東京都在住の会社員、市橋孝則さん(仮名・38歳)は、システムエンジニアとして働いていた2004年、取引先のシステム作成の納期が迫り、まともに食事や睡眠がとれないほどの激務をこなしていた。何とか納期に間に合い仕事を終えると、緊張が解けたのか風邪をひいた。38度台の熱が出て1週間ほど寝込んだが、病院へは行かずに市販薬を服用し、やり過ごしていた。そのうち別のプロジェクトが始まり、再び多忙な日々が続いた。

 2カ月後、再度、発熱とともに猛烈な疲労感に襲われ、近所の内科を受診。血液検査などでは特に異常はなく、解熱剤などの薬で徐々に熱は下がり、少し調子が戻った。また仕事に励んだが、半年後ぐらいに、頸部のリンパ節が腫れ、咽頭痛や筋肉痛、関節痛も出てきた。市橋さんは、別の診療所を訪れたが、特に異常は指摘されず、疲労回復のためとビタミン剤を処方されただけだった。

 その後も症状は繰り返し、気分的に落ち込んできたため、今度は精神科を受診。問診後、軽度のうつだと言われ、抗うつ薬を処方された。気分はいくらかよくなったが、さまざまな症状は断続的に起こった。

 最初に調子が悪くなってから3年以上が過ぎたある日、友人が雑誌の記事で見つけた慢性疲労症候群という病気のことを教えてくれた。市橋さんはこの病気を疑い、日本大学板橋病院の心療内科を受診した。

「市橋さんはそれまでにあらゆる薬を処方され、長い間症状を繰り返していました。慢性疲労症候群の典型的な患者さんでした」

 そう話すのは、同科部長の村上正人医師だ。

 慢性疲労症候群は、原因は明らかではないが、感染症や日常におけるストレスなどをきっかけに、体調を崩し、不調がずっと続くようになる病気だ。重度の場合は、仕事を休職したり、ほとんど寝たきりになることもある。

 現在、「慢性疲労症候群臨床診断基準」にあてはまる患者は約30万人。その手前の状態である特発性慢性疲労は200万人から300万人とも言われる。病院を受診しても、血液検査、画像検査などでは異常が見られず、発熱や痛みなどに対して一般的な薬が処方されるだけで、病名がはっきりしないまま医療機関を渡り歩き、症状を悪化させることも多い。

「活動的で、一つのことにのめり込むタイプの人がなりやすい病気です。市橋さんは、仕事の能力が高く、完璧主義で強迫観念が強い傾向にありました。こういう人は過活動状態が続き、心身の疲弊をまねいて、生体防御能(免疫力)や自律神経機能が落ちてしまいます」(村上医師)

■慢性疲労症候群のセルフチェック
○全身の疲労・倦怠感が(ある時期を契機に)急激に始まった
○半年以上疲労が続き、十分な休養をとっても回復しない
○断続的に発熱が続き、首のリンパ節が腫れる
○繰り返すのどの痛みや発赤、風邪症状、頭痛
○原因のわからない筋肉痛、筋力低下、移動性の関節痛
○寝付けない、眠りが浅い、早く目が覚める、朝起き不良、日中の過度の眠気などの睡眠障害
○気分が落ち込むうつ症状、注意力・集中力の低下、物忘れ

 以上の自覚症状が一つ以上あてはまる場合、慢性疲労症候群の可能性も念頭において、近くの一般内科で、他の病気の除外も含めた診断を受けることが望ましい

週刊朝日 2015年1月30日号より抜粋