DeNA、29)が二回にトレイ・ターナー(フィリーズ、29)にソロ本塁打を浴びて先取点を奪われたが、三回以降は追加点を許さない。救援した戸郷翔征(巨人、22)、高橋宏斗(中日、20)、伊藤大海(ひろみ、日本ハム、25)、大勢(たいせい、巨人、23)が決定打を許さず無失点でしのぐ。  最後は豪華な継投策が実現した。まずダルビッシュ有(パドレス、36)が八回に登板。カイル・シュワーバー(フィリーズ、30)にソロを打たれると、九回は大谷翔平(エンゼルス、28)がマウンドへ。エンゼルスの同僚で大リーグを代表する強打者、マイク・トラウト(31)が「最後の打者」という最高のドラマが待っていた。  140キロのスライダーで空振り三振に仕留めると、帽子とグラブを投げて捕手の中村悠平(ヤクルト、32)と抱き合う。ナインがなだれ込んで喜びを爆発させた。 ■ダルビッシュの貢献度  侍ジャパンを取材したスポーツ紙記者は、こう振り返る。 「涙が止まりませんでした。このWBCは全選手が主役だったと思います。それぞれの持ち場を全うしたからこそ頂点に立てた。個人的にはダルビッシュが『陰のMVP(最優秀選手)』だと思います。大リーグ組なのに初日から強化合宿に参加し、若手投手とコミュニケーションを取ってWBC使用球の扱い方などを各投手に助言していた。野手陣との食事会にも参加するなど、チームの結束を強める役割を果たしてくれました。ダルビッシュ自身は満足のいく投球ができなかったかもしれませんが、貢献度は計り知れない」 「もちろん大谷もすごかった。160キロの球を投げて看板直撃のホームランを打つ。唯一無二の選手でしょう。パフォーマンスもそうですが、あんなに感情を爆発させた姿を今まで見たことがなかった。新鮮でしたね」  大会MVPに選ばれた大谷は全7試合にスタメン出場し、打率4割3分5厘、1本塁打、8打点。投手としては3試合に登板し、2勝、防御率1.86の成績を残した。マウンドに上がれば1球ごとに雄叫びをあげ、日本時間21日の準決勝・メキシコ戦では1点差を追う九回に先頭打者で右中間打を放つと、ヘルメットを投げ捨てて二塁へ。塁上で三塁ベンチに向け、両手を何度も上げてナインを鼓舞した。  米国戦の試合前には声出し役を務め、力強く話した。 「僕から1個だけ。憧れるのをやめましょう。一塁にゴールドシュミット(カージナルス、35)がいて、センターを見たらトラウトがいて、外野にはムーキー・べッツ(ドジャース、30)もいる。野球をやっていれば誰しもが聞いたことあるような選手がいると思うんですけど、今日一日だけはやっぱり憧れてしまったら超えられないので。僕らは今日超えるために、トップになるために来たので。今日一日だけは彼らへの憧れは捨てて、勝つことだけ考えていきましょう。さあ、いこう!」(侍ジャパン公式ツイッターの動画から) ■指揮官の思いに応える  野手陣も奮闘した。1次リーグは1番のラーズ・ヌートバー(カージナルス、25)、2番の近藤健介(ソフトバンク、29)の活躍が目立った。  一方、4番の村上宗隆(ヤクルト、23)から快音が聞かれなかった。1次リーグ全4試合終了時点で打率は1割4分3厘、0本塁打、2打点。ベンチには長距離打者の山川穂高(西武、31)が控えており、村上を外す選択肢もあった。  だが、栗山英樹監督(61)は5番に下げてスタメンで起用し続けた。村上も指揮官の思いに応える。16日の準々決勝・イタリア戦で2本の二塁打を放った。準決勝・メキシコ戦では1点差を追う九回無死一、二塁で打席に。それまで4打数3三振と全くタイミングが合っていなかったが、中越えの逆転2点適時二塁打でサヨナラ勝ちを決めた。決勝・米国戦でも先取点を奪われた直後の二回に、メリル・ケリー(ダイヤモンドバックス、34)の148キロ直球を右翼2階席に運ぶ特大の同点ソロ。試合を振り出しに戻す価値ある一発だった。  源田壮亮(西武、30)は右手小指骨折のアクシデントに見舞われた。それでも、スタメンで攻守に貢献した。村上に代わって大会途中から4番に入った吉田正尚(まさたか、レッドソックス、29)はメキシコ戦で値千金の同点3ランを放つなど、大会新記録の13打点をマーク。6番に入った岡本和真(巨人、26)もイタリア戦で3ラン、米国戦で四回に貴重な追加点となるソロを放つなど殊勲打が目立った。  控えの選手たちもモチベーションが高い。山川は代打出場したメキシコ戦で八回に1点差に迫る左犠飛を放ち、九回に代走で起用された周東佑京(ソフトバンク、27)は村上の中越え打で一塁から一気にサヨナラの生還を果たした。緊張が極限の状態で見事に役割を果たした。 ■光った栗山監督の采配  栗山監督の采配も忘れてはいけない。スポーツ紙デスクは絶賛する。 「村上を最後まで信じて起用し続けたことがフォーカスされますが、一方で正捕手と予想されていた甲斐拓也(ソフトバンク、30)を固定せず、決勝トーナメントの2試合は中村をスタメンに抜擢しています。状態が良いと言えなかった山田哲人(ヤクルト、30)もメキシコ、米国戦で先発起用するなど大胆な采配を見せています。山田の国際試合での強さを買ったのでしょう。メキシコ戦でマルチ安打、米国戦で二つの盗塁を決めるなど輝きを放った。日本の野球は小技と機動力を使った『スモールベースボール』が特徴と言われてきましたが、栗山ジャパンは一線を画し、パワーでも強豪国に負けないという姿勢を見せたのが斬新でした。世界と戦う上で、侍ジャパンの新たなモデルケースを構築したと思います」 (ライター・今川秀悟) ※AERA 2023年4月3日号より抜粋
WBC2023
AERA 2023/03/28 07:30
大谷翔平がアメリカの小さな少年野球チームに与えた「希望」
志村朋哉 志村朋哉
大谷翔平がアメリカの小さな少年野球チームに与えた「希望」
大谷翔平が野球界で最もエキサイティングな選手だと言い切るティム・ウェリンガさんと息子のクリスチャンくん(撮影:志村朋哉)  2022年のメジャーリーグ開幕戦で、史上初の「1番・投手」で先発出場を果たしたエンゼルスの大谷翔平(27)。今季も、私たちの想像を超える記録を生み出してくれることだろう。実は、現地・アメリカでは日本ではあまり知られてない、大谷をめぐるさまざまな“ドラマ”がある。大谷翔平の番記者を務めた経験もある在米ジャーナリストの志村朋哉氏の新著『ルポ 大谷翔平 日本メディアが知らない「リアル二刀流」の真実』(朝日新書)から一部を抜粋・編集して掲載する。 *  *  * ■「オオタニ」を愛する3歳の少年  大谷がメジャー2年目だった2019年秋、物心がついた時から野球が好きでたまらない自分の息子(当時3歳)を地元の少年野球リーグに入れた。他に手を挙げる親がいなかったので、私は息子のチームの監督を任された。  3~4歳で構成されるこの最年少ディビジョンに参加するのは、よほどの野球好きか親が熱心な子どもたちなので、人数は4チームだけ、合わせて30人弱しかいなかった。アウトや点数も記録せず、子どもが楽しく体を動かすことが目的である。言葉もたどたどしい幼児たちが、ぶかぶかのユニホームを着て、一生懸命に走って、投げて、打つ姿はかわいい。  私が任されたのは、メジャーリーグの球団名にちなんだメッツというチーム。偶然にも、息子を含めてやる気のある子が3~4人集まったため、残りの子たちも触発されて全員がメキメキと上達した。半ば無理やりバッターボックスに立たされる子どもが多いリーグで、メッツは当たり前のように強烈なライナーを放ち、他チームの親を驚愕させた。  そんなメッツの中でも特に熱心だったのが、当時3歳になったばかりのルーカスくん。いつも練習に来るなり、キャッチボールやノックをしてほしそうに私に近寄ってきた。打撃練習では、こっちが心配になってやめるまでティーに置かれたボールを楽しそうに何十球と打ち続ける。  母エイプリル・マルティネスさんは、エンゼルスの地元オレンジ郡在住にもかかわらず、大のヤンキースファン。ルーカスくんはお母さんの影響で、いつもバットとボールを手に、メジャー中継を見ながら育ってきた。  そのルーカスくんに一番好きな選手は誰かと聞いてみたら、なんと大谷翔平という答えが返ってきた。まだ舌足らずで、普段はほとんど何を言っているか理解できないのだが、この時は大人でも覚えづらい「オオタニ」をハッキリと口にした。 「昨シーズンから大ファンなんですよ」とマルティネスさんは言った。「エンゼル・スタジアムで大谷が打席に立つたびに観客が盛り上がっていたからだと思います。ルーカスはテレビの前で、いつも大谷のスイングをまねようとしています」  メールアドレスを見ただけでファンだと分かるヤンキース一筋のマルティネスさんだが、息子が大谷のようになりたいのは大歓迎だという。 「ルーカスにはスポーツマンで人間的に優れた選手を目標にしてほしい。大谷の態度はプレーに限らず模範的です。ダッグアウトにいる時も、ちゃんとチームメートの応援をしている。野球は一人ではできない。ルーカスには、それを学んでほしい」 ■大谷にほれた野球狂  私がコーチを務めていたメッツで、誰よりも打球を飛ばしていたのが、当時3歳のクリスチャンくん。自らを野球狂と称する父ティム・ウェリンガさんの影響で、立てるようになる前からボールを投げていたという。  シカゴで生まれ育ったウェリンガさんは、「超」がつくほどのシカゴ・ホワイトソックスのファン。他球団の選手に肩入れなどするなと、周りから刷り込まれてきたという。にもかかわらず、そのウェリンガさんが、野球界で最も注目しているというのが大谷だ。私が大谷の記事を連載していると漏らすと、興奮して大谷のすごさを語り始めた。 「彼は常識をくつがえす選手です」とウェリンガさんは語った。 「ピッチャーとしてエース級で、打撃でもトップクラスであることを証明した。ベーブ・ルースでも現代では無理だったと思います。これ以上、エキサイティングでユニークなことがスポーツ界でありますか?」 「息子は投げるのも打つのも好きです。大谷のおかげで、父親として子どもに二刀流という大きな夢を持たせてあげることができるようになりました。不可能という思い込みから、僕らを解放してくれたんです」  ウェリンガさんが初めて大谷のことを知ったのは2016年にさかのぼる。ウェリンガさんは、実在の選手を編成してチームを作り、実際の活躍に応じて入るポイントで競い合う「ファンタジーベースボール」というシミュレーションゲームを仲間とリーグを作って、何年もやり続けている。これからメジャーリーグに来て活躍しそうな選手を早めにチームに加えるため、世界のリーグに目を光らせていたが、ダルビッシュ有のような投手を見つけようと日本の野球を調べていたら、大谷の名前が出てきた。しかし、YouTubeで検索すると、出てきたのはホームランをかっ飛ばす大谷の動画だった。 「日本だと投手と打者の両方でやるのが普通なのか」と疑問に思った。しかし、見ていると、大谷が打つのは、たまたまではなく特大のホームラン。「これは絶対に取らねば」と思った。「この日本人選手は次のベーブ・ルースになる」とリーグの仲間に自信満々で言ったら、仲間から「そんな訳ないだろ。良い投手にはなるかもしれないけど、二刀流は日本ではできても、アメリカじゃ無理だ」と鼻で笑われた。 ■すべての野球少年のロールモデル  大谷がメジャー挑戦を発表した時は、「下部組織に良い選手がそろっているホワイトソックスを選んでくれるのではないか」という期待もあったが、それはかなわなかった。でも、エンゼルスを選んだ時は、「いつでも球場に見に行ける」と喜んだ。  アメリカに来た大谷をテレビや球場で見た最初の印象は、「子供のような無邪気さがある」だった。あれだけ能力があるのだから、「もっとシリアスで高飛車なのかと思っていた」と言う。しかし、ふたを開けてみれば、いつも笑顔で発言も謙虚だった。 「野球のうまさを抜きにしても、彼のことを嫌う人はいないでしょう」とウェリンガさんは言う。  二刀流は無理だと言う周りの野球ファンに「ムキになって」反論しているうちに、大谷が現役で一番好きな選手になったと振り返る。  1990年代に少年時代を過ごしたウェリンガさんは、他の子供と同じく、華やかなプレーや性格で絶大な人気を誇ったケン・グリフィー・ジュニアのファンだった。しかし、大谷の2021年の活躍で、自身の中でそのグリフィーを超えたと話す。二刀流という誰もできないことをやった。しかも、投打のそれぞれでトップレベル。「ホワイトソックスの選手ではないから応援できない」という次元を超えた、「Anomaly(通常の枠組みを逸脱しているもの)」なのだと言う。 「野球ファンとして、彼に敬意を示さなくてはならない。翔平は応援するけど、エンゼルスは応援しない術を身につけました。エンゼルス対ホワイトソックスの試合では、翔平が6回くらいを抑えた後に、エンゼルスのリリーフ陣が打たれてホワイトソックスが勝てばいい。簡単なことです(笑)」  息子を含めて、大谷は全ての野球少年のロールモデル(お手本となる人物)だと述べた。  野球の実力はもちろんだが、お金や周囲の期待に振り回されない「強い芯」があるからだと言う。 「彼は僕らが野球を愛する理由を体現してくれている。若い世代は地位や人気やお金のことばかり気にしていると思われていますが、大谷はその逆です。人気球団のヤンキースに行かず、2年待てば2億ドル以上の大型契約を結べたにもかかわらず、早くアメリカにやってきた。子どものように純粋に野球が好きなんでしょう。彼は野球が必要としているスターなんです」 (在米ジャーナリスト・志村朋哉)
エンゼルス大谷翔平書籍朝日新聞出版の本
dot. 2022/04/29 11:00
大谷翔平がアメリカの「野球少年の母」にとことん好かれる理由
志村朋哉 志村朋哉
大谷翔平がアメリカの「野球少年の母」にとことん好かれる理由
大谷翔平の大ファンだというジェニー・ムーアさん(右)と、息子のウォーカーくんが、エンゼル・スタジアムの大谷翔平の写真の前で記念撮影(ムーアさん提供)  2022年のメジャーリーグ開幕戦で、史上初の「1番・投手」で先発出場を果たしたエンゼルスの大谷翔平(27)。今季も、私たちの想像を超える記録を生み出してくれることだろう。実は、現地・アメリカでは日本ではあまり知られてない、大谷をめぐるさまざまな“ドラマ”がある。大谷翔平の番記者を務めた経験もある在米ジャーナリストの志村朋哉氏の新著『ルポ 大谷翔平 日本メディアが知らない「リアル二刀流」の真実』(朝日新書)から一部を抜粋・編集して掲載する。 * * * ■助手席に顔写真  内装業を手がけるスティーブ・スミスさん(45)は、2010年からライトスタンドの年間予約席を買い続ける熱心なエンゼルスファンだ。自宅から球場まで約1時間ドライブして、2021年はエンゼル・スタジアムでのホームゲームをほぼ全て生で観戦した。  そんなスミスさんが、「これまでの人生で最も熱狂している」と言うくらい入れ込んで応援しているのが大谷だ。エンゼルスの主砲であるマイク・トラウトでさえ「大谷ほど興奮させてはくれない」と話す。 「メジャーで投手としてやっていくだけでも、とんでもなくしんどいのに、打者としても毎日出場するなんて想像を絶する。もう二度と見られないかもしれない。だから欠かさず生で見るつもりです」  球場に行く時は、大谷の顔写真パネルを車の助手席にくくりつけていた。いかついスミスさんの横に巨大な「大谷」が浮かぶ。そんな異様な光景に驚いた通りがかりの人に写真や動画を撮られることもあったそうだ。 「家族によくからかわれますよ」と笑って話す。 「私の枕の上に大谷の顔写真パネルを置かれたりします」  スミスさんは、大谷のファンになった瞬間を鮮明に覚えている。大谷がメジャー公式戦デビューした2018年3月29日だ。  長男タイラーくんの11歳の誕生日プレゼントで、敵地オークランドでの開幕戦を見に行った。オープン戦で不振だった大谷にあまり期待はしていなかったが、試合前の打撃練習を見て驚愕した。 「15本くらい連続で柵越えするんですよ。しかも500フィート(152メートル)以上、飛んでいたように見えました。『こいつは何者なんだ!』と興奮しました。息子も私も目の前の光景が信じられなかった。二人とも一瞬でとりこになりましたよ」 ■強迫観念さえ感じる  大谷の野球カードや、球場で入場者に配布される大谷グッズを集め始めた。敵地での試合も、大谷が打席に立つと、家族でテレビで食い入るように見る。故障や不振に苦しむ大谷を他のエンゼルスファンが批判するたびに、「健康だったらすごいんだ」と言い返した。  けがが完治してシーズンを通しての二刀流が期待されていた21年は、初日から大谷のユニホームを着て球場に通った。大谷は、そんなスミスさんの想像をはるかに上回る活躍を見せた。  同年5月6日のレイズ戦では、大谷の第10号本塁打を、持参したグローブでキャッチした。その歓喜の瞬間をとらえた映像は、エンゼルスのハイライト動画の一部として繰り返し球場で流された。それを見る度に興奮がよみがえったという。 「あんなに幸せな気分は人生で幾度と味わえません。あれ以来、大谷のホームランを捕ったり偉業に居合わせたりするチャンスを逃したくない、という強迫観念さえ感じています」  スミスさんの席があるライトスタンドは、大谷がよくホームランを打つので、いつも混んでいると言う。 「大谷が打席に立つたびに、いつも動画を撮っています。周りのファンもみんなカメラを向けます。トラウトもすごいですが、あまりにそつがないところが逆につまらないと感じることもあります。大谷の場合、ピッチャーもしているのに、毎回、単なるヒットではなく一発を狙っています。だから面白いんです。観客がみんな固唾(かたず)をのんで見守り、スイングするたびに歓声が上がったりため息が漏れたりします。あんな光景は見たことありません」  スミスさんも、クラブチームで野球をする息子にとって大谷は良いお手本だと話す。 「野球は『失敗のスポーツ』です。だから感情をコントロールして、次のプレーだけを考えるよう息子に教えてきました。大谷の振る舞いは本当に素晴らしい。あれだけ活躍できる理由の一つです。大谷が怒っている姿を私は見たことがありません。心の中でどう思っているかは分かりませんが、それを出しません。失敗してもすぐに気持ちを切り替えるのが誰よりも上手です」  唯一の不満は、大谷がトラウトなどと比べて近寄り難いところだと言う。 「野球だけに集中したいのは分かります。でも、もう少しファンと交流してほしい。トラウトのように、ホームゲームでも時間をとって子どもたちにサインなどをしてくれたらいいなと思います」 「通訳を通してしか話を聞く機会がないので、彼の性格や人格があまり伝わってきません。例えば、フィールドの外では、どんな人なのか。コメントも当たり障りがないですし」  それでも、スミスさんは大谷に魅了されている。 「彼は何年に一人などという選手ではありません。これまで見たことのない存在なんです。おそらくどんなポジションでもこなせるでしょう。『ショートを守れ』と言われてもできると思います。それだけすごいアスリートなんです」 「さすがに21年のような活躍は、もう難しいと思います。でも、その予想が外れることを願っていますよ」 ■野球少年の母が語る大谷  エンゼルス本拠地から車で1時間くらいの砂漠の町アップルバレーに住むウォーカー・ムーアくん(14)は、熱心な野球少年が集まるクラブチームに所属している。メジャーリーグでプレーするのを目標に、チーム練習がない日も、投球と打撃の個人レッスンを受けるか、裏庭に作ったケージで父親と欠かさずトレーニングに励んでいる。  そんなウォーカーくんが憧れの野球選手として挙げるのが、ドジャーズのムーキー・ベッツとトレイ・ターナー、エンゼルスのトラウト、そして大谷だ。 「大谷はとにかく化け物です。ベーブ・ルース以外に、あんなにバッティングもピッチングもできる選手はいません。練習や試合に対する意識の高さは素晴らしいです」  それでいて、常に楽しそうにしているのも魅力的だと言う。 「大谷がイチローと(フィールドで)会った時に、あいさつをしに行っていた姿が印象に残っています。とても楽しそうに話をしていました」  クラブチームの仲間とも大谷について話すという。 「大谷のセンター方向への打ち方とか、打つ時の後ろ足の使い方とかについてです。僕はツーストライクと追い込まれた時、大谷の(前足を上げずに打つ)真似をしています。振り遅れないで素早くスイングするためです」  ウォーカーくん以上に、大谷に魅了されているのが、母ジェニー・ムーアさん(46)だ。ニュースで大谷が取り上げられるたびに、自身のフェイスブックのタイムラインにシェアしている。自身も本格的にソフトボールをやっていたムーアさんは、大谷はウォーカーくんにとって理想のロールモデルだと熱く語る。 「翔平はとても謙虚で野球を愛しているのが伝わってきます」とムーアさん。「野球に人生をささげ、徹底的なトレーニングを積んでいるので、難なくプレーしているように見えます」  何より「立ち振る舞いが素晴らしい」と言う。 「野球を見るのは好きですが、スター選手のうぬぼれた態度は見ていられません。選手としての価値を下げます。その点、翔平は見ていてすがすがしいです。……試合前のウオームアップに、通訳やトレーナーなんかと出てくると、とても気さくな感じに見えます。インタビューに答える時も、いつも笑顔です。常に楽しんでいるように見えます」 「自分のいる立場や環境を受け入れ、それを楽しみ、感謝の気持ちを忘れない。大金を手に入れてうぬぼれて、ありがたみを忘れてしまう選手もいますから。判定が気に食わないからといって、審判に失礼な態度をとるなんて許されません」 ■大谷の動向を追いたい 「翔平は特大ホームランも打ちますが、三振することもあります。でも、かんしゃくを起こしたり、バットをたたきつけたり、審判をにらみつけたりはしません。とてもありがたいことです。ウォーカーに教えようとしていることですから」 「三振することもあれば、エラーすることもあれば、間違った判定をされることもあります。でも気持ちを切り替えなければ、次のプレーに影響してしまいます。翔平は冷静に受け止め、対処しているように見えます。もしかすると、冷静でいられるよう教えられてきたのかもしれない。日本の文化は、この国の文化とは違うはずですから。なので、そこから他者への敬意が生まれているのでしょう」  ウォーカーくんにも、良い選手になる以上に、感謝の気持ちを忘れないでほしいと話す。 「周りのさまざまなサポートの上に成り立っているからです。もちろん本人の努力もありますが、当たり前だと思ってはいけない。コーチやチームメート、対戦相手、審判に敬意を持って接するべきです。そうでなければ、プレーする資格はありません」  エンゼルスの大ファンだというムーアさんは、大谷を初めて見た時から、特別な選手だと感じたと言う。トラウトにも、ここまでの思い入れを感じたことはないそうだ。 「ウォーカーの言うように、翔平は『怪物』です。一般的な日本人男性の体格ではありません。背が高くて、手足が長く、とにかく大きな選手です。物腰や態度を見ても、文句のつけようがなく輝いています。トラウトは素晴らしい選手ですが、翔平のように動向を追いたいと思ったことはありません」  大谷の二刀流での活躍も、いくつものポジションをこなす息子の姿と重なる。 「ウォーカーはあらゆる役割をこなせます。ピッチャー、キャッチャー、外野、内野など、置かれたポジションで常に全力を尽くします。『このポジションは嫌だ』と言う子どももいますが、なんでもやってみるべきです」 「翔平の二刀流は素晴らしいことだと思います。二刀流ができる可能性を持った若い選手はたくさんいると思います。でも前例がなかったので、試すことすら避けられてきた。でも翔平ができることを証明したので、もっと挑戦する選手が出てくると思います」 (在米ジャーナリスト・志村朋哉)
エンゼルス大谷翔平書籍朝日新聞出版の本
dot. 2022/04/26 13:15
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スイングが「最も美しい」日本人打者は? 打撃のプロコーチに“日米の違い”などについて聞いた
エンゼルスの大谷翔平(写真/gettyimages) 『「タクトtv」が教える“アメリカ式”バッティング上達法』(コスミック出版)を上梓した「T-Academy」代表の菊池拓斗さん。  単身渡米して野球のプライベートレッスンのコーチング方法を学んだ。現在はスキルコーチとして小学生からプロを目指す選手まで幅広く指導を行う。  日米の打撃の違い、そして理想的なメカニクスの日本人選手とは?  実際にプレーしている人はもちろん、プロ野球を観戦する際の楽しみにもなる打撃技術を教えてくれた。 ~日米の最も大きな違いは打球角度に対する考え方の違い 「『フライボール革命』という理論が数年前に生まれました。従来はゴロを打つ方がヒットになりやすいと思われていましたが、フライを打ち上げる方が良いとデータが出たのは衝撃でした。『フライボール革命』が効率的であることが理解されると日本でも話題になりました。しかし、フライボール革命の『フライ』という言葉だけが一人歩きしている感じがあります。大事なのは正しく打球角度をつけることです。目標とする打球角度を理解しないといけません。ゴロ打ちに慣れている選手がフライボール革命に挑戦しても、上手くいかず諦めてしまう場合も多い。打撃メカニクスを変える必要があります」 「米国式では投球軌道にバットヘッドを下げて打ち返すことで角度をつけます。スイングは少し下から上向きになります。そしてボールの真ん中を捉えてドライブ回転気味のライナーを打ちます。従来のゴロ打ちスイングでは上からダウン気味に叩き、ボールの下を打ってバックスピンのフライになります。日米では真逆に近い考え方だとも言えます」 「バッティングの違いは野球環境の違いにもあると思います。米国のグラウンドは内野も芝が多くゴロは勢いが止まってしまいます。小さい子でもヒットを打つためには内野の頭を越さないといけないです。日本は内野が土でゴロが良く跳ねます。イレギュラーの可能性もあるので出塁につながりやすいです」 小学生からプロを目指す選手まで幅広い世代に打撃を指導する菊池拓斗さん ~全身のメカニクスが効率的に連動することで理想的なスイングが生み出せる  上半身、下半身の各部位に必要なメカニクス(正しい打撃中の動作)が存在している。それらは独立するものではなく連動することでさらなる相乗効果を生む。理想的なスイングができて結果を出す確率を高めることができる。一定の部位やバットなどのギアに頼るのでなくメカニクスを習得することが重要だ。 「少年野球や高校野球でもスイングや身体の使い方の進化は見て取れますが、まだまだメカニクスに関係なく強く振ることを重視する傾向があります。バットの性能も良いのでとりあえず強く振ればよく飛んで、今ひとつメカニクスの重要性が分かりづらいものです」 「コンパクトなスイングに変えるとバッティングが弱まった感覚があるかもしれませんしメカニクスの改善は動きにくさを感じるかもしれません。メカニクスを意識しすぎず気持ちよく振ることも必要ですし、試合になればその思い切りの良さも大切です。メリハリを持って練習段階ではしっかり自分の課題に取り組むことが必要です」 「スキルを高めようと思ったときに、指導者や選手が正しく情報を受け取ることも大切です。ネットや動画でたくさんの技術論に触れられるからこそ、それをどう生かすか、子どもたちにどう伝えるか、芯を持つ必要があります。日本の勝利至上主義を問題視する人もいますが私はそうは思いません。米国でも試合にかける思いは同じくらい高いです。コーチは長い目で試合で活躍できる選手に育てることが大切です。 ~大谷は全身連動の重要性を理解した上で下半身を省略している  日本人メジャーリーガーの打撃はどうか。二刀流の大谷翔平(エンゼルス)を筆頭に、筒香嘉智(パイレーツ)、鈴木誠也(カブス)らは米国でもアジャストできるよう変化も見受けられる。メカニクスを理解し自分なりにうまくアレンジして習得しているようだ。 「日本人選手が米国で結果を出すには環境を含め様々な要素があります。その中で共通する正しいメカニクス、身体の動きはあります。それを習得していかなければ結果を出すのは難しいと思います。例えば大谷はメジャー投手の球威や変化球に対応するため下半身の動きを省略した。下半身のメカニクスを省くためにウエイトトレーニングで全身の筋力アップを図って補っている。上半身と下半身の連動について理解した上で全てを計算して作り上げた打撃フォームだと思います」 「筒香は2022年からスイングが明らかに変わって良くなったと思います。元々パワーもあるのですがダウンスイング気味。トップハンド(捕手側の手)をボールにかぶせる、身体の近くで打つのが難しいスイングでした。今は捕手側で素早くバットヘッドを下げ投球軌道にバットが早く入るようになりました。まだまだアベレージヒッター感がありますが、ライナー性の打球が増えて打率も上がるはずです」 「鈴木は強く振れる選手。ボトムハンドを伸ばしてテイクバックを取るのが特徴的です。ここから腕がスムーズに前に出るのでドアスイングにならずフォロースルーが大きくなります。腕が伸びると遠回りになりやすいのですが、真っ直ぐ前に出てくれば強いスイングで打ち返せます。素晴らしいフィジカルの成せるスイングです」  本来はトップハンドが伸びているとドアスイングなどになりやすい。でも鈴木の場合は、トップから体幹が回ってセンター方向へバットが出ていく。グリップが身体から離れていかないのでドアスイングにならない。グリップが一塁側に離れてしまうようになると調子が出ないかもしれない。それがセンター方向へ真っ直ぐ出て行くうちは長打も出やすい。なかなか真似できない部分です」 ~好打者の各パーツのメカニクスに注目すると打てる理由が理解できる  理想的なメカニクスで打っているのはメジャーリーガーだけではない。NPBで活躍する日本人選手にも素晴らしい打撃技術を持っている選手は多い。打撃フォーム全体ではなくパーツごとの動き、メカニクスに注目するとおもしろい。実際にプレーしている選手なら参考にできる部分もあるはずだ。結果を残せる選手には理由があることがわかる。 「坂本勇人(巨人)のインサイドを打つ時の左ヒジのさばき方は理想的な動きです。真ん中、外側でも同様にできればどの球も近いポイントで打てるようになります。また山田哲人(ヤクルト)はヒッチする時のグリップの動かし方がうまい。動から動でテイクバックを取り投球軌道にバットヘッドが下がって素早く入ります。これは素晴らしい技術です」 「打球角度をつけるためにはトップハンドのパームアップ(手のひらを上に向ける動き)が必要です。柳田悠岐(ソフトバンク)と岡本和真(巨人)がうまい。バットヘッドが返ってこねるような打撃が少ない。柳田は詰まった時でもパームアップによってしっかり押し込むことができる。岡本は泳ぎ気味になった時に手首が下を向かないで伸ばしていける。どちらもタイミングが外れてもホームランを打てる技術です。 「吉田正尚(オリックス)のフォローがなぜあそこまで大きく取れるのか? 下半身でブレーキをかけずに最後まで大きく回転することができるからです。特にステップイン動作と呼ばれる前足の踏み込みがブレーキをかけずに回転しています。前足、つま先、ヒザ股関節までが投手方向を向いて打っているから上半身もついていきます」  NPB各球団の顔となっている選手はしっかりとした打撃技術を持っている。結果を出すことができるのはもちろん、打撃フォームを見るだけで特徴があり見ているものを魅了するのだろう。そしてスイング軌道に関して最も美しく参考にすべきはイチローだという。 「イチローはスイング軌道が素晴らしいです。打撃練習でホームラン狙いで打っている時が参考になります。投球軌道にバットヘッドが下がってインパクトを迎えます。そのままバットヘッドが返らずに長く前へ進んでフォロースルーは片手で上へ向きます。このスイング軌道は理想的で完璧です」 ~アメリカのコーチはお金をもらって指導している  正しい打撃メカニクスを知ることで選手はより高い技術を身につけ結果を出す確率が高まる。見ている人も選手の個性や打撃の奥深さを知ることができる。現代はどんな情報も簡単に手に入れることができる。便利な反面、流されないことも大切。スキルコーチとして米国や日本の現代の打撃メカニクスを正確に伝えることを最も大事にする。 「僕はプロのスキルコーチです。一番大事なのはお金を払ってきてくれた選手が上手くなることです。野球界の最先端では何をやっているか。どういう意図があるのか。しっかり理解して指導しないと対応できません。メカニクスや理論は日々進化するものだし正解はありません」 「すべての子どもたちにスキルが浸透してほしいと願っています。今よりうまくなることを楽しんで、やりがいにしてほしい。練習でできなかったことができるようになって試合で活躍する。自分の技術を高めて長く野球を楽しんでほしいと思います。地味で細かい練習は、きっと楽しみを見つけるきっかけになるはずです」 (文中は敬称略) ●プロフィール菊池拓斗(T-Academy代表、スキルコーチ)1993年1月16日福島県出身。富士大では明治神宮大会5度出場、うち1試合出場を果たす。同学年に埼玉西武・外崎修汰がおり、同じく山川穂高は1年先輩にあたる。18年に米国ニュージャージー州「High Heat Baseball」など、複数のアカデミーでプライベートレッスンのコーチング知識を学ぶ。帰国後は福島県須賀川市を中心にレッスンをおこなう。YouTube「タクトtv」で野球スキル動画発信。
dot. 2022/04/18 18:00
開幕戦9奪三振の大谷翔平 現地記者の「1番になれるとは思わない」発言が波紋
開幕戦9奪三振の大谷翔平 現地記者の「1番になれるとは思わない」発言が波紋
エンゼルスの大谷翔平(写真/gettyimages)  4月7日(現地時間:以下同)、ついにMLBが開幕した。シーズン初戦の最注目の選手といえば、何と言ってもロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平だろう。昨季は二刀流フィーバーで世界中の野球ファンを魅了し、シーズン終了後は満票でのア・リーグMVPも獲得した。  今季も活躍が期待されるなか、大谷は開幕初戦に本拠地アナハイムでのヒューストン・アストロズ戦に「1番・投手兼指名打者」で投打同時出場。メジャー5年目で初の開幕投手に起用され、日本のファンのみならず現地メディアやファンも盛り上がらずにはいられなかった。  2022年の大谷は初球からいきなり100マイル(約161キロ)のフォーシームを投じた。立ち上がりの初回、大谷は先頭打者から三振を奪うも、安打や与四球で一時ランナーを2人背負う場面もあった。しかし、アストロズの強打者のユリ・グリエルをポップフライに打ち取り、無失点に抑えた。  その後、大谷の投球は安定。2回はゴロと2奪三振で三者凡退に抑えた。3回こそ二塁打と安打で1点は失ったものの、先頭の2者連続三振に仕留めている。また、4回は3者連続三振と抜群の投球をみせた。そして5回、大谷は先頭打者に二塁打を許したが、続く打者2人を連続でアウトにするなど、この日はどの場面でも冷静さを保ち続けた。  シーズン序盤で球数制限もあることから、大谷は5回途中で降板したが、投手としては4回と2/3を投げて、4安打1与四球1失点9奪三振、防御率1.93をマークした。なお、大谷は今季から採用された、通称「大谷ルール」(先発投手が指名打者として同時出場が可能で、投手としてマウンドを降りても指名打者で試合に出続けられるもの)により、打者としては引き続き試合に出場したが、4打数無安打だった。  試合は3-1でアストロズが勝利し、大谷は敗戦投手となったが、全米から注目を集めた開幕投手としては、その期待に十分応える結果を残した。  そんな大谷だが、現地アメリカでは、とある記者の大谷に対する発言が波紋を呼んだ。それは開幕戦の3日前の4月5日、MLBの専門局『MLBネットワーク』の番組「ハイヒート」という番組での出来事だ。  番組では、同局が1日に発表した「MLBトップ100選手」についての議論が交わされていた。大谷は、そのランキングで、昨季のア・リーグ本塁打王のブラディミール・ゲレーロJr内野手(8位)やナショナルズのファン・ソト外野手(4位)らを抑えて1位を獲得している。その理由について記事では次のように書かれている。 「君ならどうやって46本塁打、26盗塁、OPS(出塁率と長打率を足した数値).965を記録すると同時にマウンドで23登板、防御率3.18を残す男と競うことができる?いいだろう、それは無理だ。だからこそ、大谷は昨年のア・リーグMVPを獲得できて、それが彼が1位である理由だ」(『MLB.com』)  大谷のチームメートであるマイク・トラウト外野手は2位に選出された。番組はMLBの現役トッププレーヤーの2人を抱えるエンゼルスの戦力に着目。同チームが今季ポストシーズンに進むことができるのかという話題になったのだが、その際、番組に出演していたアランナ・リゾ記者は、「私は大谷が(球界で)1番になれるとは思わないわ。なぜなら彼は投手だから」と発言。これを聞いた同番組のホスト、クリス・ルッソは驚きのあまり言葉を失った。そして、この発言が現地メディアやファンからの怒りを買ったのだ。 『MLB.com』の見解に反論することは決して問題ではない。しかし、リゾ記者の反論理由が「大谷が投手だから」というのは、「あまりに不可解だ」という声が多い。  例えば、スポーツウェブメディアの『デッド・スピン』は、「野球で最高の選手は誰かと聞かれれれば、野手あるいは指名打者を思い浮かべるだろう。なぜなら野球において打撃は最も難しいことだからだ」と、リゾ記者に一定の理解は示すも、「投手が球界で最高の選手になることはできないという意見に誰が納得できるか」と反論。また同記事は、番組で同席していたルッソ氏が何も反論しなかったことにも不快感を示した。  リゾ記者を批判するメディアは他にもある。ロサンゼルス・ドジャースの専門メディア『ドジャース・ウェイ』もこの発言を取り上げた記事を掲載し、元ドジャースのリポーターを務めていたリゾ記者の発言には疑問符が付くという見解を示した。ドジャースの専門メディアでさえ、同チームの元リポーターよりも、敵チームの大谷を擁護するほどである。こういった各メディアの反応から、この発言が現地でどれだけ批判を浴びたかがよくわかるはずだ。  なお、リゾ記者の大谷に対する批判的な発言はこれが初めてではない。スポーツ専門メディア『オーフル・アウナウンシング』では、「リゾ記者は大谷が二刀流選手であることはよく知っている。そして、彼女は昨季(6月)はジェイコブ・デグロム(ニューヨーク・メッツ)が大谷同様に同じ打撃数を持っていたらどうなるかと疑問に思っていた」と話していたことが紹介されている。その動画によれば、彼女は、「デグロムが大谷と同じぐらいの打席数があれば、誰が“より最高の二刀流選手”と考えるのは面白いのではないか」と語っている。当時は彼女に賛同する声もあり、「デグロムの方が上だ」とコメントするファンもいた。ただ、今回の発言に関しては、彼女に同調するファンは少ないようだ。  米に限らず、野球界において最高の選手を決めるのは簡単なことではないだろう。「打者の方が優位」という意見も、現地ではたしかにある。また、MLBは今季から両リーグで指名打者制(ユニバーサルDH)が採用されることとなり、投手と打者は完全に分業されることなった。そのため、ほぼ毎試合に出ない投手がシーズンを通してインパクトを残すのは今後は難しくなるかもしれない。  もっとも、この決定は多くの現役MLB投手から歓迎されているので、本件とは関係ない話かもしれない。もちろん打席に入ることを好む投手もいる。例えば、前田健太(ミネソタ・ツインズ)は、両リーグDH制導入が決定的になった2月11日、自身のSNSで「I can’t hit a home run in MLB anymore 私はもうMLBでホームランが打てなくなってしまいました」と惜しんでいるぐらいだ。  しかし、大谷は、前出の「大谷ルール」で、今季も打者を続けることができる。今回、「投手だから」という理由で現地の記者から批判を受けた大谷だが、今季の成績予測によれば、今季の本塁打数は38本(ZiPS)あるいは39本(Steamer)という予想が立てられており、今季中にこういった批判をはね返すことは容易だ。はたして大谷は今季も全米を騒がすような活躍をみせてくれるだろうか、その活躍に期待したい。(在米ジャーナリスト・澤良憲/YOSHINORI SAWA)
dot. 2022/04/09 07:00
大谷以外でメジャーでHR放った「5人の日本人投手」 屈指の好投手からの一発も
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大谷以外でメジャーでHR放った「5人の日本人投手」 屈指の好投手からの一発も
ドジャース時代の石井一久(写真/gettyimages)  昨シーズンはエンゼルスの大谷翔平が投打の“二刀流”として大活躍した。投手として活躍しながら打者としても両リーグで3位となる46本のアーチを描いたが、大谷以外にも日本人投手でホームランを記録している選手はいる。そこで今回は決して多くはないが、これまで日本人投手たちがメジャーリーグで放ったホームランを振り返りたい。  まず、野手も含めメジャーリーグで初めてホームランを打った日本人選手は野茂英雄(ドジャースなど)だ。本数も大谷を除けばトップとなる通算4本で、複数のホームランをマークしているのも野茂だけ。初アーチはメジャー移籍後4年目となる1998年4月28日(以下、日付は全て現地時間)の本拠地でのブルワーズ戦。相手先発のホセ・メルセデスからドジャー・スタジアムのレフト側ブルペンに飛び込む一発を記録している。  その後も2002年から3シーズン連続で1本ずつホームランを放っているが、全てドジャース在籍時のもの。自身2本目となる一発はのちにサイ・ヤング賞を受賞する右腕のジェイク・ピービー(当時パドレス)から記録するなど、ピッチング同様にバッティングのセンスも高いことを伺わせていた。  メジャーで最後のアーチとなった4本目は2004年の対ヤンキース戦。この試合では自身がホームランを打った一方で、当時ヤンキースに在籍していた松井秀喜にライトスタンドに飛び込む3ランアーチを被弾し、先発投手としては7回4失点で負け投手となっている。  これまで野手としてメジャーに挑戦した川崎宗則(ブルージェイズなど)が738打席で1本、西岡剛(ツインズ)が254打席で0本、今も現役選手としてレッズでプレーする秋山翔吾が366打席で0本ということを考えると、投手ながら543打席で4本を放った野茂はさすがと言えるのではないか。なお、野茂はブルワーズ時代の1999年にはメジャー133勝右腕のダリル・カイルから日本人選手初の三塁打を打ったことを含め、二塁打、打点、得点、犠飛、犠打など数々の“日本人初”を記録している。  野茂に続いてホームランを放った日本人投手は、近鉄時代に野茂のチームメイトでもあった吉井理人(メッツなど)だ。ホームランを記録したのはロッキーズ在籍時の2000年5月26日のパイレーツ戦、本拠地クアーズ・フィールドでの一発。この日先発した吉井は6回に先制点を許したが、その裏に試合を振り出しに戻すホームランをフランシスコ・コルドバから放った。ちなみに打撃で多くの“日本人初”となったのは野茂だが、初盗塁を記録したのは吉井である。  そして野茂、吉井に続いて本塁打を放ったのは当時ドジャースでプレーしていた石井一久。日本時代はDH制のないセ・リーグのヤクルトで主にプレーし、3本のホームランをマークするなど打撃は元々得意だったがメジャーでのホームランはこの1本のみ。渡米3年目となった2004年7月31日のパドレス戦で、野茂が2本目の一発を放った相手でもある好投手ピービ―からライトスタンドへ見事なホームランを叩きこんでいる。  それ以降はなかなか日本人投手からアーチが飛び出すことはなかったが、これを打ち破ったのが2016年に海を渡った前田健太(当時ドジャース)。NPB時代にも2本のアーチを放っていたが、初登板となった4月6日のパドレス戦でホームランを記録した。2021年のデータでは6番目にホームランの出にくい相手の本拠地ペトコ・パークのレフトスタンドに飛び込む一発だった。  前田は現在ア・リーグのツインズでプレーしているが、2021年の正月に放送された「とんねるずのスポーツ王は俺だ!!」(テレビ朝日系)のリアル野球盤で放ったホームラン動画がMLBの公式サイトでも「ツインズの次なる指名打者になることができるか?」という文言とともに紹介され、メジャーでの初アーチの映像と一緒に紹介されている。  そして、最後に日本人投手から飛び出したアーチは2016年8月24日にダルビッシュ有(当時レンジャーズ)が放った“予想外の一発”。ダルビッシュはNPB時代にパ・リーグの日本ハムでプレーしていたため打席に立つこと自体が多くなかったこともあり、38打席で長打は2008年に放った二塁打が1本あるのみだった。  日本時代にも出なかったプロ入り初アーチはセンターに飛び込む特大の一発となったが、これはア・リーグ(DH制度あり)のレンジャーズでプレーしていた投手としては、1997年6月30日にボビー・ウィットが記録して以来となるレアなホームラン。当時のチームを指揮していたジェフ・バニスター監督も「センターへ一直線に飛んでいった。上手くとらえていたね」と満足の一発だった。  なお、ホームランを打った日本人投手の多くが在籍していたドジャースで4年間プレーした黒田博樹は、254打席で記録した長打はメジャー1年目の2008年にマークした二塁打だけ。前田同様に打撃に定評のあった松坂大輔はア・リーグのレッドソックス時代には打席に立つことも少なく、45打席でシングルヒット7本とホームランはおろか長打を放つこともなかった。  現在、大谷以外の日本人投手でDH制のないナ・リーグでプレーするのはダルビッシュのみ。そういった意味では今シーズンに日本人投手のホームランを見られるかは難しいところだろう。だが、投手が放つ思いがけない一発は日本でも大きな話題にもなる。今季も日本人の投手が打席に立つ時にはどういった結果になるのか、楽しみにしたい。
ダルビッシュ有メジャーリーグ前田健太吉井理人石井一久野茂英雄
dot. 2022/01/27 18:00
大谷翔平の打球音は「最もセクシー」 今季活躍を“世界のファンの反応”と共に振り返る
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大谷翔平の打球音は「最もセクシー」 今季活躍を“世界のファンの反応”と共に振り返る
今季は世界中の野球ファンを魅了したエンゼルスの大谷翔平(写真/gettyimages)  今季の野球界を盛り上げたのは、なんと言ってもエンゼルスの大谷翔平だ。シーズン中には二刀流としての活躍が連日報じられ、日本の野球ファンを幾度となく楽しませてくれた。  そして、大谷に魅了されたのは日本人だけではない。当然、現地を含め世界中のファンも大谷の一挙手一投足に注目し、そのプレーを毎日のようにエンジョイしていた。  そこで今回は“秀逸”なものも目立つ、MLBの公式YouTubeチャンネルに書き込まれた英語のコメントと共に今季の大谷の印象に残ったプレーを振り返りたい。※日付は全て現地時間  まず今シーズン、最初に話題となったのは、2番・投手の“リアル二刀流”として出場した4月4日のホワイトソックス戦だ。大谷はこの日、投げては4回2/3を3失点(自責点は1)の内容で勝ち投手とはならなかったが、打撃では1打席目に快音を響かせてライトスタンドに突き刺さる豪快なアーチを放った。  このプレーでファンが注目したのは打球音。「カーン」となり響いた漫画のような快音にファンは、 「動画を再生するのが止められないよ。なんて心地の良い音なんだ」 「この音は『MLB The Show』(米国の人気野球ゲーム)で完璧なアーチを打った時と同じ音」 「このバキっという音は世界で最もセクシーな音だよ」  と、その打球の音について各々の思いを綴っているものが目立った。  そして、この時の打撃の“音”が暗示していたかのように、この後も大谷はホームランを量産する。オールスター前の7月2日のオリオールズ戦では2本塁打を放ち、両リーグ最速で30号に到達。ファンも“異次元”の能力について、 「ショウヘイ、ようこそアベンジャーズの世界へ」 「大谷は野球が他の人にとってどれぐらい難しいか理解できていないだろうね」 「どのスポーツも観戦しない86歳の祖母ですら、この“モンスター”が誰かということと、彼がどれだけ野球をエキサイティングなものにしたのかは知っているよ」  と、この頃になると現地のファンも大谷の想像以上の活躍に驚きを隠せないようになってきていることを感じる。  また、この試合はこの2本のアーチだけではなかった。7対7で迎えた同点の9回裏一死の場面で四球で出塁すると、2死後に今季12個目の盗塁となる二盗に成功。すると、その後 のウォルシュのライト前ヒットで劇的なサヨナラのホームインを踏んで試合を決めた。  ウォルシュの打球は痛烈で本塁上のプレーは微妙なタイミングだったが、大谷の走力が勝りセーフに。スライディングで捕手と接触しながら本塁生還後、仰向けになったままガッツポーズする姿は今季のハイライトの一つでもある。2本のホームランだけでなく、なんでもやってのけてしまう大谷に対しては、 「私の最もお気に入りの野球のシーン。まるで映画のシーンのようだね」 「ショウヘイはいつも野球を映画のようなものにしてしまう」 「彼は公式に私のお気に入りとなりました。ちなみにヤンキースファンだけど」 「野球の歴史に長く残る試合になるだろう。忘れているかもだけど、彼はホームランも2本打っているだよ」  と台本があるかのような活躍を「映画」というワードで表現するコメントも見受けられた。  開幕から投打で好調をキープした大谷は、その勢いそのままに自身初となるオールスターに選出。指名打者(DH)部門でトップの投票を獲得し、ホームラン競争にも出場した。翌日7月14日の試合ではメジャーリーグ史上初となる先発投手と1番・DHでの“リアル二刀流”での出場を果たし、日本でも大きな話題となった。  打者としては2打席凡退に終わったものの、投手としては1回を無失点に抑える投球を披露。ここでは試合でのパフォーマンスははもちろんのこと、 「本当に品のある選手。とても謙虚で成功することを願ってならない」 「彼は素晴らしい二刀流の選手というだけでなく、とても謙虚で優しそうにも見える。これが多くの人から注目を浴びる理由だと思う」 「私は野球のファンではないですが、今は大谷に夢中になっています。彼はとても謙虚な人に見えますね」  とマウンド上での表情や立ち振る舞いに好感を抱いている人のコメントが多い印象を受けた。  このように、とにかく大谷の前半戦の活躍は凄まじいものがあった。そしてファンは投打での活躍に加えて、常に謙虚にニコニコとプレーする様子に魅了されていたようだ。  後半戦はホームランのペースも鈍り、最終的には期待されたタイトル獲得はならなかったが、最終戦に今季46本塁打を放ち、100打点に乗せた。最後の最後まで魅せてくれた大谷に対しては、 「この男がMVPだ。もしそうならなければ二度とメジャーリーグの試合を見ることはないよ」 「今年もMVP、そして来年も……怪我がなければこれから5年はずっとMVPだ」 「ショウヘイ・オータニは今季のMVPというだけでなく、生涯で中々目撃することのできない歴史の一部だ」  と今季の活躍を称え労うファンが目立ち、今後もメジャーリーグの顔としてプレーして欲しいとのコメントで溢れていた。  11月2日にブレーブスがワールドシリーズを制して幕を閉じた2021年のメジャーリーグ。今年も様々なことが起きたが、世界中の野球ファンの記憶に最も残っているのは大谷の活躍だったのは間違いないだろう。18日に両リーグのMVPが発表されるが、そこに大谷の名が刻まれる時を待ちたい。
dot. 2021/11/07 18:00
大谷翔平の「フェイク動画」で荒稼ぎの闇 ユーチューブ200万再生超のヒットで“収入”は?
大谷翔平の「フェイク動画」で荒稼ぎの闇 ユーチューブ200万再生超のヒットで“収入”は?
エンゼルスの大谷翔平(GETTYImages) YouTubeには、まだ打っていないはずの「43号」の動画が複数見受けられた(9月3日時点)  投打の二刀流で絶好調の活躍を続けるエンゼルスの大谷翔平。最近はその活躍にあやかり、YouTubeで大谷の「フェイク動画」が投稿されているのをご存じだろうか。動画は軒並み再生回数を伸ばし、なかには230万回再生を超える動画も存在する。いったいどのような動画なのか。ネットリテラシーの専門家に聞くと、巧妙な手口や悪質さが見えてきた。  9月3日正午時点で、大谷のフェイク動画は複数確認できたが、なかでも再生回数を稼いでいるのが、「Angels TEAM WeBelieve」というアカウントだ。  現在、大谷のホームラン数は42本(9月3日時点)だが、動画のサムネイル(トップ画面などで表示される静止面)には「日米大興奮 43号」「祝 43号」などの文字が記載されている。映像の中身は過去のホームラン動画で、それを「43号目のホームラン」であるかのように配信し、再生数を稼いでいる。動画のなかには232万回再生を超えるものもあった(動画は9月3日20時時点で削除済み)  野球ファンはこうした動画をどうみているのか。  東京都の会社員男性(28)は、仲間の間でも、大谷のフェイク動画は話題になったという。 「大谷はホームランを連発しているので、YouTubeで『今日も打ったかな』と『大谷』のワードで検索するのが日課になっています。最新の情報を見たいので、タイトルやサムネを見て、号数の数字が大きい方を見る。それで『打ったんだ』と思って動画を見たら、全然違う動画だったりして、めちゃくちゃ腹が立ちます。押したのが悔しいですし、無駄にした時間を返せと思う。打てば打つほど、彼らが稼いでいると思うとむかつきますね」  東京都に住む別の野球ファンの男性(金融業・27)も、「人のふんどしで相撲を取って、そこまでして稼ぎたいのかと思う。法的にはグレーなのかもしれないけれど、人道に反することでお金を稼いでいるのは納得できない」と話した。  ネットリテラシー専門家の小木曽健氏は、「"釣り動画"のレベルを越えて、これは虚偽の動画です。そして手口も巧みですね」と所感を語る。  どういった点で巧妙なのか。 「(偽物として使用する)過去のホームラン動画は、アメリカのテレビ局など権利関係に厳しいところを避け、おそらくプライベートで撮影している人の動画を使っています。放送局の動画だと嘘がすぐにばれますが、素人の動画であれば、足がつきにくく、通報されるリスクが低い。また、プロの放送局や配信会社の動画と比べて、投稿者の動画であれば、相手から訴えられる可能性も低い。そのうえ一般人の動画であれば、アナウンスやスコアなどの情報も何もないので、何号なのか分からないまま見続けさせることができます」  今回、当サイトは投稿者に取材を申し込もうとしたが、連絡先は明記されていなかった。  前出の金融業男性(27)は、野球のYouTube動画を定期的に見る習慣があるというが、とくに大谷の場合は見る頻度が多いという。 「日本のプロ野球と比べると、大リーグの試合は地上波で流れない。流れても時差があるので、日本時間の深夜からお昼にかけてのことが多い。リアルタイムで見られないから、YouTubeで大谷のホームラン動画を見たくなる。あれだけ投げて、あれだけ打って。非現実的なプレーを見せつけられているから、野球好きからすると『打ってないかな』と楽しみにしている人も多いと思う」  大谷の動画のどういった点に注目し、惹き付けられているのか。この男性は、文字だけでなく、あえて動画でみる理由をこう語る。 「もちろん打球の速さやスイングの力強さといったプレーも見ていますが、動画を見ることで、言葉は分からないながらも、アメリカの解説者が興奮している様子や、熱のこもりようが伝わってくる。打った後、会場でファンの子供たちがはしゃいでいるのを見ると、大谷って本当にすごいんだなというのを実感する。声のトーンや会場の雰囲気は、文字ではなく動画で見ないと味わえない。大谷のプレーはワクワクさせてくれますし、エンタテインメント。彼の"野球ショー"を見たくなるんです」  大谷のフェイク動画は、同一アカウントの43号の動画だけで、243万回再生や193万回再生などのヒットを記録している。人気YouTuberの動画や人気音楽アーティストのミュージックビデオに匹敵する再生回数だ。再生回数だけで見れば相当な収益を得ていそうだが、前出の小木曽氏はこう指摘する。 「YouTubeでは、信用度や人気度に応じて、1再生あたりの単価が上乗せされていきます。(今回の投稿主は)おそらく最低ランクのアカウントなので、単価は1再生あたり0.05円か、よくても0.1円。200万回再生されても、10万~20万円程度のはずです。今回の手法は、法的には違法にあたらないと思いますが、YouTubeの規約には抵触するはずです。場合によっては、フェイク動画で得た収益は全て没収されます」  こうしたフェイク動画を投稿するアカウントは、同時に複数のアカウントを持っている可能性も十分考えられるという。 「各所で細かな稼ぎをいっぱい集めて、それで生活しているのかもしれません。この手の動画は通報されるので、1年2年と続けられるようなものではないですし、"捨てアカ"に近いと思います。ある程度稼げさえすれば、それでいいのでしょう。世の中の注目が別のものに移れば、そちらに乗り換える」(同)   さらに小木曽氏は、稼ぎよりも罪深い点を指摘する。 「罪深さでいえば、稼ぎよりも、数百万人から時間泥棒をしていることのほうかもしれませんね。再生回数が200万回で2分の動画なら、200万人×2分で400万分の無駄な時間を作っている。1つのフェイク動画で、400万分の時間が日本から失われているわけですから、相当なロスです。それだけの時間を奪ってまで、自分のお金を稼いでいる、その部分での悪質さは相当なものがありますね」  昨今はファスト映画をはじめ、悪質な動画が次々と投稿されている。 「ファスト映画は実際の内容、つまりは本当のことを見せてしまっていますが、今回のフェイク動画は中身が乏しく、クリックさせるだけの手法。系譜としては『サムネ詐欺』と同じで、『真実お話します』『(有名人の)兄です』などと言って実際は嘘である動画などとも似ています。この系譜では、初期には『おもしろ大事件が起きました』と謳って面白い事件が起きないといったように、まだかわいげがありましたが、だんだんと発展して、迷惑度は増している。再生さえされれば中身なんてどうでもいいというスタンスは、迷惑系YouTubeと一緒です」(同)  何か対策を講じることはできないのか。 「多くの人に、この手の不正を知ってもらうことが一番です。今後何らかの対策が取られると思いますが、YouTube側も損しているわけではないですし、コロナのフェイク対策などで大変でしょうから、まだそこまで大きな問題として認識していないのかもしれません。視聴者が知ることで問題意識を持てば、YouTube側も本格的な対策に乗り出すでしょうし、悪用しにくい仕組みができていくと思います」(同)  フェイク動画でヒットを連発する強打者は、今日も多くの人から時間を奪い続けている。多くの人を欺く形で打席に立ち続けるのは、ご遠慮いただきたい。 (取材・文=AERA dot.編集部・飯塚大和)
YouTubeメジャーリーグ大谷翔平
dot. 2021/09/03 16:00
大谷翔平は今や米国でも“球界の顔”に 公の場で英語を話すべきなのか
大谷翔平は今や米国でも“球界の顔”に 公の場で英語を話すべきなのか
エンゼルスの大谷翔平(写真/gettyimages) 「球界の“顔”たる選手が、何を言っているのかを理解してもらうために通訳を必要とするというのは、テレビの前に座り、球場に足を運ぶファンのためにはならないと思うんだ。この国ではね」  米国のスポーツ専門チャンネル『ESPN』の番組「ファースト・テイク」で、コメンテーターのスティーブン・A・スミスがエンゼルスの大谷翔平に関してそのような発言をしたのは、7月のオールスター直前のことだった。  この発言に先立ち「英語を話さない外国人選手がいるという事実は、興行収入の面である程度の害を与えると思う」と話していたこともあって多くの批判にさらされたスミスは、まずはツイッターに上げた動画で自身の発言を釈明。さらに「謝罪をさせてください。アジア系の人々、特に大谷選手個人を不快にさせようという意図は、決してありませんでした」などと綴った謝罪文を公開した。  ただでさえ多様性が叫ばれ、メジャーリーガーの約3割が米国外の生まれという現代。黒人への差別に対して「ブラック・ライブズ・マター」と呼ばれる運動が起き、新型コロナウイルス感染拡大に伴うアジア人への偏見、暴力なども問題になっている中、スミスがアフリカ系アメリカ人であり、差別の意図はなかったとしても、問題のある発言だったのは間違いない。  1995年に野茂英雄(ドジャース)が日本人としては30年ぶりにメジャーの舞台に上がって以降、これまでに数多くの日本人選手が海を渡った。中には1997年にエンゼルス入りした長谷川滋利のように、ごく初期を除いて通訳なしで過ごし、インタビューなどにも自ら英語で応じた選手もいるが、大半は専属の通訳を伴っての渡米だった。それでも公に英語を話さないことに異を唱えられたのは、イチロー(マリナーズほか)ぐらいのものだろう。  日本でプレーする外国人にも、同じことが言える。日本で生まれ育ち、あるいは日本の学校を卒業していれば話は別だが、外国人登録の選手なら自身の母国語、もしくはそれにプラスして英語しか話せないというケースがほとんどだ。1950年代から60年代にかけて阪急(オリックスの前身)で3度の盗塁王に輝き、引退してからは流暢な関西弁で球団通訳になったロベルト・バルボン(キューバ出身)、阪急の正二塁手として3年連続日本一に貢献し、その間に覚えた日本語を駆使して引退後は巨人の通訳を務めたロベルト・マルカーノ(ベネズエラ出身)などは、数少ない例外と言っていい。  昨年まで5年間DeNAの監督を務めたアレックス・ラミレス(ベネズエラ出身)は、選手として日本で14年プレーしたこともあって日本語もそれなりに堪能だというが、会見やインタビューに日本語を織り交ぜることはあっても、話すのは基本的に英語。日本語のみで会見に応じるということはなかったものの、それを批判されたことはない。  それではメジャーリーグでプレーする、日本人以外の外国人選手はどうか? 思い出すのは20年ほど前の日米野球で、MLBオールスターのベンチで手持ちぶさたにしている選手に英語で話しかけた時のこと。その選手が黙ったまま少し困ったような表情を浮かべていると、関係者がやってきてこちらに「君はスペイン語を話せるか? 彼は英語を話さないんだ」という。ハローに相当する「オラ」ぐらいしか知らない筆者は、そこでおとなしく引き下がった。  その選手こそが、前年までインディアンスで4年連続2ケタ勝利をマークし、この年はシーズン途中でエクスポズ(ナショナルズの前身)に移籍して20勝を挙げていたバートロ・コロン(ドミニカ共和国出身)だった。彼はその10年後、今度はアスレチックスの一員として東京ドームで行われる開幕戦のために来日し、都内で開催されたイベントに出席する。  イベントはトークショー&サイン会と銘打たれていたのだが、最初の2人のトークが終わってコロンの順番になっても、無言で笑みを浮かべるばかり。その後のサインには快く応じたものの、最後まで一言も口にしないまま会場を後にした。おそらくは当日の通訳がスペイン語に対応していなかったのだろう。  今季の開幕時点で、メジャーリーグには20の国と地域で生まれた256人の選手が在籍していて、その大多数を占めるのがスペイン語を母国語とする中南米出身者である。彼らは早ければ16歳でメジャー球団と契約を結び、マイナーリーグ時代に英会話を学ぶので、メジャーに昇格する頃にはある程度の英語を話せるようになっていることが多い。一方でコロンのように、何年経っても英語を話さない選手もいるし、日常会話には困らなくてもインタビューなどの公の場では通訳を介するという選手もいる。  ではスミスはなぜ、大谷だけを名指ししたのか? 注目すべきは、彼が「球界の顔(No.1 face)」という言葉を使っていることだ。1920年代にかのベーブ・ルースがヤンキースでホームランを連発してアメリカン・ヒーローになってからというもの、何人もの選手が球界の顔を担ってきたが、その中で通訳を必要とした者はいない。  エクスパンション(球団数拡張)時代の訪れとともに外国人選手の台頭が顕著になってからも、1960年代のウイリー・メイズ(ジャイアンツ)、70年代のピート・ローズ(レッズほか)、80年代のマイク・シュミット(フィリーズ)、90年代のバリー・ボンズ(パイレーツほか)と、米国の老舗スポーツ専門誌『ザ・スポーティング・ニューズ』(現在はウェブのみ)が選んできた年代ごとの“顔”を見てもわかるとおり、そのほとんどが米国生まれだったからだ。  唯一の例外が「2000年代の顔」に選ばれたアルバート・プーホールズ(当時カージナルス、現ドジャース)である。もっとも、彼は生まれこそドミニカ共和国だが、16歳の時に渡米してミズーリ州の高校に通い、短大在学中にドラフト指名されてプロ入りしている。そういう意味では、外国人といえどもそこまで英語に不自由することはなかった。  ちなみに『ザ・スポーティング・ニューズ』が「2010年代の顔」として選んだのが、大谷と同じエンゼルスのマイク・トラウト。メジャーデビューから昨年までの10年間で通算302本塁打、201盗塁、打率.304、OPS1.000をマークし、ア・リーグMVPに輝くこと3回というスーパースターだ。ただし、決してトラウトのすごさを矮小化するつもりはないが、今の大谷が成し遂げていることはハッキリ言って次元が違う。  8月18日(現地時間)のタイガース戦では「一番・投手」で出場し、打っては両リーグ一番乗りで40号ホームランを放つと、投げては8回1失点で8勝目。この試合で今季100投球回に到達し、100奪三振、100安打とあわせてシーズン「トリプル100」を達成したが、これは1901年以降のいわゆる近代メジャーリーグでも、大谷のほかには誰も成しえなかった偉業だという。  誰よりも「すごい」ことをやってのけている今の大谷であれば、新たなメジャーリーグの顔になっても何ら不思議ではない。そして“顔”ならば英語を話すべきという主張も、わからないわけではない。  だが、大谷の場合はバッティング、ピッチングともにそれだけで見る者を魅了する。しかも、その2つをこれだけ高いレベルで両立させた選手は、120年に及ぶ近代メジャーリーグでもほかに見当たらない。そう考えると、英語を話す話さないは些末なことに思える。繰り返しになるが、今の大谷が成し遂げていることはそれぐらい「異次元」なのだ。(文中敬称略) (文・菊田康彦) ●プロフィール 菊田康彦 1966年生まれ。静岡県出身。大学卒業後、地方公務員、英会話講師などを経てフリーライターに転身。2004~08年『スカパーMLBライブ』、16~17年『スポナビライブMLB』出演。プロ野球は10年からヤクルトの取材を続けている。
dot. 2021/08/20 18:00
球宴で商業的成功を収めたMLB 大谷翔平を活用した今後のマーケティング計画とは
球宴で商業的成功を収めたMLB 大谷翔平を活用した今後のマーケティング計画とは
エンゼルスの大谷翔平選手(GETTyImages)  7月13日(現地時間:以下同)、コロラド州デンバーで第91回MLBオールスターゲームが行われた。エンゼルスの大谷翔平は、ア・リーグの「1番・指名打者」、そして先発投手として史上初の投打の二刀流での出場を果たした。  これまでのオールスターゲームはレギュラー戦同様、もし投手が打順に入る場合、指名打者制を解除しなくてはならなかった。しかし、MLB機構はオールスターゲームの直前に大谷が「二刀流」で出場できるように、指名打者制を解除しなくても済む異例の特別ルールを設けた。このルール変更には、今年ア・リーグを指揮したレイズのケビン・キャッシュ監督も尽力していたことが試合後に明らかになった。  MLB機構や球界関係者がルールを変えてまで見たかった二刀流で試合に臨んだ大谷は、打者としてこそ2打席無安打であったが、先発投手としては160キロの速球を連発し、1回無安打三者凡退という好投を見せ、勝利投手にも輝いた。日本人選手がオールスターゲームで勝利投手となるのは、前回(2019年)の田中将大(現楽天)以来、2人目の快挙だ。  大谷の偉業はこのオールスターゲームでの投打同時出場だけにとどまらない。前日の12日、大谷は日本人選手かつ投手として、史上初めてホームランダービーに出場している。惜しくも初戦敗退という結果ではあったが、延長に次ぐ延長という激戦を繰り広げ、計28本という記録も残した。  MLB機構はこの功績を讃え、大谷がオールスターゲームで身につけていたスパイクなどの用具数点をニューヨーク州のクーパースタウンにあるアメリカ野球殿堂博物館に寄贈すると発表している。  このような状況下で、大谷を報道するメディアはさらに増え続け、『フォーブス』や『ウォール・ストリート・ジャーナル』といったスポーツ専門紙以外も、その活躍を取り上げるほど加熱している。こういった現地の様子をエンゼルスの地元紙『ロサンゼルス・タイムズ』は、「大谷は米球界最大の魅力のひとつとなり、今回見事にその役割を果たした」と評する。今回のオールスターゲームはまさに「大谷の祭典」であったといえる。  新型コロナの影響で2年ぶりの開催となった今年のオールスター、大谷という大注目の存在がこれだけの活躍と話題を振りまいてくれたのだから、MLB機構もさぞ満足していることだろう。しかし、MLB機構はこの大谷フィーバーをさらに盛り上げようとしている。  7月13日に掲載された大手『CNBC』の記事によれば、MLB機構は大谷を活用した新たなマーケティング計画を立てているそうだ。具体的な内容はまだ明らかにはされていないが、MLBのマーケテイング担当シニアバイスプレジテントであるバーバラ・マクヒュー氏の次のようなコメントを載せている。 「彼の勢いに乗って多くの計画を構築していきたい」  ここ最近、MLB機構が大谷をマーケティングに利用し始めているのはすでに周知のことだろう。ホームランダービーへの招待や、オールスターゲームのルールを変えたこともマーケティング戦略の一つであるし、「It’s Sho-time!(イッツ・ショー・タイム)」という大谷を単独で取り上げたオールスターの宣伝動画を作ったり、ニューヨークにあるMLB本部オフィスの外壁に大谷の巨大パネルを設置するなど、とにかくMLB機構は大谷の露出に相当の力を入れている。  その甲斐もあり、前回(2019年)620万人であったホームランダービーの視聴者は今回710万人と大幅にその数を増やし、商業的にも大成功を収めている。  しかし、MLB機構が大谷をマーケティングに利用しているのは、単に商業的な理由からだけではない。もちろん野球人気復活への期待もあるが、なによりもその社会的責任を果たしていきたいという強い願いがそこには込められている。  特に、MLB機構は人種差別というアメリカの社会問題に立ち向かう姿勢を前面に出している。そもそも、今回のオールスターゲームは当初ジョージア州アトランタで開催する予定であった。だが、3月にジョージア州で有色人種や黒人市民の投票権に不利な影響を与える可能性が高い新しい選挙法が成立してしまった事で、MLB機構はその抗議としてコロラド州デンバーに開催地を変更している。  そんなアメリカ社会の中で、これまでのベーブ・ルースのような象徴的存在ではなく、日本出身という異なるバックグラウンドを持つ大谷がメジャーの舞台で大活躍することは、MLB機構にとっても何よりも大きな宣伝になる。  事実、現地ではアジア系住民を中心とした多くの新たなファンが、大谷から勇気をもらったとしてその活躍を応援してくれている。もちろん、大谷には有色人種以外のファンも多い。この多様性こそがMLB機構が思い描く理想そのものである。  MLB機構は今後も公式SNSアカウントや大谷の公式インスタグラムを通して、様々な大谷のコンテンツを提供していく予定だ。当然、各種プロモーションや関連グッズといった商業目的のものも出てくるかもしれないが、引き続き大谷を大きく取り上げてくれることは、ファンにとってなによりも喜ばしいことではないだろうか。  もちろん、それには大谷のさらなる活躍が必要不可欠ではある。だが、今の大谷にその心配をする必要はないだろう。これから始まる後半戦では大谷はどんな活躍を見せてくれるのか、そしてMLBはどのようにその活躍を後押しするのか、今後もこの全米中を巻き込む大谷の活躍に注目していきたい。(在米ジャーナリスト・澤良憲/YOSHINORI SAWA)
dot. 2021/07/15 14:32
ホームランダービー初戦敗退の大谷翔平 「投手をクビにしろ」「誇り」現地ファンの反応は悲喜こもごも
ホームランダービー初戦敗退の大谷翔平 「投手をクビにしろ」「誇り」現地ファンの反応は悲喜こもごも
エンゼルスの大谷翔平選手 (c)朝日新聞社  7月12日(現地時間:以下同)、ついにコロラド州のデンバーでMLBオールスターゲームの前夜祭、ホームランダービーが行われた。優勝は、今ダービー通算74本を放ったメッツのピート・アロンソ。前回(2019年)に続き史上3人目となる連覇を果たした。一方、事前のオッズで1番人気だったエンゼルスの大谷翔平は初戦で敗退した。  この結果は予想通りだったか、それとも予想外だったか。少なくとも日本人選手として初めて出場を果たした大谷は初戦から球場を魅了した。いや、むしろこれがホームランダービー1番の盛り上がりであった。6月18日、大谷がホームランダービーへの出場を表明した時からファンが求めていた姿がまさにそこにあったのではないだろうか。  やはり大谷はファンを魅了する特別な力を持っている。初めてのホームランダービーで、あれほど壮絶な戦いを見せられるとそう感じざるを得ない。  第1ラウンドの最終組で登場した大谷は、制限時間3分に加えて1分のボーナスタイム(全ラウンド、全選手に最初から与えられる30秒と475フィート(約144メートル)以上の本塁打を放った場合に与えられる30秒)の間、先攻のフアン・ソト(ナショナルズ)と同数の22本を放ち、対決の決着は今イベントでは初で唯一の1分間のタイブレークに持ち込まることとなった。  しかし、ここでも大谷はソトと同数の6本を放ち、お互い勝利を譲らない状態がさらに続いた。28本対28本。どちらが勝ってもおかしくない状況に球場の観客も大喜びであった。  最後は3スイングオフというサドンデスが行われた。1本でもミスをすればその時点で敗退が決まる。先攻のソトは3本塁打を放ち、31本。プレッシャーがかかる大谷は最初のスイングでファースト方向へのゴロを打ち、勝負に敗れた。  大谷の敗退にショックを受けたファンは少なくない。オッズでも1番人気であったことから、大谷の優勝に期待したファンは特に大きな悲しみに暮れていることだろう。しかし、ホームランダービーは一発勝負の対決。やはり予想通りにはいかない。  まずオッズで2番人気だったギャロ(レンジャース)はまさかの初戦敗退。19本という結果に終わったギャロに対し、応援していたファンは、「なにがあったの?」や、「どうして!?」、さらに「がっかりさせられた」などといった悲鳴にも似た悲しみの声をあげた。  一方、3番人気だったアロンソは第1ラウンドで今回最多の35本を放ち難なく初戦を突破。その後も、第2ラウンドでは持ち時間の48秒を残し16本で大谷を破ったソトを下し、そして、ある意味では予想通りに決勝までコマを進め、ここでも32秒を残して23本を放ち、先攻のマンシーニ(オリオールズ)を破った。  大谷の敗退に対して、エンゼルスのファンはそこまで大きな悲しみに暮れてはいなかった。エンゼルスの公式アカウントがSNSに投稿した大谷の結果発表には、「精一杯頑張った。大谷が楽しんでくれればそれだけでいい!」や、「今夜大谷が見せたパフォーマンスを誇りに思う」と大健闘を讃えるコメントが多く寄せられた。  中には、「勝って欲しかったけど負ければ休めるから、この結果は嬉しくも悲しくもある」と大谷の体調を心配し、この結果にホッとするファンもいたり、この結果に納得ができず、「球筋が良くなかった」や「クビにしろ」など、打撃投手を務めたジェイソン・ブラウン氏(エンゼルスのブルペン捕手)に対する怒りのコメントが書き込まれるなど、ファンの気持ちは悲喜こもごも。  それでも、大谷は初戦で最大513フィート(約156メートル)の大飛球を飛ばし、事前の期待通りの結果を残している。また、大谷は、練習時も同様の距離の飛球を現地のファンに見せていた。大手メディアの『ESPN』がSNSで公開した動画で、その様子を見ることができる。その動画の中で、大谷はクアーズフィールドのライトスタンド3階席付近に打球を飛ばしている。推定150メートルを越える大谷の非凡な打力に、実況もただただ驚愕するばかりであった。  ちなみに、そこは2018年に大谷がバッティング練習時に飛ばし大きな話題を呼んだ場所で、本戦でも大谷の打球はそこまで届いている。  ホームランダービー自体は初戦敗退となったが、そもそも日本人選手、さらに投手として史上初の出場となり、初戦からタイブレークとサドンデスを行い、最終的に28本という記録を残した。全ての野球ファンを驚かせる大谷の驚異的なパワーを全米に見せつけるには、十分すぎる結果ではないだろうか。  そして、7月13日にはいよいよオールスター本戦が行われる。起用法が注目されていた中、12日に行われた両リーグの監督会見で、大谷は先発として登板し、打順は「1番・指名打者」になることが発表された。  MLBは大谷が「二刀流」で出場できるよう、指名打者制を解除しなくても済む特別ルールを新たに作った。「オールスターゲームのルールを変えてでも大谷の二刀流が見たい」という、世界中のファンの希望を叶えたMLBの粋な計らいに現地は大盛り上がりを見せている。ファンの期待が最高潮を迎える中、大谷はどのような活躍を見せてくれるのか。歴史的なこの試合は必見だ。(在米ジャーナリスト・澤良憲/YOSHINORI SAWA)
dot. 2021/07/13 12:53
31号でキング独走中の大谷翔平 現地メディアから「二刀流は止めさせたほうが良い」の声が再燃
31号でキング独走中の大谷翔平 現地メディアから「二刀流は止めさせたほうが良い」の声が再燃
ホームランダービー独走中の大谷翔平(c)朝日新聞社  7月4日(現地時間:以下同)、本拠地でのオリオールズ戦に「2番・指名打者」で出場したエンゼルスの大谷翔平は、3回裏の第2打席で両リーグ最多かつメジャー日本人最多に並ぶ31号を放った。 「このままのペースで本塁打を量産すれば、シーズン60本も決して夢ではない」と現地のメディアは報じている。60本といえば、“元祖二刀流”のベーブ・ルースも1927年に達成している大記録だ。メジャーではすでに年間60本超えの記録はいくつもあるが、ベーブ・ルースの60本は今でも偉大な記録として語り継がれている。しかし、ベーブ・ルースはその60本を放った時点ではすでに外野手に転向していたため、もし、投打同時に行う大谷がこのままシーズン60本を達成できれば、大谷は完全にベーブ・ルースを超え、名実ともに“真の二刀流”として永遠メジャーの歴史にその名を残すことになるだろう。  このように大谷にはそれだけの大きな期待が寄せられているのだが、ここ最近の活躍を見れば誰しがも同じ気持ちになるだろう。この6月は特にそう思わせた。1試合複数本塁打を含む、13本塁打を放つ誰がみても文句なしの大活躍で、大谷も自身初のア・リーグ月間MVPを獲得するなど、全米中を熱狂の渦に包み込んでいる。  そんな中、MLB公式局『MLBネットワーク』の番組「MLB NOW」(7月2日放送)で、司会のブライアン・ケニー氏が語った持論が、現地で物議を醸している。  内容はこうだ。まず、6月30日のヤンキース戦で初回7失点で完全にノックアウトされた大谷の姿を見たケニー氏は、「先発の失敗は私の考えを実証した」と語り、同時に「大谷こそ“現代のベーブ・ルース”だ」とも明言し、その理由を詳しく説明していくというものだ。  この動画で、ケニー氏は「ベーブ・ルースが“二刀流”で活躍できたのは、投打を同時に行なっていた最後の2年間、それも限られた試合のみだ」と述べ、「1918年以降は打者に専念し、その後は見違えるような成績を残した」と紹介。そして、次のように主張を続けた。 「ベーブ・ルースも投打で活躍していることは認めるが、同じ試合で投打を行うのは彼ですら難しかった」  ケニー氏は再び話題を大谷に戻し、次のような指摘を述べた。 「(大谷は)打者としては高いレベルにあることを証明したが、ピッチングにはバラツキがある」  勘の良い人ならば、この司会者が何を言いたいか、この時点で気がつくだろう。そう、ケニー氏は、大谷のヤンキース戦での投打結果や、過去にトミー・ジョン手術を経験したことを踏まえ、「打者に専念した方が良いのではないか」と訴えたのだ。  この動画は、「Is it time for a new plan with Shohei Ohtani ?(大谷は新しい計画を始めるタイミングでは)」という題で、公式ページやYouTubeでも配信されているので、詳細が気になる方は視聴をお勧めする。  さて、この動画に対する現地の反応だが、これがまた大きな不評を買うことになった。  例えば、YouTube上では、ケニー氏のこの提言に対し、「たった1試合調子が悪かっただけなのに、何を言っているんだ」や、「この男はただ大谷のことが嫌いなんだ」、「大谷の好きなようにさせてあげるべきだ」といったコメントが相次いで書き込まれている。  なかには、「ケニー氏は以前から何度も『大谷を大谷自身から守るべきだ』と訴えており、彼は大谷の限界を知っているのかもしれない。素人の私たちが、大谷やチームよりも彼の事情に詳しいフリをするのはやめよう」というコメントもあったが、ケニー氏の言う「投打同時起用(二刀流)は止めさせた方が良い」という提案に賛同する声は皆無であった。  ケニー氏は、この動画と同日に配信された別の動画(題:「Should Ohtani pitch and hit?(大谷は投打をすべきか)」)でも同じ発言をしている。そして、記者でゲストのスターク氏からは「君は夢がないね。大谷のおかげで僕らも夢を楽しめているのに、その夢を楽しんではいけないのかい?」と反論を食らっていた。  さらにケニー氏は、大谷のヤンキース戦での投手成績を持ち出しながら「投打いずれか1本に絞るすべき」という主張を続けるも、「投手専任になれば、君はあのような成績になる日はないと思うのかい?」と呆れられる始末であった。  それでも過去の記事を持ち出しながら、「1918年のインタビューで、ベーブ・ルースは『投手として定期的に投げ、その他の試合で野手として出場し続けるのは難しいだろう』と、述べている」と続けるケニー氏に対し、このゲストは「大谷は自分からやりたいといい、両方やっている。ベーブ・ルースとは全く違うよ」と突っぱね、議論は終わった。  番組は後に公式SNSアカウントで「大谷の才能を活用するにはどうすれば良いか」と題した投票を実施した。選択肢として、「先発と打者」、「リリーフと打者」、「打者のみ」と、「投手のみ」の4つが用意されたが、結果は以下の通りであった。合計2554票のうち、「先発と打者」が57.7%で断トツ。続いて「リリーフと打者」(27.6%)、「打者のみ」(13.7%)と続き、最後の「投手のみ」はわずか1%しか支持を集めることができかった。この投票結果が示すように、今のアメリカは大谷が続ける先発投手と打者の二刀流、そしてその二刀流としての活躍を大いに楽しんでいるのだ。  確かに、ケニー氏が主張するように、大谷はいずれ、自身の決断によりリリーフ転向や投打どちらかの1本に絞ることになるのかもしれないが、今のタイミングで二刀流に「待った」をかけるとアメリカでは激しい批判を浴びることが証明されたと言えるだろう。ファン、球界OB、メディアといったアメリカ全てを味方につけた大谷は、二刀流として、数日後に控えるオールスターゲームやその後に続く後半戦でどのような成績を残すか、その活躍に全米中の大きな期待がかかっている。(澤良憲/YOSHINORI SAWA)
dot. 2021/07/06 10:00
大谷翔平はオールスターに選ばれる? 強力ライバル相手に現地メディアの予想は
大谷翔平はオールスターに選ばれる? 強力ライバル相手に現地メディアの予想は
エンゼルスの大谷翔平選手(写真/gettyimages)  7月13日(現地時間:以下同)にデンバーのクアーズ・フィールドで行われるオールスターゲームのファン投票が6月3日から始まった。現在行われているファン投票は1次投票と呼ばれ、24日まで行われる。その後は、各ポジションの中から上位3人(外野手は9人)が2次投票、いわゆる先発メンバー投票に進むことができ、最終結果は7月1日に発表される。  今年のオールスターゲームでの注目選手といえば、エンゼルスの大谷翔平(26)は間違いなくトップに名前が挙がるだろう。現在、大谷はオールスターゲームのア・リーグ部門で候補リストに入っており、さらに投票開始日にオールスターゲームの公式ツイッターが公開した紹介動画のトップにも登場している。大谷がファンによる投票でオールスターに選ばれれば、イチロー、松井秀喜、福留孝介に続いて日本人では4人目となる。  しかし、これまで大谷がメジャーのオールスターゲームに選出されたことは一度もない。大谷は、メジャー1年目からオールスター候補に選ばれ1次投票を突破するも、その後の投票で敗れている。人気面は高いが、実力面では他の候補者に及ばないことが不選出の理由とされている。そして、強力なライバルがいる状況はもちろん今も続いている。  例えば、大谷と同じア・リーグDH部門の候補者、レッドソックスのJD・マルティネスは、ここまで12本塁打、39打点だが、打率は.329と大谷の打率を大きく上回っている。また、過去には2年連続で打率3割、40本塁打、100打点も残し、DH部門の最有力候補とも言われており、大谷の選出を阻む可能性は十分にある。また、同部門ではマルティネス以外の候補者としても、ヤンキースのジャンカルロ・スタントン、ホワイトソックスのヤーミン・メルセデス、ツインズのネルソン・クルーズ、タイガースのミゲル・カブレラなど、メジャーリーグファンならその名を知らない者はいないほど豪華な面々が名を連ねている。大谷はこの強力なライバルの中から勝ち残る必要がある。  それでも、現地メディアは依然大谷の初選出を期待する。大手メディア『CBSスポーツ』も、オールスターメンバー予想する記事を掲載し、DH(指名打者)部門では大谷の選出を予想。『MLB.com』も同様、予想メンバーの中に大谷の名前を挙げて、初選出を期待する声が例年以上に大きくなっている。エンゼルスの地元紙『オレンジカウンティ・レジスター』のジェフ・フレッチャー記者も「決して驚く話ではない」と、大谷の選出はさも当然のように話す。  彼らが大谷をここまで推すのには、ここ最近の活躍にその理由がある。6月7日現在、打者としてリーグ上位に入る16本塁打を放ち、42打点と高い水準にある。6月5日、本拠地でのマリナーズ戦では、同じ花巻東高校の先輩、菊池雄星と2年ぶりに対決し、第一打席では、菊池の初球、カットボールを捉えセンターへの特大アーチを放っている。これまで大谷に足りないとされていた実力は、過去とは比べものにならないほど増し、他の候補者に決して引けを取らないほどの活躍を見せ始めている。  また、もし大谷が現在行われているファン投票で選出されなくても、オールスターゲームに選出される可能性は他にもある。前出のフレッチャー記者は、「選手、監督、コーチの投票による出場の可能性も考えられる」ともいう。メジャーでは、オールスターゲームに出場する各リーグの先発投手、救援投手、各ポジションの控え選手を、これら関係者による投票で選出するルールも設けている。投手としても出場が可能な大谷にとって、“ウルトラC”級の裏技ではあるが、オールスターゲームという全米に放送される娯楽性高い試合であることを考慮すると「全くない話ではない」と同記者は述べている。いずれにしても、大谷のオールスターゲーム出場は可能性は日増しに高まっている。  唯一の懸念点といえば、エンゼルスがどれだけ寛大な気持ちで大谷をオールスターゲームに送り込むかだろう。フレッチャー記者は「大谷は、エンゼルスから唯一選出される選手でしょう」と予想するも、「チームとしては、大谷のオールスター出場についてあまり騒いで欲しくないと思いますよ」ともいう。現在エンゼルスは、主砲のマイク・トラウトが怪我で離脱しており、さらに先発を含め投手陣はボロボロで、投打ともに大谷に頼りっきりの状態が続いている。当たり前だが、チームにとってはレギュラー戦の方が重要で、オールスターゲームへの出場は大谷にとって大きな負担になり、そのリスクを避けたいという本音があるのかもしれない。  もしそうだとすれば、チームは今の大谷の起用法を大いに改める方が良いだろう。今季、大谷は先発登板の前後問わず、連日試合に出場し続けており、米メディアからも体調面を心配する声が多くあがっている。5月19日のインディアンス戦では、球速の低下が見られ、休養の足りなさが厳しく指摘された。もし、大谷がオールスターメンバーに選ばれなければ、オールスターブレイクと呼ばれる3日間を休養日に充てることができるので、チームはそれを目当てにし、大谷を出し続けて前半戦を乗り切ろうと考えているのかもしれない。  ただ、これらはあくまで現地メディアの予想であり、そもそも大谷がオールスターゲームに出場するには、ファン投票あるいは関係者投票で選ばれる必要がある。そして、その結果が出るのはまだ先の話だ。  だが、これだけ注目度が高い選手であればやはりその出場の実現を望む声は多く、メジャーリーグとしてもオールスターへの選出のみならず、ホームランダービーへの出場にも大いに期待している。特に、ホームランダービーは現地メディアも注目する。ホームランダービーはオールスターゲームの前夜に行われる名物イベントで、基本的にはオールスターに出場が決まっている選手のうち8人が選ばれ、トーナメント形式(3ラウンド)で本塁打数の合計を競い合うイベントだ。大谷は2019年に出場が期待されていたが実現せず、今年出場すれば、日本人初となるだけではなく、投手として史上初の快挙を成すことにもなる。  しかし、現状でいえば、大谷のオールスターゲームやホームランダービーへ出場は、すべてエンゼルス次第になるかもしれない。できれば、今の盛り上がりに水を差すような結果にならないことを望むばかりである。(澤良憲/YOSHINORI SAWA)
dot. 2021/06/07 12:06
大谷翔平を超える“怪物たち”… 数値で見るメジャーリーガーの驚異的な能力
杉山貴宏 杉山貴宏
大谷翔平を超える“怪物たち”… 数値で見るメジャーリーガーの驚異的な能力
エンゼルス・大谷翔平 (c)朝日新聞社  今やメジャーリーグ中継ではおなじみとなった「スタットキャスト(Statcast)」。ざっくり説明すると、レーダーや高性能カメラを駆使して様々なデータを計測・分析・数値化するシステムで、データ好きな野球ファンにはたまらないサービスだ。  その用途は多岐にわたっているが、例えば打球の飛距離やスピード、そして投球の球種ごとの平均球速や回転数なども各選手ごとに計測している。そして、それらのデータはメジャーリーグ公式サイト『MLB.com』で公開されており、そこには二刀流プレーヤーとして劇的なメジャーデビューを果たした大谷翔平選手(エンゼルス)が投打の両部門で上位にランクインしているのが確認できる(※以下のデータは現地5月19日終了時点のもの)。  投球の平均球速では、フォーシームが97.1マイル(約156.3キロ)、カッターが96.6マイル(約155.5キロ)でランクイン。特にカッターに関してはメジャートップの数字を大谷は叩き出している。  打球の平均速度は94.9マイル(約152.7キロ)で12位タイ。ちなみに打球の平均角度は7.3度。昨季のア・リーグ本塁打王に輝いたアーロン・ジャッジ(ヤンキース)が13.5度、ここまで今季13本塁打でア・リーグ3位タイのジョーイ・ガロ(レンジャーズ)の19.6度と比べると低く、大谷の打球はライナー性のものが多いことが見て取れる。  もっとも、そんな大谷よりも上の数値をマークしている選手たちが多いのもメジャーリーグのすごいところ。投球の平均球速で見ると、先発の大谷とは違って全力投球がしやすいリリーフ投手ではあるものの、今季にメジャーデビューを果たしたカージナルスの21歳右腕ジョーダン・ヒックスの数値が圧巻だ。  ヒックスのツーシームの平均球速はなんと99.4マイル(約160キロ)。そしてシンカーも99.2マイル(約159.6キロ)と驚異的なスピードを計時している。昨季までメジャーリーグの球速ナンバーワンとして君臨していたアロルディス・チャプマン(ヤンキース)でさえ、最も球速の出やすいフォーシームで98.8マイル(約159キロ)なのだから、ヒックスの球速は群を抜いている。特に5月1日のホワイトソックス戦で記録した102マイル(約164.2キロ)の超高速シンカーは、現役屈指の名捕手ヤディアー・モリーナでさえ捕球できないほどの球速と切れ味で、その場面をとらえた動画は瞬く間にファンたちの間で拡散していった。  ちなみに、ヒックスはここまでカージナルスの中継ぎとして19試合に登板して2勝1敗、防御率2.29。まだ緩急の使い方を完全にマスターしていないこともあって奪三振率は低め(9イニング平均で3.66個)だが、被打率.179、GO/AO(フライアウト1個に対するゴロアウトの割合)1.67と、対戦相手を高確率で凡打に打ち取っている。順当に行けば将来的には大投手となること間違いなしの逸材だ。  一方、バッティングに目を向けると、打球の平均速度ナンバーワンに君臨しているのは前述のガロ。24歳のメジャー4年目で、平均96.8マイル(約155.8キロ)の鋭い打球を飛ばしている。平均飛距離も前述のジャッジよりも上の233.8フィート(約71.3メートル)をマークしている。  ただし、ガロは典型的な「ホームランか三振か」のスラッガーで、41ホーマーを放った昨季もリーグワースト2位の196三振。今季も13本塁打の一方で、すでに65三振とシーズン200三振に到達するペースで打率.207と、極端な成績になっている。  打球スピードと飛距離の両立で言えば、メジャー3年目のヨアン・モンカダ(ホワイトソックス)もなかなかのもので、94.9マイル(約152.7キロ)と221.6フィート(約67.5メートル)を計時している。  今回注目した選手たちはいずれもまだ若く、ヒックスは21歳、モンカダは22歳、ガロは24歳だ。7月で24歳となる大谷を含めて将来的な伸びしろがまだまだ期待できる若手ばかり。彼らの肩やバットから繰り出されるスピード溢れるボールの行方には、今後もぜひ注目してもらいたい。(文・杉山貴宏)
dot. 2018/05/20 16:00
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