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テレビが”ネット炎上”を加速する

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法政大学社会学部 メディア社会学科准教授 藤代裕之GALAC

図1

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 大阪大学大学院の辻大介准教授が、“ネトウヨ”と呼ばれる人がどれくらい存在しているのか調査した「インターネットにおける『右傾化』現象に関する実証研究」(08年)では、一般的なインターネット利用者における比率は1%を下回ると推測している。

 東京工業大学の西田亮介准教授が毎日新聞と行った13年参院選におけるツイッター分析では、大きな割合を占めていると見られたキーワード「原発」は、関心を持つ個人や団体など特定の層がリツイートを繰り返したことで、ツイート数がオリジナルの3倍に膨らんだと見ている。

 本特集号でも寄稿している国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの山口真一講師の調査では、炎上に参加している人はネットユーザーのわずか0・5%である。

 少数の偏った極端なネットユーザーの声を、ネット全体の声としてテレビが紹介しているのではないかという疑惑は深まる一方だ。

●ネットの騒ぎは作り出せる

 ネットのニュースサイトがどのように報じているかも確認する。

 騒動は、15年7月28日にリエージュ劇場のロゴをデザインしたスタジオの関係者がツイッターに抗議の投稿を行ったことがきっかけだ。同29日には「まとめサイト」が報じ始める。バイラルメディアのnetgeek(ネットギーク)は、30日に、「【炎上】2020年東京オリンピックのロゴがまさかの丸パクリ!?海外からも大批判で開催中止の可能性も!?」と、炎上という言葉を使っている。

 テレビの制作担当者が、掲示板やツイートを一つ一つ確認しているわけではなく、ニュースサイトやまとめサイトなどのミドルメディアが「炎上」と報じたものを見て、判断している可能性が高い。炎上とは、一部のネットユーザーが騒ぎを起こし、ニュースサイトやまとめサイトが取り上げ、それをテレビがネタにして「ネットの声」として取り上げた結果という可能性が高い。

 ミドルメディアは運営会社が不透明であり、アクセスが集まれば良いとばかりに派手な見出しで煽ったり、掲示板のまとめを紹介する際に書き換えを行って虚偽のニュースを作りだしたりする非常に危険な存在だ。

 何らかの意図を持ったネットユーザー側からすれば、このような炎上の構造を理解していれば、騒ぎを起こしてマスメディアに報じさせることで、個人や企業に打撃を与えることが可能になる。あるコンピュータプログラムを使って、大量のツイッターアカウントやブログを操作し、騒ぎを作り出されたら見抜くのは非常に難しい。デマ画像すら判断できないテレビ局は、簡単に社会を誤ったメッセージを流してしまうだろう。

 ネットユーザーのお約束に「マスコミは取り上げない」というものがある。逆に言えば、取り上げてもらうことを渇望しているといえる。騒ぎを起こしたい一部のネットユーザーの発信にマスメディアが反応し、お墨付きを与えているという自覚があるようには見えない。筆者は、安易にマスメディアが扱うことに警告を発してきたが、危機感はほとんど見られない。

●テレビ制作者に求められるリテラシー

 「ネット社会は怖い」のでも「ネット民大勝利」でもない。五輪エンブレム騒動では、ネット上は決して批判的な声ばかりがあったわけではない。にもかかわらず、一方向の流れを作ったのはテレビである。社会にとって危険なのは、ネットではなくリテラシーが乏しいテレビである。

 実は、ネットで小さな波紋を起こしてマスメディアを動かしていく手法は世界に広がっている。例えば、アメリカ大統領選挙のドナルド・トランプ候補は、ソーシャルメディアで過激な発言を行い、騒ぎを作り出し、ネットニュースやテレビ番組に扱ってもらうことで、露出を増やしていくという戦法を駆使している。イギリスのEU離脱問題もまた同じ構造を持つ。本来マスでは扱われにくい過激な発言や偏った考えが、ネットとテレビの共振で広く流布するようになっている。

 繰り返しになるが、データを十分に確認せず、安易にネットの情報を扱い、民意のように見せることは非常に危険だ。ここで書いたようなことは、簡単なツールを使い、日頃からソーシャルメディアをよく見ていればわかる。取材する記者やスタッフもいるのであれば、取材を行って事実を確認し、さらに放送すべき社会性がなければ取り上げないという選択もあり得るはずだ。

 これまでジャーナリズムは反権力といった言葉に括られることが多かったが、その前に、真偽を確認し、データを分析し、社会的な意味を踏まえて報じるという基本的なスキルを見直すべきではないだろうか。メディアのメディアリテラシーが不足しているというのはあまりに残念である。


●ふじしろ・ひろゆき 徳島新聞の記者から、NTTレゾナント(goo)でニュースデスクや新サービス開発の担当を経て、現職。日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)代表運営委員。編著に『ソーシャルメディア論-つながりを再設計する-』。


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