「私が何をされれば一番ダメージを受けるか、動物的なカンでよくわかっているんですよね」

 2年前に症状が悪化し、母が大暴れしたときに、美智子さんは警察を呼んで、母を精神科に強制入院させることにした。死ぬのは自分か母か。極限状態でのギリギリの判断だった。しかし、心身ともに疲弊している美智子さんを、親戚は「なぜ入院させたのか。年をとったのだから、仕方のないことだろう」と容赦なく追い詰めた。治療のおかげで母は落ち着き、退院後は穏やかな日々を送っている。しかし、わだかまりが消えたわけではない。今は母と手をつなぐのが、何よりも苦痛だ。

 子どもに対してトラウマとなるほど虐待や支配を行い、そして依存する親のことを「毒になる親(略して毒親)」と呼ぶ。毒親からひどい仕打ちを受けてきた人は、それを心の奥にしまい、生きづらさを抱えながら大人になるケースが多い。しかし、何とか親から離れて自分を取り戻しても、親の介護に直面し、再び親と向き合わざるを得なくなる局面が増えている。

 カウンセラーの信田さよ子さんは、介護を受ける親の気持ちについてこう分析する。

「介護によって、親子の力関係が逆転します。それまで子どもに対して圧倒的強者としてふるまっていた親は、その立場逆転が許せません。だから、いつまでも子ども、特に娘を支配下に置こうとして、一層ひどい言葉で傷つけるんです」

AERA 2013年10月14日号