●共振するテレビとソーシャルメディア

 多くの番組が「インターネット上で疑惑が指摘」「ネットで話題」といった言葉を使っていた2015年に起きた五輪エンブレム騒動をケースとして取り上げる。

 例えば、ソーシャルメディアと連携した番組を売りにしていた「NHK NEWS WEB」では、「ネットを通じて国民に審査される時代」「ネット社会は怖い」と番組に寄せられたツイートを紹介。テレビ朝日「グッド!モーニング」やフジテレビ「みんなのニュース」は、「ネット民大勝利」と掲示板の書き込みを紹介した。しかし、ネット民とは誰なのだろうかということを詳しく説明した番組は見られなかった。

 データ確認に利用したのは、ソーシャルメディアの書き込みを解析できるツール「ソーシャルインサイト」(ユーザーローカル社)である。収集したツイッターのデータは、15年7月20日から9月4日までの期間で、キーワードは「五輪エンブレム」で絞り込んだ。キーワードに関連するテレビ番組を表記する機能もあり、ツイート量とテレビ番組数を比較してみた。ツイートの最大値は9月1日の約11万、テレビは7月30日の19番組である(図1)。

 なお、ツイート数は世界にツイートされているすべてではなく、取得関連番組は五輪エンブレムについて報じているだけの可能性もあり、「炎上」に関係するかどうかは不明で、あくまで傾向を見ているに過ぎない。しかし概ねテレビ番組とツイート量は関連していることが分かる。

 7月30日前後の盛り上がりは、五輪エンブレムがベルギーにあるリエージュ劇場のロゴに似ていると指摘があったり、さらにスペインのデザイン事務所の作品に似ているとの指摘が上がったり、と疑惑が拡大する時期である。また8月6日前後の盛り上がりは、エンブレムの制作者が記者会見を開いたことに反応したものだ。その後も疑惑が拡大していくが、ツイート量は横ばいとなっている。

 最もツイートが多いのは、五輪エンブレムの使用中止が発表された9月1日だ。仮に炎上がツイート量なのだとすれば、炎上は終了時に起きたということになる。

●ネット民とは誰のことか

 ちなみに「ソーシャルインサイト」には、検索したキーワードに関連して発言しているユーザーを分析する機能もある。ユーザーのプロフィール欄に使われている言葉や書き込みを分析して、年齢や性別を推定している。ネット民とは誰なのか、参考に見てみよう。

 五輪エンブレムについてツイートしているユーザーは、プロフィール欄に〈日本人、反対、政治、原発、反日、音楽、アニメ〉などのキーワードを書き込んでいることが多い。よく発言しているキーワードは〈韓国、中国、日本人、産経、2ちゃんねる〉などだ。性別は男性が7割、女性が3割と推定している。このデータを見て、ひと括りでネット民と紹介するのは難しいだろう。

 これまでの研究でも、ネットで騒ぎを起こしたり極論を展開したりするのは少数であることが明らかになっている。

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