きのうは東日本大震災の被災地、福島県新地町でロケをしてきました。ゲストは間寛平さんです。まず東京発7時16分の東北新幹線で仙台に行き、1時間ぐらい車に乗って10時過ぎにスタート地点の港近くに到着しました。そこで先乗りしている撮影クルーと合流し、準備をして10時半から撮り始め、16時過ぎに終了しました。いつも5時間半ぐらい撮っています。途中でゲストと鶴瓶さんが二手に分かれますから、素材は結構あって、いいシーンも落とさざるを得ないのが辛いところです。

 ディレクターやカメラマンには、代々引き継がれていることがあります。その一つが「ロケには脱ぎやすい靴で行く」ことです。急にお宅に上がるとき、ひもをほどくブーツなどだと鶴瓶さんの動きについていけません。

 「ロケ地は教えない」も大事な引き継ぎ事項です。我々が行くことを地元の人が事前に知ってしまうと、出会った瞬間の反応が違ってきてしまいます。予約している現地のタクシー会社から確認の電話が入ることもあるので、電話には「家族に乾杯班です」ではなく、「NHKです」と出ます。

 局内でも、各自の予定を書くボードに行き先は決して書かないし、文書も「ロケ地未定」で出しています。どこから漏れるかわかりませんから、極力秘密にしています。もし、あまりにも情報が洩れてしまうことがあったら、番組の根底にかかわることですので、ロケ地を変更するつもりでいます。

●鶴瓶さんは最高のインタビュアー

 鶴瓶さんとゲストがいっしょに歩いているときはカメラ2台で撮っていますが、二手に分かれてからは、それぞれ1台です。そのほうがドキュメントとしてのいきいきとした感じが出ると思います。鶴瓶さんの班は、カメラ、音声、照明の3人、ほかにディレクター、プロデューサーの私、もう1人のスタッフ、鶴瓶さんのマネージャーとスタイリストと、鶴瓶さんを含めて9人です。9人だと1台のジャンボタクシーに乗り切れるんですよ。機動力が求められるので、現地の道にくわしい地元のタクシー会社にいつもお願いしています。

 町で出会う人のなかには鶴瓶さんを知らない人もいるし、撮影をいやがる方もいます。そういうとき、僕らは離れたところにいるんですけど、鶴瓶さんが話していくうちに撮影がOKになることが多いんですよ。我々には計り知れない相手との呼吸の合わせ方があるんですね。単純にワーッと楽しいことを求めるのではなく、何か一つ「おっ」と思わせるような、出会った方の人柄に触れたいという思いがあって、じっくりお話を聴くことを大事にされています。最高のインタビュアーだと思います。

 番組が始まった20年前は、ぶっつけ本番のスタイルは珍しく、趣旨を説明するのが大変だったそうですが、今は散歩番組が増えてハードルが低くなりました。それでもヒヤッとすることは毎回あります。ここを自転車で走ってもいいのかとか、法律に反していないか、問題がないか、一瞬で判断しなくてはなりません。「確認が取れるまで1時間休憩です」としてしまうと、出演者のテンションも変わってきて、ぶっつけ本番感も薄れてしまいます。

 現在は一回のロケを前編、後編43分ずつに分けて放送していますが、4月からは73分の一話完結のスタイルに変わります。これまで以上に凝縮した面白い番組に進化させたいと思っています。 (インタビュー・文/仲宇佐ゆり)

●すぎやま・けんじ 1967年生まれ。91年NHK入局。入局以来、さまざまな音楽番組を制作。プロデューサーとしては、「NHKのど自慢」「NHK歌謡コンサート」を担当。2015年から「鶴瓶の家族に乾杯」を担当。